ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
評価年月日:令和7年3月21日
評価責任者:国別開発協力第二課長 廣瀬 愛子
1 案件概要
(1)供与国名
バングラデシュ人民共和国(以下、「バングラデシュ」という。)
(2)案件名
食品安全検査能力向上計画
(3)目的・事業内容
首都のダッカ市を始めとする主要都市において、十分な科学的根拠に基づく食品安全検査が実施可能となるインフラ整備等を行うことにより、食品安全庁(BFSA)の食品安全検査能力の向上を図り、もって食品加工業の振興、産業多角化、安全性の低い食品に起因する疾病の予防等に寄与するもの。
- ア
- 主要事業内容
- (ア)ダッカ市における食品安全検査棟、事務所棟、研修棟の建設
- (イ)チョットグラム市、クルナ市における食品安全検査施設、事務所棟の建設
- (ウ)検査機材の整備(残留農薬検査機器、重金属・鉱物検査機器、微生物検査機器等)
- (エ)コンサルティング・サービス(詳細設計、入札補助、施工監理、組織体制及び検査能力強化等)
- イ
- 供与条件
供与限度額 金利 償還(うち据置)期間 調達条件 286.99億円 1.85% 30(10)年 アンタイド
(4)環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点
- ア
- EIA(環境影響評価)
本計画は、「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン」(2022年1月公布)上、環境への望ましくない影響は最小限であると判断されるため、カテゴリCに該当する。 - イ
- 外部要因リスク
特になし。
2 資金協力案件の評価
(1)必要性
- ア
- 開発ニーズ
バングラデシュの食品検査体制は脆弱であり、農薬・化学肥料の過剰使用、飼料や水に含まれる基準値を超える鉛や重金属等の化学残留物による農畜水産物への汚染、食品加工段階での過剰な保存料・着色料の使用等、食品の安全性が問題視されている。また、汚染された食品の摂取を原因とする、下痢性疾患やA型・E型肝炎等による健康被害が報告されている。
同国は2015年、消費者の健康保護を目的とした食品安全庁(BFSA)を食糧省傘下に設置し、フードチェーン全体の安全性モニタリング、関連機関による食品安全関連法規遵守のための監理・調整、食品安全行政における科学的知見に基づく横断的管理等を目指しているが、食品安全検査の信頼性を高めるための検査施設や検査機材、人員体制が不十分であることが課題となっている。
また、同国は2026年のLDC(後発開発途上国)卒業後に備え、縫製業に依存する産業構造からの脱却や高付加価値輸出産業の育成を図る中、「国家産業政策2022」において、食品加工業発展の加速化に向けた農業と産業の連携強化を掲げているほか、輸出多様化に向けた農産品・食品加工業を重要セクターに位置付け、農産品や加工食品等に対する安全性の向上、輸出品目の増加や高付加価値化に繫がる食品検査体制の整備、輸入食品の検疫検査を通じた健康に有害な食品の国内流通の防止に関する体系化された検査システム構築が求められている。 - イ
- 我が国の基本政策との関係
2023年3月に発表された「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」のための新たなプランでは、第二の柱「インド太平洋流の課題対処」の取組例「食料安全保障」において、食料の生産・加工から消費に関わる一連の繋がりを強化し、強靭で持続可能な食料システムを構築することが挙げられている。同様に、第二の柱の取組例「国際保健」では、地域の健康安全保障強化の実現が挙げられている。本計画は、これらいずれの取組例にも合致する。
また、我が国の対バングラデシュ人民共和国国別開発協力方針(2018年2月)における重点分野「中所得国化に向けた、全国民が受益可能な経済成長の加速化」では、高度経済成長の実現に向けて民間セクター活動の振興及び人材育成に幅広く取り組むこと、もう一つの重点分野「社会脆弱性の克服」では、農村部の生活環境改善・生計向上に資する支援、非感染性疾患対策を中心とする公的保健サービスの質の改善・強化支援を行うことでユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の達成に貢献することを方針として示しており、本計画は国別開発協力方針にも合致する。
本計画は食品安全の向上を通じて、これらの協力方針を具現化するものであり、SDGsのゴール2(飢餓をゼロに)、ゴール3(すべての人に健康と福祉を)、ゴール9(産業と技術革新の基盤をつくろう)に貢献する。
(2)効率性
技術協力「バングラデシュ食品安全庁査察・規制・調整機能強化プロジェクト」(2021-2026年)では、本計画の実施機関であるBFSAの行政能力向上や立入検査体制の構築のほか、食品安全監視に必要な簡易試験検査の定着を図っている。また、同技術協力プロジェクトでは、食品検査結果をデジタルで集約・管理するためのデータ登録・収集システムの試行的構築や、省庁間調整を通じた一元的な食品営業許可制度の体制整備支援等を実施する等、本計画による食品安全検査棟や検査施設・機材が整備されるまでに、広範かつ精密で信頼性の高い食品検査体制が整うよう並行した取組がなされている。また、本計画で整備される施設及び機材の運営・維持管理を行うBFSA側でも、段階的に1,000人規模の新たな職員の採用計画を進めており、人材育成のために、コンサルティング・サービスによる国内外での技術研修等を通じた関連の技術移転・能力強化を予定している。
なお、技術協力「マルチステークホルダー連携による小規模園芸農家のための市場志向型農業振興プロジェクト」(2021-2025年)では、市場のニーズに合う付加価値の高い作物の生産性向上に資する技術支援を実施中であり、特に残留農薬や残留抗生物質に対する基準と検査体制が整備された後には、より安全性の高い作物が流通することが見込まれている。
(3)有効性
本計画により、2033年(事業完成2年後)には、年間の微生物検査数は37,440件、理化学検査数は31,800件となる。
また、食品安全の向上を通じて、同国の中所得国化に向けた、全国民が受益可能な経済成長の加速化、及び社会脆弱性の克服に寄与することが期待される。
3 事前評価に用いた資料、有識者等の知見の活用
バングラデシュ政府からの要請書、バングラデシュ国別評価報告書(2023年度・第三者評価)、JICAガイドライン、その他JICAから提出された資料。
案件に関する情報は、交換公文締結後公表される外務省の約束状況に関する資料及び案件概要、借款契約締結後公表されるJICAのプレスリリース及び事業事前評価表を参照。
なお、本計画に関する事後評価は、実施機関であるJICAが行う予定。