ODA(政府開発援助)
ODAメールマガジン 第483号
国連開発計画(UNDP)と日本のパートナーシップ:
人間の安全保障の理念の主流化とSDGsの達成にむけて
国連開発計画(UNDP)駐日代表事務所
副代表 齊藤 順子
国連開発計画(United Nations Development Programme:UNDP)にとって日本は、長年にわたって最大の支援国の一つであり、共通の優先課題に取り組む重要なパートナーです。しかしながら、「UNDPって聞いたことはあるけど、何をやっているかわからない」という方もいらっしゃるのではないかと思います。UNDPは「開発の総合商社」とも言われ、様々な分野を扱っています。
筆者は2024年2月末から、外務省から出向する形でUNDP駐日代表事務所に勤務していますが、UNDPの活動の幅広さに日々驚いています。本稿で謎の組織(?)UNDPについて少しでも理解を深めていただければと思います。
1 国連開発計画(UNDP)とは?
UNDPは、1965年11月22日に採択された国連総会決議2029(XX)(英語)に基づいて、拡大技術援助計画(the Expanded Programme of Technical Assistance: EPTA)と国連特別基金(Special Fund: SF)が統合されて、1966年1月1日に設立されました。国連の中核的な開発機関として、各国政府、国連機関、NGO、民間企業など様々なアクターと協力関係にあります。本部はニューヨークで、170以上の国と地域で活動しています。
UNDPはアヒム・シュタイナー総裁の下、開発途上国の各国政府による極度の貧困の根絶、不平等の是正、持続可能な開発目標(SDGs)達成に向けた取り組みを支援するため、戦略計画(2022~2025)に基づき、以下の分野で、各国政府に対し政策提言、技術支援、資金提供、支援プログラムを組み合わせ、それぞれの国に合った包括的な解決案を示しています。現在は、次期戦略計画(2026~2029)策定に向けて、様々な関係者との議論を行っています。
【持続可能な開発目標(SDGs)達成に向けた取り組みの支援項目】
- 貧困・不平等の根絶
- 国家の仕組みの整備
- 災害や紛争などへの危機対応強化
- 環境保全
- クリーンエネルギーの普及
- ジェンダー平等の実現
2 人間の安全保障の推進
「人間の安全保障」という新しい概念を初めて打ち出したのは、UNDPの1994年版「人間開発報告書」でした。人間の安全保障は、日本の外交の重要な柱の一つでもあり、2023年に改訂された開発協力大綱の中でも、人間の安全保障は日本のあらゆる開発協力に通底する指導理念として位置付けられています。コロナ禍で世界が体験した感染症や気候変動、高度なデジタル技術の悪用などの新たな脅威が複雑に絡み合う時代の中で、人間の安全保障の概念を再構築し、保護とエンパワーメントと連帯を深める戦略が求められています。UNDPは2022年に「人新世の脅威と人間の安全保障」と題した特別報告書を発表し、人と地球との関係に目を向け、国境を越えた連帯感に基づく開発を進めるよう提言しています。
人間の安全保障の推進のための具体的なプロジェクトとして、ウクライナにおける日本政府とのパートナーシップによる支援の事例があります。戦争による多次元的な危機に対応し、がれき撤去や地雷の処理、エネルギーインフラの復旧や人権の保護等、国民の差し迫ったニーズに人間中心のアプローチで対応することで、人間の安全保障を強化する包括的な復旧・復興に向けた計画作りを支援しています。
3 持続可能な開発目標(SDGs)の達成にむけた様々な取組
- (1)アフリカ開発支援(TICAD) アフリカのスタートアップ支援
UNDPは日本政府、世界銀行、アフリカ連合委員会(AUC)、国連アフリカ担当事務総長特別顧問室(UNOSAA)と共にTokyo International Conference on African Development(アフリカ開発会議:TICAD)の共催者として、アフリカ開発の専門的知見と経験を提供するともに、首脳級会合や閣僚級会合といったTICADプロセスの総合的な運営に関わっています。
本年8月に東京で開催されたTICAD閣僚会合の機会に、UNDPは外務省、国際協力機構(JICA)および日本貿易振興機構(JETRO)と共に、アフリカと日本間のビジネスと投資促進の切り口として重要なスタートアップのエコシステムに関わる全体会合を開催し、TICAD初の試みとして各界のプレイヤーを巻き込み、パネル形式の活発な議論に貢献しました。また、UNDPは、日本の経産省からの支援を受けベンチャーキャピタルと協力して、南アフリカ、アンゴラ、ザンビアから投資準備の整ったアフリカのスタートアップ6社を招き、スタートアップ・エコシステムの成長性と可能性を紹介し開発への新しいアプローチを示しました。 - (2)若者の社会起業家育成「Youth Co Lab:ユースコーラボ」
UNDPとシティファウンデーションは、これまでアジア太平洋地域の28の国と地域で、若年層がリーダーシップを発揮し、社会革新を起こし、起業家精神を持つことによりSDGsの加速を目指す、若者向けのエンパワメントプログラムを実施しています。産官学と若い世代を繋いで対話を促すイベントのほか、SDGsの達成を目指す社会起業家コンテストを開催しています。 - (3)SDGインパクト
UNDPは、SDGs達成に向けた民間資金の流れを拡大するために「SDGインパクト」という取り組みを進めています。UNDPでは、責任あるビジネス慣行とインパクトマネジメントの実践を組織体制および組織内の意思決定に組み込むことで、より持続可能な運営を行い、持続可能な開発とSDGsに対し最良な貢献を行うためのガイドとなるSDGインパクト基準を策定しました。また、インパクトマネジメントやSDGインパクト基準について学ぶ研修を開発したり、各国の市場やセクターにおける、SDGs達成につながる投資機会や状況についての詳細なレポートである「SDG投資情報マップ」を提供したりしています。 - (4)UNDP駐日代表事務所の仕事
駐日代表事務所にはインターンも含めて約20名のスタッフが勤務しています。人事・会計・調達・ICT等のオペレーションや広報担当職員の他、ウクライナ支援、TICAD、気候変動、環境保護、ユース、ビジネスと人権といった課題別の専門家やコンサルタントもいます。
駐日代表事務所の大きな役割の一つは、UNDPの活動を日本の皆さんに理解していただき、ご支援をいただくことです。日本の支援により、途上国において持続可能な開発が可能になり、巡り巡って日本の平和と安定、繁栄につながるような良い循環ができることが望ましいと考えています。
UNDPの本部や世界各国の事務所には日本人職員も多く活躍しています。日本人職員を増やすためのキャリアセミナーを開催したり、日本人職員の活動を支援したりすることも駐日代表事務所の重要な役割です。
日本国内では、政府、NGO、民間セクター、学術界等様々な関係者とのパートナーシップの窓口となるのが駐日代表事務所です。シンポジウムやセミナーといったイベントの開催、メディア、SNS、ホームページを通じた発信などの広報活動にも取り組んでいます。
是非、今後もUNDPの活動にご関心を持っていただきたく、UNDPのFacebook、Instagram、Xなどをフォローいただければ幸いです。
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