ODA(政府開発援助)

2022(令和4年)年4月28日発行
令和4年4月28日

30年来続く難民の受け入れに長期的な解決策を

(画像1)ケニア

国連女性機関(UN Women)ケニア事務所 分析官 中野 美緒

 ケニアは30年に及び、ソマリアや南スーダンなどの近隣諸国から50万人以上の難民を受け入れています。難民キャンプにおいては、女性の識字率は44%(男性は80%)、女性の職業訓練の修了率は24%(男性は75%)と男女間の格差が大きくあります。紛争や政情不安により逃れてくる過程で、5人に1人の女性が性暴力にあうといわれており、難民の置かれている環境は男女で異なることから、国連女性機関ケニア事務所では男女間格差の是正及び女性の特定のニーズに対応すべく、日本政府の支援により「難民キャンプ及び受入コミュニティにおける女性の強靭性強化計画」を実施しています。

難民キャンプ及び受入コミュニティにおける女性の強靭性強化計画

(写真1)沢山置かれたバッグなどの商品 国連女性機関により設立されたカロベエイ手工芸組合の商品
【写真提供:国連女性機関ケニア事務所】

 同プロジェクトは2018年から続いてきた国連女性機関による難民支援の集大成として位置づけられ、女性が経済的自立を支援し、安全に暮らせる環境を提供することで、ケニアの難民キャンプへ長期的な解決策を提供するものです。
 2021年に始まった同計画は、160名の女性に対し職業訓練を提供しており、収入向上に貢献するだけでなく、経済活動を継続するための経営的支援を行います。例えば、難民とケニア人女性に対し手工芸品製作の訓練をしたのち、協同組合を設立し、ケニア政府に登録することで、銀行からの融資を受けることが可能となります。また女性たちを組織化し、共同生産することで大量生産が可能となり、企業と連携し、国内外で販売することができるようになりました。難民女性たちは移動の自由は制限されていますが、オンライン販売という方法で海外の市場へアクセスすることができるのです。

「トヨタ・ケニア・アカデミー」との連携

(写真2)自動車整備する様子 シングルマザーとして幼い子どもを育てながら働く女性の自動車整備士(写真右)【写真提供:国連女性機関ケニア事務所】

 また、ケニア人は安全性の高い日本車を好む傾向にあり、ケニアの路上では多くの日本車が走っています。そこで、国連女性機関はトヨタの研修施設である「トヨタ・ケニア・アカデミー」と連携し、女性整備士の育成に取り組んでいます。この背景には、2019年に日本政府の支援により、女性整備士を紹介したドキュメンタリーを制作し難民キャンプで上映したところ、整備士を志す若い女性が増えたことがあります。このように、国連女性機関は「自動車整備は男性の仕事」という社会の固定概念を変え、女性の職業機会拡大にも取り組んでいます。

女性の経済的自立

(写真3)ミシンでマスクを作る様子 コロナ対策のためにマスクを生産するカロベエイ手工芸組合に所属する女性【写真提供:国連女性機関ケニア事務所】

 女性の経済的自立は、社会にとって長期的な変化をもたらします。女性たちが安定した収入を得ることができるようなれば、家計を助けることができ、子どもたちの栄養状態の改善や教育に充てる資金の増加にもつながります。社会的には、女児の教育が必要であると認識されるようになり、女児の退学率・早期結婚の予防にも貢献します。また、女性が経済的に自立すると、女性が自信を取り戻し、家庭内暴力が減少する傾向にあります。家庭内暴力で苦しんでいた女性が、離婚するという決断も経済力の向上により可能となります。女性の地位向上は、女性の権利保護に貢献するだけでなく、母親である女性が社会的知見を身に着けることで、青少年の非行防止、犯罪・テロ組織への参加の予防にも貢献します。ケニアにおける難民人口の77%は女性と子どもであることを考慮すると、女性を支援することで、難民キャンプ全体に裨益するのです。
 国連女性機関は、難民女性に対して職業訓練を行う中で意識改革にも取り組んでいます。難民であっても、女性であっても、社会に貢献できると自信を取り戻す手助けをしています。その結果、上記カロベエイ手工芸組合の女性たちは、世界中でコロナが蔓延した際に、国内でのマスク供給が追い付かない中、真っ先に自分たちの持っている技術を使って、感染予防のためのマスクを作り始めました。女性たちは2000枚の布マスクを生産し、難民キャンプで活動する国連機関や国際NGOに提供しました。難民という立場に関わらず緊急事態に対応する、感染予防のためにリーダーシップを発揮するという意識改革につながったことが、国連女性機関の案件の成功と言えます。

(写真4)開所式での様子 国連女性機関により設立された総合支援施設「女性エンパワーメントセンター」の開所式に参加する筆者(写真左)とトゥルカナ郡ジェンダー大臣(写真左から二人目)【写真提供:国連女性機関ケニア事務所】

 30年間、人道支援により維持されてきたケニアの難民キャンプは転換点に来ています。人道支援により難民の生活を手助けするよりも、難民たちの自立を促進し、尊厳をもって生活できるよう、ケニア政府と共に新たな難民受け入れ体制を築いています。国連女性機関は日本政府との連携により、難民女性支援のモデル構築を行い、女性の社会経済的自立に貢献しています。

安全なトイレをすべての人に
ケニアにおけるUNICEFとLIXILの取り組み

(写真1)小学校子どもたちと小杉 穂高(右から2番) 小学校での衛生啓発活動

小杉 穂高(UNICEFケニア国事務所 水衛生担当官)

 UNICEFは日本政府の支援を受け、アフリカ東部のケニアにて日本企業のLIXILや現地のパートナーと協力し、農村地域の衛生改善、新型コロナウイルス感染予防や若者の雇用創出など重要な課題に取り組んでいます。

ケニアの衛生事情

 ケニアでは国民の半数以上が衛生的なトイレを使えない生活を送っており、人口の約1割にあたる400万人が野外で排泄しています。不衛生な環境や汚染された飲食物が原因の下痢性疾患が5歳未満児の主要な死亡原因であり、また慢性的な栄養不良とも関連しています。

UNICEFとLIXILの衛生改善に向けた取り組み

(写真2)SATOなどの文字と絵が書かれた外観 小学校に建設された男女別トイレ
(写真3)簡易トイレの様子 衛生面に配慮した簡易トイレLIXIL-SATO

 UNICEFとLIXILは2018年に、低中所得国において高品質かつ安価な衛生サービスの提供を実現すべく、国際的パートナーシップを結び、コミュニティや学校で衛生サービスを提供してきました。2020年には、日本政府の支援のもと連携事業「ユニバーサルヘルスカバレッジのための衛生プロジェクト」を開始し、ケニア国内の小学校127校において給水設備、障がいのある児童にも配慮した男女別トイレと手洗場の設置及び衛生啓発を実施しました。

(写真4)手を洗う少女 新規に設置された手洗場

 また、コミュニティでの衛生改善アプローチとして、コミュニティの住民自らが野外排泄を始めとする衛生問題とその解決方法を探すという、コミュニティ主導の総合的衛生アプローチ(Community Led Total Sanitation)を4,643のコミュニティでサポートしています。ファシリテーターや地域保健ボランティアを中心に、外部からの支援ではなく、地域で手に入るものを用いて、簡易トイレの建設や手洗器の設置などを行うなど、住民による努力が続けられています。これまで3,577のコミュニティが野外排泄の根絶を達成しました。これはサポートを行ったコミュニティ全体の約8割に及びます。

(写真5)集合写真 野外排泄を根絶したコミュニティでの式典

 新型コロナウイルス感染症の感染拡大による経済の悪化で、雇用や教育の機会が制限されるなどの課題にケニアも直面しています。UNICEFはLIXIL及び現地パートナーと協力して、市場主導型の衛生改善アプローチを導入するなど、若者の雇用問題にも取り組んでいます。

持続可能な開発目標(SDGs)ゴール6達成に向けた連携

 昨年11月には、日本国政府の支援のもと、野外排泄根絶に向けたケニア国地方政府のリーダーシップ及び連携を強化することを目的に、「Kenya Sanitation Alliance」の発足をサポートしました。この取り組みはSDGゴール6「すべての人々の水と衛生へのアクセス」の実現に向けた地方政府や開発援助機関との連携を強化する役割を果たすことが期待されています。

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