ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
令和7年5月12日
作成年月日:令和7年3月15日
評価責任者:国別開発協力第一課長 榎下 健司
1 案件名
1-1 供与国名
パラオ共和国(以下、「パラオ」という。)
1-2 案件名
コロール州及びアイライ州における上水道整備計画
1-3 目的・事業内容
コロール州とアイライ州において、配水管の更新及びスマートメータの設置を行うことにより、無収水の削減及びデジタル化推進による上水道事業の管理能力の強化を図り、もって気候変動等による干ばつに強靭な水供給の実現に貢献するもの。供与限度額は25.46億円。
1-4 環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点
本計画は、JICA環境社会配慮ガイドライン(2022年1月制定)におけるカテゴリBであり、環境への望ましくない影響は重大ではないと判断される。
2 無償資金協力の必要性
2-1 必要性
- (1)パラオ(一人当たり国民総所得(GNI)14,100米ドル)は、OECD開発援助委員会(DAC)の援助受取国リスト上、高中所得国に分類されている。
- (2)パラオでは干ばつがたびたび発生し、2016年に発生した大規模な干ばつに際しては、水不足による長期に亘る計画断水と給水制限が行われ、衛生状態の悪化や、給水制限、断水等により、パラオ経済を支える観光業にも悪影響を及ぼした。パラオ政府はこの干ばつを教訓として、貴重な水資源の有効利用という観点からも、漏水量の削減などの無収水対策を重要視している。
- (3)パラオ政府は、上下水道分野を国家インフラ投資計画におけるインフラ投資の優先分野であると位置づけて、その課題について、ア 漏水の多さ、イ 不適切な検針・料金請求、ウ 干ばつによる断水被害と気候変動による干ばつ頻度の上昇リスク等を挙げ、水道インフラへの投資や上下水道の管理能力強化等に取り組んでいる。
- (4)日本は、日本統治時代(1940年代)に敷設した配水管(アスベスト管)の老朽化にともない、2015年~2018年に無償資金協力「上水道改善計画」を実施し、送水管増設、専用送水管の敷設、配水区の整理等を実施した。その結果、送水能力をほぼ倍増させ、低い給水サービスが懸念される低水圧地域を解消したが、配水管の更新は一部しか行われなかったため、引き続き課題となっている。配水管更新にあたっては、その管網図が無いことや管路更新計画の策定に課題があったため、2022年から技術協力プロジェクト「無収水削減能力向上プロジェクト」にて、パラオの水道事業を担うパラオ公共事業公社(以下、「PPUC」という。)に対し、管路更新計画策定や漏水探知などの能力強化を実施してきた。これらの協力により、PPUCの上水道事業の管理能力は改善されてきたが、依然として無収水率は52.1%(2024年)と高い値となっている。その要因は、未だ残されている老朽化した配水管の劣化、これまで更新されてきた配水管(旧管)からの切り離しが適切に行われておらず、新管から旧管へ逆流していることが考えられる。無収水を要因として、PPUCの料金収入の原価回収率は約58.8%(2022年)となり、PPUCは上下水道部門の支出の多くを政府助成金に依存せざるを得ず、財政基盤が脆弱な状況にある。また、現場作業が非効率的であることが指摘されており、正確な水道料金徴収や検針作業の効率化及び水需要の分析等による運転・維持管理業務の効率化のためには、スマートメータ等によるデジタル化推進が急務である。
- (5)本事業は、コロール州及びアイライ州において、老朽化した配水管の更新及びスマートメータの設置による、無収水の削減を行うものである。
- (6)第10回太平洋・島サミット(PALM10)(2024年7月)において、我が国が表明した7つの重点分野のうち、「気候変動と災害」及び「技術と連結性」に合致し、自由で開かれたインド太平洋(FOIP)第二の柱「インド太平洋流の課題対処」における「太平洋島嶼国における気候変動・環境対策とエネルギー安全保障の両立」に資する。さらに、岸田前総理が2022年4月開催の第4回アジア・太平洋水サミットで発表した「熊本水イニシアティブ」に「質の高い水供給」の点で貢献する。また、対パラオ共和国国別開発協力方針(2019年4月)の重点分野「社会基盤・産業育成基盤の強化」及び「気候変動・環境問題・防災への対応」の気候変動等への対応に合致する。さらに、SDGsゴール6「万人の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理の確保」及びゴール13「気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる」に貢献する。
- (7)パラオの所得水準は相対的に高いことから、「所得水準が相対的に高い国に対する無償資金協力の効果的な活用について」に基づき、無償資金協力の供与の適否について精査が必要である。パラオは小島嶼国であり、水資源が限定的で気候変動を含む自然環境の変化に脆弱である(「環境的脆弱性」)とともに、経済規模が小さく政府予算も極めて小規模である(「経済的脆弱性」)。また、小島嶼国が影響を受けやすい気候変動に対して先進国である日本も応分の貢献が求められ(「地球規模課題への対応」)、FOIP実現の観点からもパラオとの緊密な二国間関係の維持が重要である(「外交的観点」)。
上記を踏まえ、無償資金協力として本計画を実施する意義は高い。
2-2 効率性
計画段階において、裨益者に対する効果の最大化を重視して適正な仕様・規模を検討した。先方実施機関の施設の運転における無収水率の削減、給水圧の最適化、検針や機器測定に係る現場作業の効率化を目指すことで、水資源の有効利用につながるだけではなく、営業収入の増加と電力費等の削減等による経営改善を図ることで、安定的な水道事業により裨益者に対する安全かつ安定的な給水に寄与することが期待される。また設計手法において、配水区域の再編による電力費等の削減を目指し、効率的・合理的な施設運営となるようコスト縮減を目指した。
2-3 有効性
本計画の実施により、2024年の実績値を基準値として、事業完成3年後の2031年の目標値を比べて、以下のような成果が期待される。
- 定量的効果
- 管路更新エリアの無収水率(%)が、52.1%から37.3%となる。
- 末端給水圧が20psi以上/最大静水圧110psi以下から最小動水圧20psi以上/最大静水圧80psi以下に最適化される。
- 施設の運転における検針や機器測定にかかる現場作業時間が678時間/月から286時間/月に効率化される。
- 定性的効果
- 施設の運転における検針データや機器測定データの精度が向上する。
- 施設の運転における検針や機器測定にかかる現場作業の効率化により、現場作業員の労働環境が改善され、現場作業員の健康状態の改善に貢献する。
- 漏水削減とデジタル技術の活用による上水道の管理能力強化により、PPUCの経営が改善および時間制限給水が緩和され、気候変動等による干ばつ時を含め安定的な水道事業が実現される。
3 事前評価に用いた資料及び有識者等の知見の活用等
- パラオ政府からの要請書
- JICAの調査報告書(JICAを通じて入手可能)
- 太平洋島嶼国のODA案件に関わる日本の取組の評価(2015年度・第三者評価)