ODA(政府開発援助)
万人のための質の高い教育
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日本は60年以上にわたり、政府開発援助(ODA)を通じた国際貢献を行ってきました。そして、従来から、人間の安全保障を推進するために不可欠な分野として、教育分野の支援を重視してきました。教育は、すべての人が等しく享受すべき基本的な権利であり、必要な技能の習得を通じて一人ひとりが自らの才能と能力を開花させ、運命を切り開いていくことを可能にすると同時に、それぞれの国の持続可能な開発の実現に重要な役割を果たします。また教育は、他者や異文化に対する理解と信頼を育み、平和を支える礎ともなります。日本は、今日に至るまで自らの近代化や戦後の高度経済成長、各種課題の克服の経験を活かして教育協力を実施しています。
教育分野における政策方針
開発協力大綱(平成27年2月閣議決定)での扱い(抜粋)
II 重点政策
(1)重点課題
ア 「質の高い成長」とそれを通じた貧困撲滅
世界には、いまだに多数の貧困層が存在しており、世界における貧困削減、とりわけ絶対的貧困の撲滅は、もっとも基本的な開発課題である。特に様々な理由で発展の端緒をつかめない脆弱国、脆弱な状況に置かれた人々に対しては、人道的観点からの支援、そして、発展に向けた歯車を始動させ、脆弱性からの脱却を実現するための支援を行うことが重要である。
同時に、貧困問題を持続可能な形で解決するためには開発途上国の自立的発展に向けた、人づくり、インフラ整備、法・制度構築、そしてこれらによる民間部門の成長等を通じた経済成長の実現が不可欠である。ただし、一定の経済成長を遂げた国々の中にも、格差の拡大や持続可能性の問題、社会開発の遅れ、政治経済的不安定等の課題に直面する国々があることに鑑みれば、その成長は単なる量的な経済成長ではなく、成長の果実が社会全体に行き渡り、誰ひとり取り残されないという意味で「包摂的」であり、環境との調和への配慮や経済社会の持続的成長・地球温暖化対策の観点を含め世代を超えて「持続可能」であり、経済危機や自然災害を含む様々なショックへの耐性及び回復力に富んだ「強靭性」を兼ね備えた「質の高い成長」である必要がある。これらは、我が国が戦後の歩みの中で実現に努めてきた課題でもあり、我が国は自らの経験や知見、教訓及び技術を活かし、「質の高い成長」とそれを通じた貧困撲滅を実現すべく支援を行う。
これらの観点から、インフラ、金融、貿易・投資環境整備等の産業基盤整備及び産業育成、持続可能な都市、情報通信技術(ICT)や先端技術の導入、科学技術・イノベーション促進、研究開発、経済政策、職業訓練・産業人材育成、雇用創出、フードバリューチェーンの構築を含む農林水産業の育成等、経済成長の基礎及び原動力を確保するために必要な支援を行う。同時に、人間開発、社会開発の重要性に十分に留意し、保健医療、安全な水・衛生、食料・栄養、万人のための質の高い教育、格差是正、女性の能力強化、精神的な豊かさをもたらす文化・スポーツ等、人々の基礎的生活を支える人間中心の開発を推進するために必要な支援を行う。
政策・イニシアティブ
(1)平和と成長のための学びの戦略
平成27年9月の「持続可能な開発のための2030アジェンダ」採択に係る国連サミットにあわせ、日本は教育分野における新たな戦略を発表しました。新しい戦略は、平成27年2月に閣議決定された開発協力大綱の教育分野の課題別政策として策定し、策定にあたって、開発教育専門家や教育支援NGO、関連国際機関等と幅広く意見交換を行いました。新戦略では基本原則として(1)包摂的かつ公正な質の高い学びに向けた教育協力、(2)産業・科学技術人材育成と社会経済開発の基盤づくりのための教育協力、(3)国際的・地域的な教育協力ネットワークの構築と拡大を挙げ、学び合いを通じた質の高い教育の実現を目指しています。今後、新戦略に基づき教育分野の支援に一層貢献していきます。
(2)日本の教育協力政策2011-2015
平成22年9月のミレニアム開発目標(MDGs)に関する国連首脳会合において、日本は教育分野における新たな5年間の協力政策を発表しました。この政策に基づき、万人のための教育(EFA: Education for All)及び教育関連MDGsの達成に寄与するため、2011年(平成23年)からの5年間で35億ドルの支援を行い、少なくとも700万人(延べ2,500万人)の子どもに質の高い教育環境を提供しています。基礎教育分野の支援に加え、疎外された子どもや脆弱国等支援の届きにくいところへも対応し、併せて、初等教育修了者の教育の機会継続にも配慮した支援を行っています。
(3)成長のための基礎教育イニシアティブ(BEGIN)(日本語/英語)
平成14年6月のG8カナナスキス・サミットにおいて、日本は、「成長のための基礎教育イニシアティブ(BEGIN: Basic Education for Growth Initiative)」を発表しました。これは、1990年(平成2年)と2000年(平成12年)に「万人のための教育(EFA: Education for All)」推進に係る世界会議が開催され、全ての人に基礎教育を提供することを世界共通の目標の一つとするという国際的なコンセンサスが形成されたことを踏まえ、日本としての具体的方策を打ち出したものです。
同じく平成14年6月のG8カナナスキス・サミットにおいて、日本は、EFAダカール行動の枠組みの目標達成に困難を抱えている低所得国を支援するため、向こう5年間で教育分野(留学生支援、職業訓練等を含む)へのODAを2,500億円以上行うこととし、着実な支援を行ってきました。
教育分野における事例
エジプト・日本教育パートナーシップ(EJEP)
エジプト大統領から人材育成に関する支援要請を受け、2016年2月に両国間で締結された「エジプト・日本教育パートナーシップ」のもと、日本はさまざまな支援を展開しています。このパートナーシップの3つの重要な試みは、1)規律や協調性といった学力以外の能力の向上に重点を置き、日本の教育の特色である掃除や学級会等の特別活動を導入すること、 2)就学前教育から高等教育に至るすべての教育ステージで包括的かつ集中的な支援を行うこと、3)エジプトから少なくとも2,500名の留学生を教育分野等で日本へ派遣することです。日本の教育の強みを活用したこれらの支援を通し、エジプトの若者の能力が強化され、エジプトひいては中東地域の安定と発展に貢献することが期待されています。
ミャンマーの初等教育支援
2011年の民政移管に伴い、ミャンマーは小学校のカリキュラム、教科書、教員養成、現職教員研修、学力試験(アセスメント)等の制度の包括的改革に着手しました。これは小学校の全学年(1~5年)、全科目(ミャンマー語、英語、算数、理科、社会、道徳・公民、ライフスキル、音楽、図工、体育の10科目)の教科書と教師用指導書の開発、さらに全国の現職教員研修や教員養成課程の教材開発を含む、広範にわたる改革です。日本の教科書会社による教科書開発ノウハウの提供や、日本の大学関係者による各教科内容の指導など、総合的な支援を実施しています。2021年までに全国児童540万人及び教師25万人が裨益する見込みです。
「みんなの学校」プロジェクト
サブサハラ・アフリカでは、子どもの約8割が基礎的な読み書き・計算スキルを習得していません。こうした深刻な学びの危機に対し、2004年に「みんなの学校」プロジェクトが日本の支援で始まりました。ニジェールから始まった「みんなの学校」モデルはその後、近隣の仏語圏5か国、マダガスカルやガーナにも拡大し、これまでに4万5千の小学校に導入されています。みんなの学校モデルの特長は、コミュニティ・行政・学校間の情報共有と協働により、すべての子どもが学べる学校づくりを実現していることです。このモデルは各国の就学率向上に貢献し、近年は子どもの読み書き・計算スキルの向上に大きな成果をあげています。また、みんなの学校モデルは、教育に限らずコミュニティの様々な課題を解決する可能性を持っています。例えば、マダガスカルでは自主給食運営や栄養啓発を通じて保健と栄養の課題に取り組んだり、ブルキナファソではエボラ出血熱に関する住民啓発に取り組んだりするなど、コミュニティのマルチセクターのニーズに応えています。
アセアン工学系高等教育ネットワーク(AUN/SEED-Net)
AUN/SEED-Netプロジェクトは、ASEAN諸国の持続的・安定的な経済開発とそれを支える工学系人材の養成を目的として、2003年のフェーズ1開始以来、ASEAN10カ国の工学系トップ大学26校を対象とした教育・研究能力向上支援を行っています。これまでにプロジェクトを通し、1,400名以上の大学教員の修士・博士号取得、200件以上の本邦大学・産業界との共同研究実施、工学分野の学術誌(ASEAN Engineering Journal (AEJ))の創刊等の成果を達成してきており、現在フェーズ4を実施中です。
学校教育システム外で行われるノンフォーマル初等教育支援及び成人識字教育支援
パキスタンの就学率及び識字率が極めて低い中、これらはフォーマル教育からのアプローチのみでの解決は難しいため、現地の文脈に柔軟に対応した「ノンフォーマル教育」システムの構築を支援しています。具体的には、ノンフォーマル教育を推進する基盤の強化、データに基づくノンフォーマル教育のマネジメントシステムの導入および質の高いノンフォーマル教育の提供体制の整備を行うことを通じ、初等教育及び成人識字教育の現地ニーズにあったカリキュラム、教科書を開発し、学齢期の不就学児童と読み書きのできない成人を対象に、基礎学力と識字力をつけるための良質な学習機会を提供しています。また、女児・女性の社会参加促進や生活ニーズに応えるよう、カリキュラムに健康、栄養、ライフスキルなどの項目を加えた学習支援を行っています。
国際機関・他ドナーとの連携・協力
(1)国連児童基金(UNICEF)との連携事例
UNICEFは、世界約190の国と地域で、子どもたちの権利、生命と健やかな成長を守るために活動している国連機関です。日本は、開発政策の推進のため、UNICEFとの連携を重視しており、様々なレベルにおいて政策協議を実施しつつ、教育、保健、栄養、水・衛生、子どもの保護などの分野でパートナーシップを強化しています。
イエメン
長期化する紛争の中でも子どもたちが教育を受け続けられるようにするため、日本政府はUNICEFと連携して支援を行っています。
イエメンでは紛争が続き、学校が破壊されていたり避難所として利用されているため、多くの学校が使用できません。日本政府はこのような状況下でも子どもたちが安全な環境で質の高い教育を受け続けられるよう、UNICEFと協力して4万3,000人以上の子どもに学習教材を提供し、学校の水と衛生設備の改善を行いました。また、教員やソーシャルワーカー、保護者に子どもへの心理社会的なサポートの研修行うことで、子どもたちが必要な心のケアを受け、安全に学べる環境を整備しています。
ラオス
就学前教育は幼い子どもたちの知的・身体的発達にとって非常に重要な役割を果たします。しかし、ラオスでは5歳児の3人に1人しか就学前教育に通うことができず、授業やサービスの質も地域によって差があります。
日本政府はUNICEFと連携して、ラオスの洪水の影響を受けた地域で暮らす子どもたちの就学前教育や初等教育の入学や効果的な学習を促進しています。例えば、就学前教育を促進させるため、教員に効果的な教育方法や防災や子どもへの心理社会的支援の研修を行いました。また、洪水の影響を受けた地域の学校にはトイレや手洗い場などの水と衛生施設の整備を行い、気候対応力のある水と衛生サービスの提供と維持を行えるよう、国家、地域、地方レベルで関係省庁の能力強化を支援しています。
(2)教育のためのグローバル・パートナーシップ(GPE)
GPEは教育支援に特化した国際的な資金調達メカニズムであり、政府、国際機関、市民社会、民間企業等、様々な関係者のパートナーシップで成り立っており、日本もドナーとして拠出しています。GPEは低所得国を中心とする68カ国のパートナー国に対し、それらの国が策定する教育セクター計画に基づき、実施される事業に対し、資金援助を行っている他、支援対象国の教育関係者の能力強化にも取り組んでいます。
広報イベント
持続可能な開発目標達成に向けた国際教育協力日本フォーラム(JEF for SDGs)
日本の教育分野の国際貢献の一環として、平成16年3月から文部科学省、外務省、広島大学、筑波大学の共催によりJEF(国際教育協力日本フォーラム)を開催してきました。本フォーラムは、開発途上国自身による自立的な教育開発の重要性とその自助努力を支援する国際教育協力の必要性について意見交換するとともに、日本の教育の経験と我が国の国際教育協力について広く世界に発信していくことを目的としています。
国連でSDGs(持続可能な開発目標)が採択されたことから、平成28年度からは持続可能な未来の達成に向けた教育協力・人材育成の一層の充実に向けてSDGsに焦点を当てた「JEF for SDGs」として実施することになりました。