ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
令和7年3月31日
評価年月日:令和7年3月24日
評価責任者:国別開発協力第二課長 廣瀬 愛子
1 案件概要
(1)供与国名
インド
(2)案件名
チェンナイ海水淡水化施設建設計画(第二期)
(3)目的・事業内容
タミル・ナド州チェンナイ都市圏において、海水の淡水化施設及び送水・配水施設の建設・改善を行うことにより、安全かつ安定的な上水道サービスの向上を図り、もって地域住民の生活環境の改善及び投資環境改善に寄与するもの。
- ア
- 主要事業内容
- (ア)海水淡水化プラント(生産水量400MLD)の建設
- (イ)送水ポンプ場・配水池の建設
- (ウ)送水管の敷設
- (エ)チェンナイ市内配水管網の増強・新設、給水装置(メーター含む)の設置・更新等
(注)実施機関負担により実施 - (オ)外部電源供給ラインの敷設
- (カ)コンサルティング・サービス:概略設計、詳細設計、入札補助、施工監理、経営改善支援、住民啓発活動支援等
- イ
- 供与条件
供与限度額 金利 償還(うち据置)期間 調達条件 525.56億円 2.45% 30(10)年 一般アンタイド - (注)コンサルティング・サービス部分は金利0.55%を適用。
(4)環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点
- ア
- 環境影響評価(EIA)
本計画は、「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン」(2010年4月公布)に掲げる影響を及ぼしやすいセクター・特性及び影響を受けやすい地域に該当せず、環境への望ましくない影響は重大でないと判断されるため、カテゴリBに該当する。本計画に係るEIA報告書は、環境森林気候変動省により2018年10月に承認済み。 - イ
- 用地取得及び住民移転
本計画では、30年のリース契約により用地確保するため用地取得及び住民移転を伴わない。なお、周辺漁民への影響については、工事中は濁水への対策が講じられ、供用時は排水を施設内で処理した上で放水し、濃縮塩水排水は拡散により塩分濃度増加が抑えられるため、負の影響は限定的となる見込み。 - ウ
- 外部要因リスク
特になし。
2 資金協力案件の評価
(1)必要性
- ア
- 開発ニーズ
本計画の対象地域はインド南部タミル・ナド州の州都チェンナイ都市圏であり、その人口は約869万人(2011年)である。チェンナイ都市圏では、2023年の水の需要量は1,400MLD(140.0万立方メートル)であるのに対し、供給量は約1,015MLD(約101.5万立方メートル)に留まる等、水不足の状態にある。チェンナイ都市圏の人口は2035年には1,500万人を超え、経済発展が見込まれる中、上水道の供給量不足は一層深刻になることが想定されている。同都市圏周辺には日本企業(2022年10月時点で357拠点、在インド日本国大使館HPより)を含め海外企業も数多く進出しており、深刻な水不足は投資環境にも大きな影響を与えている。
また、対象地域では、水源不足のため表流水や地下水からの取水では膨大な需要を満たすことが困難であり、また表流水は乾期の渇水の影響も受けやすいことから、海水淡水化の計画が策定されており、既存の海水淡水化プラント(計360MLD)に加えて給水能力の増強が予定されている。本計画は、これら課題解決のために同市が策定した上下水道マスタープランに従い、同都市圏において安全かつ安定的な水資源の確保に向けた取組みの一つとして位置付けられるものである。 - イ
- 我が国の基本政策との関係
我が国の対インド国別開発協力方針(2023年11月)では、「クリーンな社会経済開発」を重点分野として定め、「環境問題・気候変動への対応」の一環として上水道への支援を位置付けている。また、対インドJICA国別分析ペーパー(2018年3月)において、重点分野の一つ「持続的で包摂的な成長への支援」の中で「上下水道・衛生改善・公害防止対策プログラム」を掲げ、同国の経済成長の持続性実現や、その恩恵が社会に衡平に共有されるための支援を行っている。さらに、本事業は安定した水供給及び水資源管理による気候変動への対応等の観点から、自由で開かれたインド太平洋(FOIP)のための新たなプランにおける「インド太平洋流の課題対処」の取り組みの柱に位置付けられるものである。加えて、JICAグローバル・アジェンダにおいても、「水資源・水供給(持続可能な水資源の確保と水供給)」を掲げており、協力方針として水道施設の拡張・整備による料金収入基盤の拡大とサービス改善等を通して水道事業体の成長を支援するとしており、本事業はこれら方針・分析に合致するものである。
本計画は上記のとおり、インドの開発課題・開発政策並びに我が国及びJICAの協力方針・分析と合致するほか、SDGsのゴール6「すべての人に対する持続可能な水源と水と衛生の確保」に貢献すると考えられることから、本事業の実施を支援する必要性は高い。
また、近年の日印首脳会談において「日印特別戦略的グローバル・パートナーシップ」の下、両国関係を更に発展させることを累次にわたり確認してきており、両国の関係強化は着実に進んでいる中、円借款を始めとするODAを通じて、経済・社会開発を進める世界最大の民主主義国であるインドの発展を支援することは、二国間関係の更なる強化につながるものであり、外交政策上の意義も高い。
加えて、2022年4月の第4回アジア・太平洋水サミットで岸田総理が発表した、日本政府による「熊本水イニシアティブ」では、世界の水関連の取り組みを加速化するとしており、本案件は同イニシアティブにも合致する。
(2)効率性
上水道事業においては、サービスに対する需要と住民の支払い意思額・能力を的確に予測することで、最大限の受益者負担を可能とする料金体系及び水道メーターの普及についての現実的な計画を検討する必要がある。本事業においては、実施機関側のコスト回収と消費者側の支払い能力を勘案した水道料金の改定が順次進められていることを確認している。また、2022年に制定された水道メーター政策においてチェンナイ市における将来的な水道メーター設置率を100%とする目標が定められ、本事業を含めた複数のプログラムで着実なメーター設置が計画されていることを確認するとともに、コンサルティング・サービスにて財務体質強化に向けた能力開発・助言を行っており、水道メーターの普及等を支援する予定である。
(3)有効性
本計画の実施により、事業完成2年後(2030年)には、2023年比で以下のような成果が期待される。
- ア
- 定量的効果
- (ア)チェンナイ市給水人口は、857万人から967万人に増加する。
- (イ)パイプ給水率は、86%から97%に上昇する。
- (ウ)メーター設置率は、3%から28%に上昇する。
- イ
- 定性的効果
水質満足度及び水圧満足度の向上(顧客調査/サンプル調査)及びチェンナイ都市圏における安全かつ安定的な水道サービスによる生活環境の改善(住民の健康状態の改善等)、経済的・社会的発展の促進(同都市圏の経済成長、投資促進等)。
3 事前評価に用いた資料、有識者等の知見の活用
要請書、インド国別評価報告書(2017年度・第三者評価)、国際協力機構環境社会配慮ガイドライン、その他JICAから提出された資料。
案件に関する情報は、交換公文締結後に公表される外務省の約束状況に関する資料及び案件概要、借款契約締結後公表されるJICAのプレスリリース及び事業事前評価表
を参照。
なお、本案件に関する事後評価は、実施機関であるJICAが行う予定。