ODA(政府開発援助)

2024年9月30日発行
令和6年9月30日

支援した国の人々によりローカライズされ、定着、発展する
「イザ!カエルキャラバン!」

楽しく防災の知識や技を学ぶプログラムが海外23か国に広がる(写真はインドネシア・ジョグジャカルタ)

特定非営利活動法人プラス・アーツ 理事長 永田 宏和

 私は阪神・淡路大震災をきっかけに防災教育の重要性を痛感し、2006年に「特定非営利活動法人プラス・アーツ別ウィンドウで開く」を設立。国内外で防災教育プログラムの普及に取り組んでいます。その理念は「防災の楽しさを、世界中の人たちに」。

 私たちは独自に楽しみながらしっかり学ぶ防災教育プログラム「イザ!カエルキャラバン!別ウィンドウで開く」を開発し、支援先の行政職員や小学校や大学の教員、NGOのスタッフたちと協働してその普及と定着に取り組んでいます。このプログラムは、2006年のインドネシアへの支援を皮切りに、これまでに海外23か国での支援実績を積み重ねています。

プラス・アーツが国内外においてコミュニティ防災の支援活動をする際に大切にしているステークホルダーの関係図「風、水、土、そして種」

 私たちが目指しているのは、この支援プロジェクトに関わる「風の人」「水の人」「土の人」の3つの異なる立場の人たちが協力し、力を合わせて取り組むことで、支援した国々に「イザ!カエルキャラバン!」という防災教育の種(=プログラム)を蒔き、しっかり育て定着させ、発展させていくことです。よくある集客型のイベントのように、プログラムを一回だけ行って終わりではなく、そのプログラムを現地の人々が地域に合わせてアレンジし、コミュニティに根づくようにアップデートしていくことが重要だと考えています。

 この3つの立場の中で、私たちは「イザ!カエルキャラバン!」という種を作り、いろんな地域に運んでいく「風の人」です。その私たちが運んでいった種を受け取り、アレンジしながら育てていくのが、地域で防災教育をリードする「水の人(行政や学校、NGOのメンバー)」。そして、その種により防災の知識や技を学び、「自助力」「共助力」を養いながら、地域の防災力向上に取り組む地域住民「土の人」です。

現地の人たちが主体となってプログラムをローカライズ

インドネシアではサロン(巻きスカート)と竹で作った担架で現地の子どもたちに人気の小鹿人形を運んでけが人の搬送訓練を実施
フィリピンではバニグ(ヤシの葉で編んだ敷物)を担架に、現地にしか生息しない世界最小の猿をモチーフにした人形を運ぶけが人搬送訓練を実施

 私は、2006年からJICAや国際交流基金の支援を受けながら、インドネシアを皮切りにフィリピン、トルコ・イラン、ミャンマー、チリなどで「イザ!カエルキャラバン!」の支援を実施してきました。しかし、いずれも日本とは異なる海外の国々での実施ですので、日本で開発されたプログラムは、そのままでは使えなかったり、現地の文化との違いから違和感が生まれたりしました。

 そこで日本のプログラムをもとに、現地の人たちに自分たちでどうローカライズしていくか、教材をアレンジするところから参加してもらいました。例えば、けが人を運ぶ毛布担架ですが、暑い地域のインドネシアやフィリピンではあまり毛布を使いません。そこで、インドネシアでは、どの家にもあるサロンという男性用の巻きスカートと竹を使って担架を作る方法をみんなで考えました。防災教育のプログラムで使うキャラクターは現地の人たちに馴染みのある動物に変更。小鹿やサルなどをマスコットキャラクターにして、より一層親しみやすいプログラムになるようにしました。このような地域の文化に合わせたローカライズをどんどん進めることで、現在では、支援した各国の行政機関やNGOなどが主体となってプログラムの普及・運営を行っています。

ネパールの10の小学校で防災教育をスタート

日本の教材を参考にネパールの先生たちが開発したネパール版防災漫画教材
顧問の先生たちがワークショップで制作したネパールオリジナル防災教材

 こうした海外での防災教育分野の支援活動においては、国内外のJICAと連携することが多くなり、2017年に初めてプラス・アーツとしてJICAの海外支援事業を受諾。ネパールのカトマンズ盆地5都市の小学校での防災教育クラブ普及プロジェクトがスタートしました。

 支援事業の1年目で実施したことは、防災教育クラブの指導者(顧問)となる先生の人材育成、クラブで使用する防災教材の開発、クラブのブランディングの3つです。まずは、カトマンズ盆地の5都市で小学校10校をモデル校として選定。選定された小学校の先生たちと協働でオリジナルの防災教育教材を開発しました。現地の先生たちに防災教育のノウハウを学んでもらいながら、彼らが主体となって防災教材を開発することがとても大切なポイントです。

ネパールのカトマンズ盆地5都市の小学校に導入されている防災教育クラブのロゴマーク
顧問の先生のニーズから制作されたロゴマークをあしらった防災教育クラブのツール

 ネパールは日本と違い、雑居ビル内の数室やテントなどが学校の校舎だったりします。学校の設備や環境はそれぞれの学校で大きく異なるため、全ての学校で実施可能な年間活動計画を立てることは難しく、それぞれの学校ごとに年間活動計画を策定し、独自のプログラムを推進してもらうことにしました。防災教育のプログラムは、授業ではなく毎週金曜日の午後に実施されるクラブ活動のひとつとして行われているのも特徴です。ネパールの小学校では、生徒たちが毎週、自分が希望したクラブ活動を継続的に行っているのですが、私たちが新たにつくった防災教育クラブは、「みんなが入りたいと思うような人気のクラブ活動にする」ことを目標に掲げました。

 そのためには、防災教育クラブ自体のブランディングも重要なポイントです。ネパールの先生たちの意見で、キャラクターは「一角サイ」に決定。本来は現地のデザイナーにデザインを依頼するのが流儀なのですが、このときはキャラクターデザインを託せる実力のあるデザイナーを見つけられなかったため、日本のトップデザイナーである寄藤文平さんにキャラクターデザインをお願いしました。できあがったキャラクターデザインは、「一角サイ」の角の形を「いいね」マークの指の形と重ね合わせていて、それがクラブの決めポーズとなり、クラブメンバーである先生や生徒たちを中心に多くの人たちに愛されています。

ロゴマークに合わせて「いいね!」の決めポーズで集合写真を撮る防災教育クラブの児童たち

子どもたち自ら地域に活動の幅を広げる展開に

同僚の先生たちにオリジナル防災教材の使い方を教える防災教育クラブの顧問の先生たち
ネパールの防災教育クラブの児童たちが保護者や地域の大人に防災教材を使って防災の知識を教えている

 このネパールでの「防災教育クラブ」の設立及び普及プロジェクトは活動開始から10年目を迎え、今では生徒たちの中でも一番人気の「クラブ活動」となっています。モデル校での取り組みがその後マニュアル化され、他の多くの小学校にも横展開され、現在、約40校が私たちのつくった「防災教育クラブ」を導入し、実施しています。

 さらに、自然発生的に活動が発展しているといううれしい展開もありました。クラブのメンバーの生徒たちが自ら、クラブメンバーではない低学年の生徒や保護者、さらに地域の大人たちを対象に防災教材を活用して防災の知識や技を伝えはじめたのです。また、クラブで活用される防災教材もその後アップデートされ、新たに「建物耐震」「デング熱やコロナなどの感染症対策」、「災害時の心のケア」などについて学ぶ防災教材の開発も行われています。

 このような防災教育の種がうまく根づき、大きく育っている理由としては、先生を集めてノウハウを伝えるだけでなく、「自分たちで創る」という主体性や創造性を常に重視してきたことがあげられます。

 「ネパールでの防災教育クラブ普及プロジェクト」は2025年7月をもってJICAの支援事業としては終了する予定ですが、地域が自立して防災教育を実践していくという目標を高いレベルで実現できたと思っています。NPO法人プラス・アーツでは、これからも様々な国や地域で「自立した防災教育」の普及のために、活動を広げていきたいと思っています。

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