ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
評価年月日 令和6年5月8日
評価責任者 国別開発協力第一課長 鴨志田 尚昭
1 案件概要
(1)供与国名
インドネシア共和国(以下、「インドネシア」という。)
(2)案件名
ジャカルタ首都圏都市高速鉄道東西線計画(フェーズ1)(第一期)
(3)目的・事業内容
本計画は、交通混雑が深刻なジャカルタ首都圏においてジャカルタ都市高速鉄道(以下、「MRT」という。)の東西線を整備することにより、増加するジャカルタ首都圏の輸送需要への対応と自動車交通から公共輸送へのモーダルシフトを図り、もって、同首都圏の交通混雑の緩和、投資環境の改善、環境負荷の軽減に寄与するもの。
- ア
- 主要事業内容
- 土木工事、鉄道構造物(うち、地下土木)
- 電気・機械システム及び軌道
- 車両調達(184両)
- 車両基地建設
- コンサルティング・サービス
- イ
- 供与条件
供与限度額 金利 償還(うち据置)期間 調達条件 1,406.99億円 0.3%(STEP) 40(10)年 タイド - (注)金利は、本邦技術活用条件(STEP)を適用。コンサルティング・サービス部分は金利0.2%を適用。
(4)環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点
- ア 環境影響評価(EIA):本計画は、「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン」(2010年4月制定、以下、「JICAガイドライン」という。)に掲げる鉄道セクター、影響を及ぼしやすい特性に該当するため、カテゴリAに分類される。本計画に係るEIA報告書は、 2023年12月8日に環境林業省により承認済み。
- イ 用地取得及び住民移転:本計画(フェーズ2)では、約99.8ヘクタールの用地取得、約 1,659人の非自発的住民移転を伴い、同国国内手続及びJICA環境社会配慮ガイドラインに沿って作成された住民移転計画に沿って取得が進められる。住民移転に関する住民協議は実施済みであり、補償方針等の説明がなされた。被影響住民から事業に係る特段の反対意見は出ていない。
2 資金協力案件の評価
(1)必要性
- ア
- 開発ニーズ
インドネシアでは、近年の急激な経済成長とジャカルタ首都特別州及び隣接県の人口増加に伴い、ジャカルタ首都特別州における深刻な交通混雑による経済的損失及び排気ガスによる大気汚染が大きな問題になっている。こうした中、ジャカルタ首都特別州政府は、ジャカルタ中心部での乗用車の通行規制やバス専用レーンの設置により交通混雑緩和に取り組んできたが、人口増加が継続し、更なる交通需要の増加が見込まれていることから、MRTシステムの整備・延伸が急務となっている。
上記状況を受けて、同国政府は、国家中期開発計画(2020-2024)において、経済成長の促進を支えるインフラ整備を国家開発の優先事項に位置付けているほか、本計画を国家戦略プロジェクトの一つとして掲げている。 - イ
- 我が国の基本政策との関係
本計画は、対インドネシア国別開発協力方針(2017年9月)の重点分野「国際競争力の向上に向けた支援」の中の「質の高いインフラの整備」に合致する。
また、本計画は、自由で開かれたインド太平洋(FOIP)のための新たなプランの4つの柱のうちの第三の柱「多層的な連結性」や、SDGsゴール9(強じんなインフラ整備)、ゴール11(持続可能なまちづくり)及びゴール13(気候変動対策)に貢献すると考えられる。
インドネシアは、東南アジア地域において最大の人口及び国土を擁するASEANの中核国であり、2022年はG20の議長国も務め、日本ASEAN友好協力50周年の節目となる2023年にASEAN議長国を務めたほか、1,840社を超える日系企業(2022年)が進出するなど、政治、外交、経済及び地理的関係において我が国と極めて重要な関係にあり、重要な戦略的パートナーである。2023年9月の日インドネシア首脳会談においても、インフラ開発等の分野で協力していくことで一致しているところ、本計画は、両国間の協力強化及び日本の外交政策の推進の観点からも重要である。
(2)効率性
2008年以降、国際協力機構(JICA)が本計画の運営主体であるジャカルタMRT運営会社の監督機関であるジャカルタ首都特別州政府に「ジャカルタMRT事業アドバイザー」を派遣し、本計画の形成・実施支援を行った。また、本計画に関連して、日本政府として2015年にエンジニアリングサービス(E/S)借款を供与し、設計等の支援を実施した。さらに、本計画は、技術協力「ジャカルタ首都圏都市交通政策統合プロジェクトフェーズ2」にて提案した交通ネットワークを形成する主要路線でもあり、現在実施中の同プロジェクトフェーズ3においても、本計画の沿線開発案の策定支援を行う予定。
本件の実施については、これらの案件との相乗効果が期待される。
(3)有効性
本計画の実施により、事業完成2年後の2033年には以下のような成果が期待される。
- ア 定量的効果(Tomang駅-Medan Satria駅間)
- (ア)旅客運送量が、799,000人・キロメートル/日となる。
- (イ)車両運行数が、183本/日となる。
- イ 定性的効果
本計画の実施により、鉄道運営及び駅中・駅周辺開発等を通じた雇用機会の創出、女性の鉄道利用の促進と利便性の向上、ジャカルタ首都圏の物流・投資を含む環境の改善、同首都圏経済の発展、公共輸送利用の促進を通じた大気汚染の抑制及び温室効果ガス削減による気候変動の緩和への寄与が期待される。
3 事前評価に用いた資料、有識者等の知見の活用
要請書、インドネシア国別評価報告書(2018年度・第三者評価)、JICAガイドライン、その他JICAから提出された資料。
案件に関する情報は、交換公文締結後公表される外務省の約束状況に関する資料及び案件概要、借款契約締結後公表されるJICAのプレスリリース並びに事業事前評価表
を参照。
なお、本案件に関する事後評価は実施機関であるJICAが行う予定。