ODA(政府開発援助)
ODAメールマガジン第452号
協力のバトン ODA活動から次世代若者へ
菊池 正(帝京大学 経済学部 准教授)
筆者は帝京大学の経済学部で学生と学びつつ、帝京大学アジア交流プログラムを通じた産学連携の活動に参加しています。途上国のベトナム社会主義共和国及びその周辺国が対象国です。産学連携には、大学が持つ知見と企業が持つ技術から社会貢献、新しい価値、そして文化を生み出すことが期待されています。筆者は大学も企業も共に学校であり、その意味では次世代への夢を紡ぐ協力が大切と思います。
その意味で、日本のODAはよいテキストです。日本のODAは開発途上国に対して無償で提供される贈与の「無償資金協力」と「技術協力」、そして政府貸付等からなる「有償資金協力」の三タイプがあります。これら援助協力が一緒になり、「本当の貧しい」を探す努力。「ニーズのマッチング」を通した活動。そして助け合いの連鎖を生む「オールジャパン協力」に日本のODAの特徴があるように思います。
途上国の人々は何に貧しているのか
皆さんは、日本と比べて所得が低いから、途上国には援助が必要であるという意見に賛成でしょうか。ベトナムには日本と同じように百貨店、スーパー、そしてコンビニがあります。異なるのは日本では100円以下の値札が付いた商品はあまりみられませんが、途上国のベトナムでは100円以下の商品がお店の中で多く売られている事実です。例えば、コピーするときの料金は1~3円/枚。菓子パン一個は50~80円ほど。うどんは1杯が70円から200円ほどです。物価が相対的に高い日本と比べて、ベトナムでは安い値段で買い物や消費が出来るのです。
一方で、途上国の人が本当に貧しいのは人間開発であり人的資源なのです。筆者が初めてベトナムに渡った20代の頃、ハノイの中央郵便局や駅前でベトナム人男性が声をかけてきた日のことを覚えています。彼は「私はベトナム人だから、貧しい(poor)」というのです。しかし、彼の腕には当時の私のそれよりも高価な腕時計が光っていました。彼が表現した「貧しい」とは高等教育、大学に行けず、働きたくても仕事が求める知識や技術がない。つまり、人が豊かになるために必要な法律や制度、社会インフラが貧しかったのです。
現地コミュニティに開発協力ニーズがある


国際開発協力では目に見えないニーズを目に見える活動に変える努力が求められます。日本のODAが建設する空港、鉄道、高速道路などのODA案件は実際に訪れ、利用すると目に見えてその便利さが分かるプロジェクト例です。一方、案件前の途上国の人々が抱く開発ニーズは目に見えません。途上国では、ODA関係者が現地社会や市民、そしてそこで働く日系企業から話を聴き、開発課題を見つけます。次にこれを案件化出来るか、できないかを調査します。ベトナム南部の商業都市ホーチミン市にJICA専門家として赴任した時に、地方政府と日系企業、ベトナム人労働者からの声を聴き協議し、ビジネス活動改善の技術協力に従事しました。ベトナムの南部、ホーチミン市から南東に約100キロメートル、車で1時間ほど行きました地方の県であるバリアブンタウ省に日本のODA(有償資金協力)で建設したカイメップ・チバイ国際港があります。10万トン規模の大型コンテナ船が日本をはじめ世界各国から出来る大きな港です。しかし、そこで働く日系企業はベトナム政府が発表するビジネスルールを十分に理解できず、思い通りにビジネスを進めることが出来ませんでした。同省地方政府側からのさらに多くの日系企業が進出して欲しいニーズと、現地日系企業側からのベトナムで生産した製品を海外へ多く輸出したいニーズの歯車がうまくかみ合っていなかったのです。
現地日系企業の声を同省の行政に分かりやすく伝えつつ、変化を創るお手伝いしました。現地ベースでの対話を通じたプロセスから、同省の知事は現地日系企業がビジネスで困ったことがあれば、直ぐに相談できる窓口としてジャパンデスクを県庁内に設置(2014年7月1日)してくれました。外国では言葉、文化、そして仕事のやり方さえも日本と異なることは自然でしょう。しかし、双方のニーズを参加する皆が役立つ制度へと変化を創ることは可能です。
「オールジャパン協力」体制

ODAは経済協力開発機構の開発援助委員会(DAC)に参加する多くの先進国が行っています。日本のODAの特徴はオールジャパン体制で現地の開発協力に取組んでいる点です。例えば、途上国で貿易に携わる日系企業は各国JETRO事務所からの現地ビジネス情報が役立ちます。大使館などの在外公館では日系企業支援担当官が配置されています。JICAは幾つかの新興国に投資アドバイザーやシニアボランティアを派遣してきました。日本国内の地方自治体や商工会も職員を途上国に派遣してきました。今日途上国ではこれらオールジャパンの協力環境が整いつつあります。

将来への挑戦

国内インターンシップ(神奈川県川崎市)

海外インターンシップ(ホーチミン市)
グローバル時代が訪れてから久しくなり、多くの日系企業や日本人が海外、それも途上国で生活する機会が増えています。最近はIOT社会が急速に普及し、開発援助のよい活動が行われれば、ネット上で直ぐに伝わる時世となりました。クラウドファンディングやチャリティ活動を通じて、我々市民も海外の援助活動に参加しやすい社会が訪れつつあるように感じています。
現在、筆者は東京都八王子キャンパスで試みていることがあります。それは大学が地域のコミュニティ間を結び研究・教育のプラットフォームを形成することです。一例ですが、神奈川県川崎市にある日本ミクニヤ社と協働し、学生と一緒にインターンシップ訪問、大学での講演依頼、そして現地調査を実施しました。同社は「JICA 中小企業・SDGs ビジネス支援事業」に採択され、ごみ減量技術を用いて、ベトナム社会でごみ削減を目指したSDGs活動に取組みます。また、ホーチミン市で日本語教育授業を経営するSanko Gakuen International社とは、ベトナムの若者が本学の八王子キャンパスへ留学、そして日本人学生の現地インターンシップを一緒に協働しています。
筆者が日本のODA技術協力に従事したことは先述しました。先述した2社は当時に会社設立、視察調査を支援した企業です。今度は日系企業が日本とベトナムの次世代若者の教育活動を支援してくれています。ここでの2社のように、これまでの日本のODAの68年間の歴史(1954年開始)が生んだ次世代に希望をつなぐペイフォワード活動は多く、これからも誕生すると思います。これも日本のODAのよい特徴と思います。本年はコロナが終息し、学生と一緒に途上国を訪問できそうな兆しが見えてきました、いまから楽しみにしています。