ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
令和4年5月6日
評価年月日 令和4年3月17日
評価責任者 国別開発協力第一課長 竹端 昌宏
1 案件概要
(1)供与国名
インドネシア共和国
(2)案件名
パティンバン港開発計画(第二期)
(3)目的・事業内容
本計画は、ジャカルタ首都圏東部パティンバンに新港(コンテナターミナル、自動車ターミナル等)を建設することにより、首都圏の物流機能の強化を図り、もってインドネシアの投資環境の改善を通じた更なる経済成長に寄与するもの。なお、我が国は、2017年11月にインドネシア政府との間で円借款の供与に係る交換公文「パティンバン港開発計画(第一期)」に署名しており(供与限度額:1,189.06億円)、今次借款はその後続借款となる。
- ア
- 主要事業内容
- 土木・建設工事(コンテナターミナル及び自動車ターミナルの各建設、泊地・航路浚渫等)
- コンサルティング・サービス
- イ
- 供与条件
供与限度額 金利 償還(うち据置)期間 調達条件 701.95億円 0.1%(STEP) 40(10)年 日本タイド - (注)コンサルティング・サービス部分は金利0.01%を適用。
(4)環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点
- ア
- 環境影響評価(EIA)
本計画は、「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン」(2010年4月制定、以下「JICAガイドライン」という。)に掲げる港湾・道路セクター、影響を及ぼしやすい特性に該当するため、カテゴリAに分類される。本計画のEIA報告書は、港湾、道路事業一体として、2017年2月にインドネシア環境林業省により承認済み。ただし、詳細設計に基づく変更点に関しては追加文書が作成され、2022年5月までに承認予定。 - イ
- 用地取得及び住民移転
本計画は、後背地(バックアップエリア)及びアクセス道路の建設により、それぞれ356.23ヘクタール、15.79ヘクタールの用地取得、75世帯、21世帯の非自発的住民移転を伴うほか、港湾施設の建設により漁業への影響が想定されるため、インドネシア国内手続及びJICAガイドラインに沿って作成される用地取得・住民移転計画(LARAP)に基づいて、用地取得・補償・生計回復支援が進められている。 - ウ
- 外部要因リスク
後背地及びアクセス道路の用地取得が完了しない場合、本計画も完了しない点に留意が必要。
2 資金協力案件の評価
(1)必要性
- ア
- 開発ニーズ
インドネシアでは、近年の急激な経済成長に伴い、ジャカルタ首都圏唯一の既存の国際港湾であるタンジュンプリオク港の年間コンテナ取扱量が増加している中、同港の年間コンテナ取扱可能量(863万TEU)では今後の更なる需要増(2025年のコンテナ需要は1,024万TEU、予測値)に対応できなくなる見込みであるほか、コンテナ蔵置スペース等の物流機能に必要な用地が不足しているなど、港湾混雑による物流停滞が懸念されている。また、首都圏の道路における慢性的な渋滞が深刻化している中で、首都圏東部に製造拠点を有する本邦企業を含む多くの企業にとって現港へのアクセスの悪さがビジネス展開上の障壁となっていることからも、首都圏の貨物交通量の分散を図ることが強く期待されている。
(注)TEU:海上コンテナの貨物量を表す単位であり、1TEUは、20フィートコンテナの1個分を表す。
このような状況の中、インドネシア政府は、2016年5月にパティンバン新港開発に係る大統領令を制定したほか、新港に係るマスタープランにて同新港を国内の主要な貿易拠点として機能する「主要港」と位置づけている。また、国家中期開発計画(2020~2024)において、経済成長の促進を支えるインフラ整備を国家開発の優先事項に位置づけ、同新港開発を、首都圏を含む西ジャワの工業地区の物流改善の方策として掲げている。 - イ
- 我が国の基本政策との関係
2017年9月に発表した我が国の対インドネシア国別開発協力方針では、(ア)国際競争力の向上に向けた支援、(イ)均衡ある発展を通じた安全で公正な社会の実現に向けた支援、(ウ)アジア地域及び国際社会の課題への対応能力向上に向けた支援を重点分野としている。本計画は、新港を建設することにより、首都圏の物流機能の強化を図り、もって同国の投資環境の改善を通じた更なる経済成長に寄与するものであり、特に重点分野(ア)の国際競争力の向上に資する支援として同方針に合致する。
また、本計画は、ASEAN地域の連結性向上に資するものであり、「自由で開かれたインド太平洋」における経済的繁栄の追求、及びSDGsゴール8(持続的、包摂的で持続可能な経済成長)、ゴール9(強靱なインフラ整備)にも貢献すると考えられる。
我が国とインドネシアは、政治・外交、経済及び地理的関係において極めて重要な関係にあり、重要な戦略的パートナーである。2021年11月の日インドネシア首脳電話会談においても、インフラ開発等の分野での両国の連携を確認しているところ、本計画は、両国間の協力強化及び日本の外交政策の推進の観点からも重要である。
(2)効率性
2012年5月から、運輸省海運総局に「港湾開発政策アドバイザー」を派遣し、本事業の形成・実施支援を行っている。また、2020年3月から2021年9月まで、「パティンバン港後背地開発支援業務」として、専門家による後背地開発計画の支援を行った。
本件の実施については、これらの技術協力案件との相乗効果が期待される。
(3)有効性
本計画の実施により、事業が完成する2年後(2028年)には、2016年比で以下のような成果が期待される。
- ア
- 定量的効果
- (ア)コンテナターミナルでのコンテナ貨物取扱量が、800,000TEU/年となる。
- (イ)自動車ターミナルでの完成車取扱量が、360,000台/年となる。
- イ
- 定性的効果
ジャカルタ首都圏の物流を含む投資環境の改善、経済発展の促進、インドネシアの持続的経済成長への寄与が期待される。
3 事前評価に用いた資料、有識者等の知見の活用
要請書、インドネシア国別評価報告書(2018年度・第三者評価)、JICAガイドライン、その他JICAより提出された資料。
案件に関する情報は、交換公文締結後公表される外務省の約束状況に関する資料及び案件概要、借款契約締結後公表されるJICAのプレスリリース、事業事前評価表
を参照。
なお、本案件に関する事後評価は実施機関であるJICAが行う予定。