ODA(政府開発援助)

2022(令和4年)年6月17日発行
令和4年6月17日

日本、モロッコ、アフリカをつなぐ技術の懸け橋
ABEイニシアティブ

JICAモロッコ事務所

 「アフリカの若者のための産業人材育成イニシアティブ(ABEイニシアティブ)」プログラムは、アフリカの若者に日本の大学の修士課程で学ぶ機会を提供し、参加者自身の可能性を拓くと共に、アフリカと日本の懸け橋となり双方の社会的・経済的発展に貢献する人材を育成するプログラムです。このプログラムによる日本への研修員受け入れは2014年に開始され、モロッコからは2015年から2021年の7年間に計77名の研修員が参加しています。

ABEイニシアティブOB、JICA技術プロジェクトで活躍

 モロッコから参加した研修員の一人、オスマン・エルモラビティ(Othman El Mourabiti)さんは、2017年から2年間、ABE研修員として名古屋大学の修士課程で土木工学を学びました。修了後、アフリカでのビジネス展開に関心を示す日本企業とABE研修員をつなぐJICA開催のネットワーキングイベントにおいて、国際協力の枠組みで開発途上国におけるインフラ整備支援を担う株式会社アンジェロセックに出会い、2020年以来同社にて橋梁・構造物設計を専門とする土木技師コンサルタントとして活躍しています。エルモラビティさんは現在、同社が業務実施するJICA案件をいくつか担当していますが、モロッコで実施中の技術協力プロジェクト「アフリカ交通人材育成プロジェクト」はそのひとつです。このプロジェクトは、道路・高速道路・港湾分野におけるモロッコの経験や知見をアフリカ各国に伝える研修を日本の協力により実施することが主要な活動のひとつとなっている三角協力の取り組みです。アフリカ14か国(道路分野は13か国)からの研修生に対して、道路分野では、高速道路や道路の計画・建設・維持管理に関する研修や、道路建設機械のメンテナンスに関する研修、港湾分野では、港湾運営管理や、荷役機械操作シミュレーション研修を行います。このプロジェクトの運営において難しいところは、関係機関や関係者が多岐にわたることで、皆の合意を得ながら物事を決めていくのに非常に多くの時間や労力を要しますが、エルモラビティさんは、モロッコ人と日本人、双方の考え方や仕事の進め方を理解する強みを活かし調整するという重要な役割を果たしています。

互いの強みを活かす協力で日・アフリカの架け橋に

(写真1)浴衣姿の男性 ABE研修員当時、日本では研究のみならず文化も堪能しました。

 エルモラビティさんは、日本で身につけた知識や技術や異文化理解の経験を活かし、日本、モロッコ、さらにはアフリカ各国を技術的、文化的懸け橋でつなぎ、其々の成長を見込むことに取り組むという、まさにABEイニシアティブが目指すものを体現していると言えます。エルモラビティさんは、日本とアフリカ各国は橋梁設計の分野において、互いの専門的技能を活かしあえると言います。日本は建設や維持管理技術を革新し続ける一方で、アフリカの多くの国には橋梁設計理論や方法論に深い見識があります。エルモラビティさんは、双方が備えるものから学びながら経験を積み、将来的にコンサルタントとして独立することを目指したいとのこと、益々のご活躍に期待したいと思います!

(写真2)改築中の建物を指さす二人の男性 土木技師のコンサルタントとして「アフリカ交通人材育成プロジェクト」実施のためモロッコに凱旋、モダン様式に改築中のラバト中央駅前にて

福岡県の中小企業がモロッコの食品廃棄物問題に取り組む
エコステージエンジニアリング株式会社

(写真3)なかぞの えいじ(中央) モロッコ側カウンターパート機関のセブ流域公社局長(左)と課長(右)、および筆者(中央)

エコステージエンジニアリング株式会社(福岡県福岡市)
代表取締役 中園 英司

(写真4)水が赤く変色した川の様子 セブ川流域周辺には多数のオリーブ搾油工場が建設されており、オリーブ搾油シーズンには工場から不法に排出された汚染水により川の水が赤く変色する。

 近年、食品ロスという言葉が社会問題としてクローズアップされておりますが、食品ロスは一般家庭で食べられることなく廃棄されてしまう食品のことだけでなく、その生産過程で廃棄される食材、つまり食品廃棄物も含まれます。アフリカに位置するモロッコの経済成長を支えるオリーブオイル産業において、大量の食品廃棄物が発生すると同時に、その廃棄物が土壌や水資源を汚染する環境問題の原因になっていることを知りました。「モロッコでの環境負荷の低減とオリーブ産業の付加価値向上のため、自社技術が貢献できるのではないか」と考え、JICA「中小企業・SDGsビジネス支援事業」に応募しました。
 モロッコで広く栽培されるオリーブの含油率は約18%であり、そのオイルを取り出す工程では、搾油粕と搾油廃液と呼ばれる食品廃棄物が大量に排出されます。さらに、これら廃棄物には河川や土壌に悪影響を与える成分が含まれるため、オリーブ搾油シーズンにはオリーブ由来の廃棄物の不法投棄により河川や土壌等の水質汚染、あるいは下水処理場の機能停止等が発生するなど市民生活に影響を与える事態になっています。

(写真5)工場から排出されるオリーブ搾油粕の様子 オリーブ搾油工場から排出されるオリーブ搾油粕。高濃度の有機物成分を含み、酸性度も高い。またポリフェノール系植物色素により河川やダム湖等の変色を招く。

『油温減圧式乾燥技術』×『オリーブ由来廃棄物』=リサイクル製品

(写真6)小型油温減圧式乾燥プラント JICA「中小企業海外展開支援事業 普及実証事業」にてモロッコ・フェズ市のドゥカラット産業団地に導入された小型油温減圧式乾燥プラント(2019年11月)

 オリーブ搾油粕は、廃棄物として放置すれば滲出水が土壌や水資源を汚染する原因となります。しかし、適正な処理を行えば付加価値の高い資源化製品の原材料となる可能性があります。そこで、2019年11月から、日本で培ってきた『油温減圧式乾燥技術』をモロッコに導入するために小型油温減圧式乾燥プラントをオリーブ搾油工場が集中するドゥカラット産業団地に設置し、オリーブ搾油粕から飼料等のリサイクル製品を製造する技術を確立するための実証事業を実施しています。新型コロナウイルスの影響を受け、事業は2020年2月から約2年間の中断を余儀なくされましたが、2021年12月に実証事業を再開し、今後はモロッコ側の政府機関や学術機関と協力しながら、オリーブ搾油粕の資源化に取り組み、モロッコのオリーブ産業全体の持続的発展および世界的な食品ロスの問題解決に貢献したいと考えています。

(図解)油温減圧式乾燥方式の原理油温減圧式乾燥方式は、熱媒体として油を使用し、減圧状態下で食品廃棄物と油を混合加熱しながら脱水することから
『天ぷら方式』とも呼ばれる。処理後の乾燥物の含水率は約5%。大量の食品廃棄物を短時間で飼料化する技術として、
日本国内の多くのリサイクル施設にて採用されている。
(写真7)粉砕されたオリーブ搾油粕 乾燥処理されたオリーブ搾油粕をプレスで脱油した後に粉砕し、飼料原料としての活用を目指す(2020年1月)
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