ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
評価年月日:平成28年10月17日
評価責任者:国別開発協力第三課長 大場 雄一
1 案件概要
(1)供与国名
エジプト・アラブ共和国
(2)案件名
電力セクター復旧改善計画
(3)目的・事業内容
既設の火力発電所の機器の更新,リハビリ及び予備的部品供給により,既設の火力発電所の発電設備容量を回復させると同時にプラント効率を安定的に維持・向上させ,電力供給の安定化と温室効果ガスの排出抑制を図り,もってエジプトの持続的成長と雇用の創出,気候変動の緩和に寄与するもの。
- ア 主要事業内容
- 既設火力発電所の機器の更新,リハビリ及び予備的部品供給
- コンサルティング・サービス
- イ 供与条件
供与限度額 金利 償還(据置)期間 調達条件 410.98億円 年0.3% 40(10)年 一般アンタイド (注)コンサルティング・サービス部分については,金利年0.01%を適用。
(4)環境社会配慮,外部要因リスクなど留意すべき点
- ア
- EIA(環境影響評価):本計画は,「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン」(2010年4月公布)に掲げる火力発電セクターのうち大規模なものに該当せず,環境への望ましくない影響は重大でないと判断され,かつ,同ガイドラインに掲げる影響を及ぼしやすい特性及び影響を受けやすい地域に該当しないためカテゴリBに分類される。本計画に係る環境影響評価(EIA)報告書は,同国国内法上作成が義務付けられていない。
- イ
- 用地取得及び住民移転:本計画により用地取得及び住民移転は伴わない。
- ウ
- 外部要因リスク:特になし。
2 資金協力案件の評価
(1)必要性
- ア
- 開発ニーズ
エジプトでは,2004/05年度から2013/14年度の10年間に平均4.4%の経済成長を遂げたが,同期間中,最大電力需要はそれを上回る平均6.0%の伸びを示した。需要の伸びに応じて発電設備容量は年々増強されてきており,2013/14年度の発電設備容量は32,015メガワットと2004/05年度と比較して約1.74倍となったが,最大電力需要が引き続き年率6.0%で伸長する場合,2017/18年度には最大電力需要が33,001メガワットとなり,現時点の供給能力を超える見込み。また,エジプトの発電所の2013/14年度の平均稼働率は86.8%であり,定期点検等により稼働していない発電設備を考慮した発電可能容量は発電設備容量を大きく下回る(2013/14年度の発電可能容量は27,789メガワットと算出される)。エジプトの現在の電源構成は水力9%,火力89%,再生可能エネルギー2%と火力に大きく依存しており,火力発電に使用される発電燃料は天然ガスの比重が77.8%となっている。2011年のいわゆる「アラブの春」以降の投資環境の悪化により石油・天然ガス開発は進まず,火力発電の主要燃料である天然ガスは不足し,その結果,天然ガスの代わりに低品質な重油などを燃料として利用する発電所も出てきており,既設火力発電所のプラント効率の低下が進み,十分な発電量を確保出来ていない。こうした状況の中,近年電力不足による停電が社会問題となり,2014年夏には特に深刻な停電が頻発した。このように,電力需給は逼迫した状況にあり,旺盛な電力需要に対応して安定的に電力を供給するため,今後も既設発電所のプラント効率の維持・向上及び更なる発電設備容量の増強が必要である。
エジプト政府は,2015年3月に発表した「5か年マクロ経済枠組・戦略」において,電力セクターを含むエネルギーセクターを重要セクターと位置付け,停電を防ぐために発電設備の増強が必要であると述べている。また,同月に発表された「エネルギー白書」において,火力発電所の低水準のプラント効率を改善することで,発電所を新設せずに既設発電所の発電量を増加させることにつき言及している。加えて,同年11月に国連気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局に提出した約束草案において,エジプトに最適な技術を先進国から導入することで,温室効果ガスの排出削減に取り組む必要があると言及している。 - イ
- 我が国の基本政策との関係
エジプトは,中東・アフリカ・欧州をつなぐ地政学的要衝に位置し,中東和平プロセス等,地域の平和と安定に向け重要な役割を果たしている。同国の開発課題への取組を支援し同国の安定化に貢献することは,地域の安定化にも繋がる。
我が国の対エジプト援助重点分野「持続的経済成長と雇用創出の実現」の中の開発課題「投資・ビジネス環境の整備」の下で,経済インフラ整備においては電力や運輸セクターを中心に支援していくこととしている。本計画は,発電設備容量の回復,プラント効率の向上及びそれらの維持に資するものであり,これら方針に合致する。
(2)効率性
我が国が実施する電力分野の本邦研修へ,本計画に関連する各電力公社の職員を参加させると共に,火力発電所の運営・維持管理体制強化のための技術協力を検討中であり,実施機関の総合的な能力強化を行うことで,本計画の開発効果の一層の増大を図る。
(3)有効性
カイロ首都圏や第2の商業都市地域を管轄するアレキサンドリアの発電公社が所管する大規模な既設火力発電所を対象に,機器の更新,リハビリ及び予備的部品の供給を行うことにより,電力供給の安定化を図ると共に,温室効果ガスの排出抑制が期待される。
本計画により,復旧改善を行う対象の火力発電所において,発電所の停止時間(時間/年),最大出力(メガワット),送電端発電量(ギガワット時/年),温室効果ガス排出削減量(トン/年)等の改善が見込まれる(サブ・プロジェクト確定後に発電所ごとに設定予定。)。
3 事前評価に用いた資料,有識者等の知見の活用
要請書,エジプト国別評価報告書,国際協力機構環境社会配慮ガイドライン,その他国際協力機構から提出された資料
案件に関する情報は,交換公文締結後公表される外務省の約束状況に関する資料及び案件概要,借款契約締結後公表される国際協力機構のプレスリリース及び事業事前評価表
を参照。
なお,本計画に関する事後評価は実施機関である国際協力機構が行う予定。