ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
評価年月日 令和5年3月23日
評価責任者 国別開発協力第一課長 石丸 淳
1 案件概要
(1)供与国名
インドネシア共和国(以下、「インドネシア」という。)
(2)案件名
パティンバン有料アクセス道路建設計画
(3)目的・事業内容
本計画は、円借款で拡張中かつ日本企業が自動車ターミナルを運営しているジャカルタ首都圏東部に位置するパティンバン港(第一期:2017年11月E/N・供与限度額1,189.06億円、第二期:2022年5月E/N・供与限度額701.95億円)と既設のCikampek-Palimanan高速道路間の有料アクセス道路を整備するもの。本アクセス道路は全長37キロメートルあり、14キロメートルの建設と全区間の運営はPPP事業として国有高速道路会社が実施し、残りの23キロメートルにつき円借款を活用して整備する。本道路を建設することにより、パティンバン港の全体の機能を十分に発揮でき、首都圏の物流機能の強化を図り、もってインドネシアの投資環境の改善を通じた更なる経済成長に寄与するもの。
- ア
- 主要事業内容
- 土木・建設工事(高速道路(片側2車線、計4車線)の新設約23キロメートル(盛り土、パイルドスラブ・オーバーパス、小規模橋梁、インターチェンジを含む))
- コンサルティング・サービス
- イ
- 供与条件
供与限度額 金利 償還(うち据置)期間 調達条件 421.20億円 1.05% 15(5)年 アンタイド - (注)コンサルティング・サービス部分は、金利0.01%を適用
(4)環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点
- ア
- 環境影響評価(EIA):本計画は、「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン」(2022年1月制定、以下「JICAガイドライン」という。)に掲げる道路セクター及び影響を及ぼしやすい特性に該当するため、カテゴリAに分類される。本計画のEIA報告書は、2022年2月に作成され、同年5月に西ジャワ州スバン県環境局により承認済み。
- イ
- 用地取得及び住民移転:本計画は、約186ヘクタールの用地取得、273世帯(865人)の非自発的住民移転(PPP区間含む全区間では、それぞれ約340ヘクタール、484世帯(1,553人))を伴い、同国国内手続き及びJICAガイドラインに沿って作成された住民移転計画(LARAP)に基づき用地取得が進められる。
- ウ
- 外部要因リスク:用地取得及び住民移転の遅延により、施工開始及び完工時期に遅延が発生する可能性があることにつき、留意が必要。
2 資金協力案件の評価
(1)必要性
- ア
- 開発ニーズ
インドネシアでは、近年の急激な経済成長に伴い、ジャカルタ首都圏唯一の既存の国際港湾であるタンジュンプリオク港の年間コンテナ取扱量が増加しているため、今後コンテナ需要に対応できなくなる見込みである。また、首都圏の道路は慢性的な渋滞が発生し、パティンバン港へのアクセスの悪さも円滑な物流の障壁となっている。そのため、製造拠点が多く所在する首都圏東部の企業は、首都圏の渋滞を回避してアクセスできる新港の開発により、首都圏の貨物交通量が分散されることを期待している。
こうした中、同国政府は、国家中期開発計画(2020-2024)において、経済成長の促進を支えるインフラ整備を国家開発の優先事項と位置づけ、さらにジョコ大統領の掲げる「海洋国家構想」においても、港湾整備による連結性強化と輸送インフラ拡充を重視している。その中で、国内の主要な貿易拠点として機能する「主要港」として位置付けられているパティンバン港は2025年の本格稼働が想定されており、それ以降はトラックや積載車の交通量が飛躍的に増加することが見込まれている(2027年には、トラック等の交通量は、現在比で約5,600台/日増加予定)。自動車関連企業を含む日系企業が多く進出している首都圏東部の工業団地等からパティンバン港への既存のアクセスは、Cikampek-Palimanan高速道路を降りて国道1号線を通過する必要があるが、現状でも計画交通量の80%を超える区間があり、パティンバン港本格開港後の交通需要に対応することは困難な状況である。同港の新設に伴う貨物輸送増加に対応するため、アクセス道路の建設が急務となっている。 - イ
- 我が国の基本政策との関係
2017年9月に発表した我が国の対インドネシア国別開発協力方針では、(1)国際競争力の向上に向けた支援、(2)均衡ある発展を通じた安全で公正な社会の実現に向けた支援、(3)アジア地域及び国際社会の課題への対応能力向上に向けた支援を重点分野としている。本計画は、新港を建設することにより、首都圏の物流機能の強化を図り、もって同国の投資環境の改善を通じた更なる経済成長に寄与するものであり、特に重点分野(1)の国際競争力の向上に資する支援として同方針に合致する。
また、本計画は、ASEAN地域の連結性向上に資するものであり、「自由で開かれたインド太平洋」における経済的繁栄の追求、及びSDGsゴール8(持続的、包摂的で持続可能な経済成長)、ゴール9(強靱なインフラ整備)にも貢献すると考えられる。
我が国とインドネシアは、政治・外交、経済及び地理的関係において極めて重要な関係にあり、重要な戦略的パートナーである。2022年11月の日インドネシア首脳会談においても、インフラ開発等の分野での両国の連携を確認しているところ、本計画は、両国間の協力強化及び日本の外交政策の推進の観点からも重要である。
(2)効率性
2012年から運輸省海運総局に「港湾開発政策アドバイザー」を、2008年から公共事業・国民住宅省に継続して「道路政策アドバイザー」を派遣しており、本計画の形成・実施支援も行っている。また、2021年2月から技術協力「有料道路開発管理能力強化プロジェクト」を通じ、公共事業・国民住宅省における道路PPP事業の実施体制強化に関する支援を実施している。
本計画の実施については、これらの技術協力案件との相乗効果が期待されることから、これらを通じて本計画の効率的な実施を図る。
(3)有効性
本計画の実施により、事業が完成する2年後(2027年予定)には、2021年比で以下のような成果が期待される。
- ア
- 定量的効果
指標名 基準値
(2021年実績値)目標値(2027年)
【事業完成2年後】交通量 - 乗用車・バス・小型トラック:1,489台/日
トラック(2軸):1,948台/日
トラック(3軸):1,450台/日
トラック(4軸):598台/日
トラック(5軸):1,121台/日
(IC Pasir Bungar-IC Pusakanegara間)移動時間 乗用車:54.7分/台
バス:59.3分/台
小型トラック:54.7分/台
トラック:60.8分/台
(IC Cikopoから国道1号線を通過してIC Pusakanegaraまでの約51キロメートル)乗用車:33.6分/台
バス:35.3分/台
小型トラック:33.6分/台
トラック:37分/台
(IC CikopoからCikampek – Palimanan高速道路約16キロメートル とPPP区間及び本事業区間の約37キロメートルを通過してIC Pusakanegaraまでの約53キロメートル) - イ
- 定性的効果
ジャカルタ首都圏の物流を含む投資環境改善、地域間の連結性強化及び同地域の経済活性化が期待される。
3 事前評価に用いた資料、有識者等の知見の活用
要請書、インドネシア国別評価報告書(2018年度・第三者評価)、JICAガイドライン、その他JICAから提出された資料。
案件に関する情報は、交換公文締結後公表される外務省の約束状況に関する資料及び案件概要、借款契約締結後公表されるJICAのプレスリリース、事業事前評価表
を参照。
なお、本案件に関する事後評価は実施機関であるJICAが行う予定。