ODA(政府開発援助)
ODAメールマガジン第322号
ODAメールマガジン第322号は,エジプト・アラブ共和国からの「新たな段階への飛躍を遂げた日本とエジプトの関係」,「エジプトで実施中の代表的なODA案件の紹介」とシリーズ「中東の難民問題」第3弾としてヨルダン・ハシェミット共和国から「シリア難民を受け入れるヨルダン社会(ホスト・コミュニティ)」,シリーズ「TICAD VI」第1弾としてカメルーン共和国から「ドラム缶(!)で脱穀 陸稲振興技術協力プロジェクト【動画あり】」をお届けします。
新たな段階への飛躍を遂げた日本とエジプトの関係
原稿執筆:在エジプト日本国大使館 外山 裕司 二等書記官
エジプトはアジア・アフリカ・欧州の接点に位置しており,海上交通で欠かせないスエズ運河があり,地政学的な要衝に位置する大国で,中東・アフリカ地域における政治・経済の面でエジプトの存在感と役割は増加しています。
エジプトでは,2011年,2013年と2回の政変を経て,民主化に向けたロードマップが策定され,2014年6月にはエルシーシ大統領が就任し,議会選挙が平和裏に実施され2016年1月には議会が成立しました。現在エルシーシ大統領の下,経済・社会改革の取組や様々な大規模プロジェクトが進められています。
昨年1月の安倍総理大臣のエジプト訪問に続き,本年2月28日から3月2日,エルシーシ大統領がエジプト大統領として17年ぶりに日本を公式訪問し,日本とエジプトの関係は新たなステージを迎えました。
エルシーシ大統領と安倍総理の首脳会談においては,経済協力,ビジネスの分野において様々な合意がなされました。
教育分野では,教育は社会経済の安定実現のために極めて重要との認識のもと,「エジプト・日本教育パートナーシップ(EJEP)」が発表され,今後5年間で少なくとも2,500人のエジプト人の若者を日本に派遣するとともに,基礎教育,技術教育の分野で日本式教育をモデル校において実施していくことなどが合意されました。また,高等教育・科学技術協力の分野では,日本科学技術大学(E-JUST)の発展のため,日本政府が引き続き支援していくことを表明しました。
ODAでは,円借款3件(ボルグ・エル・アラブ国際空港拡張計画,配電システム高度化計画,ハルガダ太陽光発電計画)のE/N(交換公文書簡)が署名された他,既存の発電所の発電能力を向上・維持するための電力セクター復旧改善計画に日本が新規円借款を供与することが表明されました。これらの事業は,今後エジプトの経済開発・発展に大きく寄与していくことが期待されます。
経済分野では,第10回日エジプト経済合同委員会がエルシーシ大統領の出席も得て開催され,日本企業が参画する総額約2兆円規模の事業にかかるMOU(覚書)等の文書の署名が行われました。
エジプトで実施中の代表的なODA案件の紹介
原稿執筆:在エジプト日本国大使館 星野 有希枝 一等書記官
次に,エジプトで実施している代表的な経済協力案件のうち,(1)カイロ大学小児病院,(2)エジプト日本科学技術大学(E-JUST)をご紹介します。
(1)カイロ大学小児病院
エジプト政府は1979年の国際児童年以来,小児保健医療の水準向上を重要な政策として取り上げてきました。カイロ大学小児病院は,1982年に日本の無償資金協力により建設され,その後更なる無償資金協力による増築・改修を経て現在の姿になりました。加えて,我が国は,1983年から2002年にかけて断続的に,小児医療サービス技術の向上,小児心臓疾患に関する診療・治療技術を中心とした技術移転,救急医療体制の確立といった目的の技術協力プロジェクトを実施し,人材育成や医療サービス・技術の向上を図ってきました。この病院は,カイロ大学医学部附属の教育機関であると同時に,小児医療専門の公的医療機関として,エジプト国内における小児医療サービスの中核的役割を担っており,その高い技術と優れたスタッフを求めて全国各地から,時には周辺国からも患者が集まってきます。エジプトの人々は,この病院が日本の支援によるものであることをよく知っており,親しみを込めて「日本病院」と呼びます。近隣地に,新たな外来診療施設を無償資金協力により建設する計画が進んでいます。
(2)エジプト日本科学技術大学(E-JUST)
エジプトの大学では,学生数の急増による,教員一人当たりの学生数の増大,それに伴う教育の質の低下また研究資機材の不足等の問題を抱えています。
そのような状況の下,エジプト政府は国内の既存大学とは異なる,日本型の工学教育の特徴を活かした「少人数,大学院・研究中心,実践的かつ国際水準の教育提供」をコンセプトとするエジプト日本科学技術大学(以下,E-JUST)を新設するための支援を日本に要請し,2009年に両国政府は,E-JUST設立に係る協力枠組みを定めた二国間協定を締結しました。
これを受けた,「E-JUST設立プロジェクト」で日本は,日本の国内支援大学からの教員派遣や教育・研究用の高度な機材整備など,これまで5年間の支援で,工学系大学院8専攻の開設や財務管理体制の強化を支援してきました。これまでに,卒業学生を105名(修士59名,博士55名(2016年3月現在))輩出しています。今後も日エジプト両国が協力しつつ工学部開設など,E-JUSTの更なる発展を図っていきます。
シリア難民を受け入れるヨルダン社会(ホスト・コミュニティ)
原稿執筆:在ヨルダン日本国大使館 吉田 憲正 一等書記官
前回のメールマガジンでは,「ヨルダンにあるシリア難民キャンプ」について紹介しましたが,今回はシリア難民を多く受け入れているヨルダン社会について紹介したいと思います。
ヨルダンには120万人を超えるシリア人がおり,その約半分の63万人がUNHCRに登録された難民です。キャンプにいるシリア難民の合計は約12万人と増加傾向にありますが,それでもシリア難民全体の約19%に過ぎません。では,残りのシリア難民はどこにいるのかというと,ヨルダンの地域社会で生活しており,シリアとの国境に近い北部では,住民の半分以上がシリア難民となっているところもあります。
シリア難民を多く受け入れている地域社会は「ホスト・コミュニティ」と呼ばれています。ホスト・コミュニティでは,急激にシリア難民が増加したことから,次のような様々な影響が日常生活に生じています。
(1)教育:シリア難民の学童に教育を提供するため,多くの学校が午前・午後の2部制を採用した結果,学校が半日となった。
(2)医療:多くのシリア難民が医療機関を訪れるため,診察・診療の待ち時間が長くなり,開院時間内に対応してもらえない患者が出ている。
(3)ゴミ:地方自治体のゴミ収集及び処理機能が追いつかず,収集されないゴミが増え,町の景観が損なわれ,衛生状況が悪化する事態を招いている。
(4)家賃:急激な人口増加により家賃が高騰し,シリア危機以前の2倍以上に上昇した地区もある。
(5)雇用・賃金:シリア難民が不法に低賃金で働くため,ヨルダン人の職が奪われたほか,労働賃金が低下したとの声が上がっている。
日本をはじめとする国際社会は,主に上記(1)~(3)(行政サービスの低下)の問題に対応するため,ヨルダン政府と連携して支援に取り組んでいます。
それにしても,苦しい財政状況にあるヨルダンは,なぜヨルダン人の人口の20%にも相当するシリア人を受け入れ,教育や医療など基礎的なサービスを提供するような寛容な対応ができるのでしょうか。そこにはヨルダン社会の特徴と国家の歴史が関係しており,昨年末に行われた国勢調査の結果にも,その答えがあるのではと思います。
国勢調査の結果,ヨルダンの総人口は953万人で,国籍は,ヨルダン:660万人,シリア:126.5万人,エジプト:63.6万人,パレスチナ:63.4万人,イラク:13.1万人,イエメン:3.1万人,リビア:2.2万人,その他19.7万人です。自国の内戦や政情不安等からヨルダンに逃れてきている人口が大きな割合を占めていることが分かります。また,660万人のヨルダン人の約7割がパレスチナからの移民もしくは難民で,パレスチナ系ヨルダン人と言われています。つまり,アメリカが「移民の国家」と言われますが,ヨルダンは差し詰め「難民の国家」と言ってもよいとのだと思います。建国以来,難民を多く受け入れてきたヨルダン社会だからこそ,人口の2割に相当するシリア人を受け入れることが可能なのかもしれません。
ホスト・コミュニティに住む一般的なシリア難民の暮らしぶりですが,ヨルダン政府から教育,基礎医療サービスの提供や,国連,NGOなどによる食糧や現金支給の支援を受けながら,最低限の生活を維持している難民は少なくありません。以下は当館職員が訪れた,ヨルダン北部のホスト・コミュニティで暮らすシリア難民の生活です。
アローズ家(仮名,3世代),大人9人,子ども10人の計19人は,ヨルダン北部のイルビッド県のアパートで全員が生活しています。
家賃は150JD(約23,000円)で,国連やNGOからの家族全員への支援金の合計260JDから支払っています。食糧は国連(WFP)から支給される190JD(1人=10JD)で19人分を賄っています。
就労は違法となるため,アローズ家で働いている人はなく,収入は支給される190JDがすべてで,少ない蓄えを切り崩しながら凌いでいるようです。アパートの間取りは,小さなダイニングキッチンにリビングルームと寝室が2つで,19人は,リビングと寝室2部屋に分かれて寝ているとのことでした。アローズ家は,2012年にヨルダンに避難してきて以来,第三国への移住を希望しているようですが,話は進んでいないようです。
ドラム缶(!)で脱穀 陸稲振興技術協力プロジェクト【動画あり】
原稿執筆:在カメルーン日本国大使館 江草 恵子 一等書記官
「始めチョロチョロ中ぱっぱ,赤子泣いても蓋取るな」
-おいしい米の炊き方として昔から言われている口伝ですが,カメルーンでは,陸稲振興プロジェクトに携わる日本人専門家がカメルーン人農家の人々に,この日本人ならではの秘伝をわかりやすく伝える努力をしています。この「かゆいところに手が届く」きめ細かい技術指導を収めた動画をご覧頂く前に,本年8月にケニアで第6回会合が開催されるアフリカ開発会議(TICAD)とカメルーンの稲作プロジェクトについて簡単にご説明します。
ここカメルーンでは,2014年5月に第1回TICAD V閣僚級フォローアップ会合が開催されましたが,現在カメルーンで行われているプロジェクトの源は,更に2008年のTICAD IVに溯ります。そこで発表された「アフリカ稲作振興のための共同体(CARD)」は,サブサハラ・アフリカのコメ生産を向こう10年間で倍増することを目標とし,CARD支援対象国に選ばれたカメルーンでは,2008年のカメルーン国内のコメ生産量(10万トン)を向こう10年間で約10倍にすることを目標に掲げました。
そのための技術支援が,熱帯雨林地域陸稲振興プロジェクト(PRODERiP)。
カメルーン初の技術協力プロジェクトとして5年前に開始され,プロジェクト専門家の方々が,カメルーンの農業・農村開発省他関係者と共に陸稲の種子生産,種子配布,栽培,普及と収穫後処理の一連の活動に日々従事しています。
先日,専門家の方々がカメルーン人カウンターパート家族を招待し,「稲刈り」を行いました。私も子供達を連れて参加しました。鎌を使って稲を刈り取り,脱穀します。ここで登場したのが,なんと「ドラム缶」。ドラム缶にたたきつけて稲穂を振り落とすのです。
「千歯扱きは使わないのですか」と専門家に尋ねたところ,プロジェクトで普及しているイネ品種は脱粒性が高い(籾が落ち易い)ので千歯扱きを使うよりも容易に入手できるドラム缶にたたきつけるやり方が手っ取り早く脱穀でき,一番適しています」との答えが返ってきました。ストレス発散にもなるこの脱穀,貴重な体験でした。
動画:コルビソンの圃場
そして精米したコメを,かまどを使って炊きました。炊きたてのコメは,それだけでおいしくいただけます。この「おいしいコメの炊き方」を,カメルーン人カウンターパートにわかりやすく教えるために専門家が作成したのがこちら
動画:おいしいコメの炊き方
カメルーンの農家の方々からは,「村の品評会に出展したら賞をとった」「収穫物を販売することができて少ないながら利益を出すことができた」「種子を配布して終わりではなく,普及員が定期的に稲の様子を見に来てくれるので,相談できるのが魅力」と,嬉しい反応が寄せられています。今後,カメルーンでは更にパワーアップした稲作振興プロジェクトが開始される予定です。