ODA(政府開発援助)

令和7年3月26日

評価年月日:令和7年3月21日
評価責任者:国別開発協力第二課長 廣瀬 愛子

1 案件概要

(1)供与国名

 バングラデシュ人民共和国(以下、「バングラデシュ」という。)

(2)案件名

 マタバリ超々臨界圧石炭火力発電計画(第八期)

(3)目的・事業内容

 本計画は、バングラデシュ南東部チョットグラム管区マタバリ地区に定格出力1,200メガワット(約600メガワット×2基)の高効率の超々臨界圧石炭火力発電所、石炭輸入用港湾、送電線、アクセス道路等の関連設備を建設することにより、同国における電力供給の拡大やエネルギー源の多様化を図り、もって同国における経済全体の活性化に寄与するもの。なお、今次借款は輪切り8期目として2025年4月以降の資金需要に対応するもの。

主要事業内容
  • (ア)超々臨界圧石炭火力発電所建設(約600メガワット×2基)、石炭搬入用港湾建設
  • (イ)送電線建設(送電線約94キロメートル、鉄塔等)
  • (ウ)アクセス道路整備(橋梁約900メートル、新規道路建設約7.4キロメートル、既存道路補修約5.2キロメートル等)
  • (エ)周辺地域電化(送電線約25キロメートル、変電所、配電設備)
  • (オ)コンサルティング・サービス(基本設計/詳細設計、入札補助、施工監理、組織強化等)
供与条件
供与限度額 金利 償還(うち据置)期間 調達条件
571.20億円 1.95% 30(10)年 アンタイド

(4)環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点

環境影響評価(EIA)
 本計画は、「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン」(2010年4月制定)(以下、「JICAガイドライン」という。)に掲げる火力発電セクターに該当するため、カテゴリAに該当する。発電所及び港湾の建設・整備に係るEIAは2013年10月に、送電線及びアクセス道路の建設・整備に係るEIAは2013年11月に、バングラデシュ国環境森林省環境局(DOE)により承認済み。周辺地域電化事業(送配電網の建設)に係るEIAは2015年10月にDOEより承認されている。その後、発電所及び港湾の建設・整備において、港湾部分のスコープを追加(防波堤建設、航路拡幅及び泊地工事)する必要性が生じているが、「マタバリ港開発計画」の一部としてEIA報告書が作成され、2018年11月にDOEにより承認されている。同様に、送電線ルートが変更となったものの、「ダッカ-チッタゴン基幹送電線強化計画」の一部としてEIA報告書が作成され、2016年9月にDOEにより承認されている。また、アクセス道路のルート・設計等の変更に伴い、アクセス道路の建設・整備に係るEIAは複数回改定され、最新版は2022年1月、2022年6月に,それぞれDOEにより承認されている。
用地取得
 発電所・港湾に係る用地取得面積(約709ヘクタール)の一部は、乾季は塩田、雨季はエビの養殖場として利用されていた。発電所・港湾の建設・整備による被影響住民は約2,500人であり、アクセス道路の新設及び補修(橋梁約900メートル、新規道路建設約7.4キロメートル、既存道路補修5.2キロメートル部分)に係る用地取得(事業用地約41ヘクタールのうち用地取得面積は約11ヘクタール)に伴い、102世帯(非正規居住世帯を含む)、580人の住民移転が発生する。送電線建設及び周辺地域電化については実施機関所有地又は政府所有地を活用するため、用地取得及び住民移転は発生しない。
 本事業全体で発生する被影響住民に対する補償支払いは、JICA環境社会配慮ガイドラインに沿って作成された住民移転計画(RAP)に従い概ね完了しており、未了分についても手続きが進められている。また、RAPに従い現地ステークホルダー協議が実施され、実施機関の適切な対応により、参加者からの理解が得られている。
外部要因リスク
 特になし。

2 資金協力案件の評価

(1)必要性

開発ニーズ
 バングラデシュでは、近年の経済成長や工業化の進展等により電力需要が急増しており、2021年から2041年にかけて9.3%の増加が見込まれる一方、発電の約6割を依存していた国内産天然ガスの産出量は頭打ちしている。同国は2018年から液化天然ガス(LNG)の輸入を開始しているが、特定のエネルギー源への過度な依存はエネルギー安全保障上の問題を発生させるリスクがあり、同国の電力マスタープランでは、国内産天然ガスでは賄いきれない電力需要増加に対応するエネルギー源として、輸入LNG、輸入石炭及び原子力を活用する方針が示されており、超々臨界圧石炭火力発電を含む輸入LNGより経済性に優れる発電手段の活用も計画されている。
 バングラデシュにおいて、エネルギー源の多様化を実現し、将来の電力供給において十分な安定性と予備力を確保する上で信頼性の高いベースロード電源を開発する本計画は、同国の開発ニーズに対応している。
我が国の基本政策との関係
 バングラデシュは、南アジアと東南アジアの結節点に位置し、南アジア地域の安定と経済発展に重要な役割を果たしており、日本が「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」を進める上で重要なパートナーである。FOIPのための新たなプランでは、第三の柱「多層的な連結性」の具体的な取組の一つに「ベンガル湾産業成長地帯(BIG-B)構想」の推進が掲げられ、その一例として本計画を含むマタバリ地域開発が挙げられている。
 また、我が国の対バングラデシュ国別開発協力方針(2018年2月)では、重点分野の一つ「中所得国化に向けた、全国民が受益可能な経済成長の加速化」において、BIG-B構想を中心とした協力を行い、持続可能な経済成長の加速化を支援することとし、経済発展の最大の障害である深刻な電力・エネルギー不足の解消のため、発電所及び送配電網の整備などを通じて、電力・エネルギーの安定供給を図ることを定めており、本計画はこれに該当する。電力供給の拡大・安定化を通じ、同国の産業基盤強化につながる発電所の建設は、SDGsのゴール7(エネルギーアクセス)及びゴール9(強靭なインフラ整備)にも貢献する。
 なお、我が国は「インフラシステム海外展開戦略2025(令和5年6月追補版)」(2022年6月)において、「排出削減対策が講じられていない国際的な化石燃料エネルギー部門への新規の公的直接支援を2022年末までに終了する」ことを定めているが、本計画は既に実施中の段階にあったことから、支援終了の対象外と整理されている。

(2)効率性

 発電所及び石炭搬入用港湾について、発電所・港湾建設のコントラクター及びコンサルタントがバングラデシュ石炭火力発電会社(CPGCBL)に対し、関連の技術移転(組織強化支援と石炭調達支援を含む)を行っているほか、今後長期保守契約(LTSA)に係る契約を締結予定。CPGCBLは発電所及び石炭搬入用港湾の運営・維持管理に必要な要件を満たす人員の雇用計画を策定しており、必要な体制・人員を順次確保している。
 チッタゴン港湾庁(CPA)が運営・維持管理する航路・泊地・防波堤、バングラデシュ送電会社(Power Grid)が運営・維持管理する送電線並びに道路交通橋梁省道路・国道部(RHD)及び水資源開発庁(BWDB)が運営・維持管理するアクセス道路については、各機関とも類似事業において十分な経験と能力を有する。

(3)有効性

 バングラデシュ南東部チョットグラム管区マタバリ地区に定格出力1,200メガワット(約600メガワット×2基)の高効率の超々臨界圧石炭火力発電所、石炭搬入用港湾、送電線、アクセス道路等の関連設備を建設することにより、2026年を目処に年間7,865ギガワットアワーの発電量が生み出される見込みである。これにより、同国における電力供給の拡大やエネルギー源の多様化が図られ、もって同国における経済全体の活性化に寄与することが期待される。

3 事前評価に用いた資料、有識者等の知見の活用

 バングラデシュ政府からの要請書、バングラデシュ国別評価報告書(2023年度・第三者評価)、JICAガイドライン、その他JICAから提出された資料。
 案件に関する情報は、交換公文締結後公表される外務省の約束状況に関する資料及び案件概要、借款契約締結後公表されるJICAのプレスリリース及び事業事前評価表を参照。
 なお、本計画に関する事後評価は、実施機関であるJICAが行う予定。

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