ODA(政府開発援助)

2021(令和3年)年7月9日発行
令和3年7月9日

職業訓練を通じて、シリアで人道緊急支援
若者や女性、子どもたちの未来のために

(画像1)シリア・アラブ共和国

国連工業開発機関(UNIDO)アグリビジネス部 石川 明美

(写真1)研修センター内の様子 修復前の研修センター(アレッポ)
(写真2)研修センター内の様子 修復前の研修センター(ダマスカス)

 2011年のシリア危機発生以降、現在も継続する軍事行動や現地通貨の暴落、食料不安等の影響により、壊滅的な被害を受けたシリアの人々は、今も国際社会からの多くの支援を必要としています。世界銀行によると、シリア危機によりシリア経済は60%も縮小したと言われています。かつて中所得国であったこの国では、現在人口の90%以上が貧困状態にあり、多くの若者には、生計手段を確保するためのノウハウと技術が欠如しており、職を持つことがままならない状況です。このような人道危機的な状況は、新型コロナウイルスの世界的流行により、さらに厳しいものになってきています。

 このような状況下にあるシリアにおいて、UNIDO(国連工業開発機関)は日本政府の支援により、2018年3月より2020年9月までシリアの人々に向けて、専門家を育成するための技術協力プロジェクトと、持続的な生計手段を確保してもらうため、産業セクターごとの研修プロジェクトを行いました(詳細は文末へ)。プロジェクトでは、首都ダマスカスとアレッポにおいて、シリア危機により影響を受けた人々に対し、生計手段となり得る技術職業訓練を優先的に提供しました。プロジェクトにおいては、まず職業訓練を提供するための施設を修復する必要がありました。ダマスカスで2か所、アレッポで1か所、職業訓練センター内の施設を修復した後、社会的弱者を対象とした6つの技術訓練コースを開講し、346名(育成された研修講師:131人、研修修了者215人。そのうち30%は女性。)が受講しました。

(写真3)教室内の様子 日本とUNIDOの連携で修復された教室と提供された電気制御システム研修機材(アレッポ)
(写真4)講義の様子 講師育成研修における空気圧および電気空気圧技術理論についての講義(ダマスカス)

 6つの技術訓練コースは、UNIDOがダマスカスとアレッポにおいて、実施した研修ニーズ調査と、労働市場調査の結果、研修受講希望者が多く、様々な分野で応用可能で、求人が多く見込めるため、所得獲得につながる可能性の高い、1 先進油圧技術、2 油圧技術、3 空気圧および電気空気圧技術、4 プログラマブル・ロジック・コントローラ(PLC)(注)、5 電気制御、6 英語と決定しました。宗教面や風習面で保守的な考え方が強い地域などでは、女性が、家族以外の男性と接触する可能性があるセクターで研修を受けたり、仕事をすることに対し、家族の理解を得る必要がありますが、広報活動に励むことで、受講者の30%を女性とすることが出来ました。女性にとって馴染みが薄いと思われるような研修内容でも、男女同様に機会を提供することは、国連機関であるUNIDOにとって非常に重要なことです。

(写真5)ヘッドホンをしてパソコンの前に座る受講生たち 職業選択の幅を広げる英語の研修(ダマスカス)
(写真6)立ちながら話を聞く様子 油圧技術の研修(ダマスカス)
(写真7)座ってモニターを見る女性 プログラマブル・ロジック・コントローラ(PLC)の研修(ダマスカス)
(写真8)機材を指さす男性とそれを見つめる三人 電気制御技術の研修(アレッポ)
(写真9)立ってモニターを見る女性と座っている男性 プログラマブル・ロジック・コントローラ(PLC)の研修(アレッポ)
(写真10)各テーブルに集まり研修する様子 電気制御技術の研修(アレッポ)

 ダマスカスにある大学で助教をしているハッサン・アリマムさんは言います。「UNIDOが提供してくれた講師育成研修への参加は、本当に素晴らしい体験でした。この研修が他の研修と違うのは、理論、個別指導、ケーススタディー、実践的な技術訓練が、それぞれ密接に関連した総合的な研修であったことです。今、私は、この研修で学んだ技術を必要な人たちに指導することが出来ます。」

 (注)PLCとは、機械が実行する動作を事前に順序付けて記憶させることで効率的に機械を動かせる装置のこと。家庭用電化製品をはじめ、エレベーターや信号機、自動販売機、自動ドアなど身近な設備や、ボイラーやポンプ、工場の自動化設備、発電所・変電所など、あらゆる分野で活用されている。(ロボット導入.com別ウィンドウで開くより要約)

レゴを活用した科学技術教育の機会を提供。笑顔で学ぶ子どもたち

(写真11)ロボット作りの様子 二人1組になって、レゴを使ったロボット作りを開始!
(写真12)タブレットを操作する様子 日本から供与されたタブレットには簡単なコーディング、ロボットの作動を制御するシステムの説明など、レゴの作り方のソフトが入っています。

 UNIDOは他に、科学・技術・工学・数学の教育分野(STEM教育=science, technology, engineering, and math教育)でのニーズに応えるため、レゴ(R)エデュケーションの小学生向け教材を利用して、次世代のシリア人(250名の小学生)の生活能力・学力を高める取組を行いました。この取組をさらに広げるため、ダマスカス周辺の農村部にある、UNICEFが修復したコミュニティセンターにおいて、UNIDOはUNICEFと共同で、30名以上の講師育成と350名の小学生を対象とした研修を行いました。

 この研修は、子どもたちにSTEM教育に関わる様々なトピックを学習する機会を与えるものです。子どもたちは、教材を利用して、二人組になって課題に取り組みます。これにより、子どもたちはSTEMの知識だけでなく、互いに協力し合い問題を解決することを学ぶことが出来ます。参加した子どもたちの96%が「勉強が楽しかった」、99%が「また勉強したい」という感想を述べており、84%が「一つの問題を解決するために、いくつもの解決方法があることが分かった」と言っています。また、98%の子どもが「科学技術を学ぶことが楽しくなった」と言っています。子どもたちは、ブロックとモーター、センサーがセットになった学習教材で、楽しくSTEM分野の勉強をすることを通じて、学校の外の厳しい現実を忘れることが出来ました。

(写真13)集まって相談する様子 このグループは、みんなで相談しながら作業を進めています。
(写真14)先生の話を聞く子どもたち 先生にも質問しながら、作業を進めます。
(写真15)完成したロボットと子どもたち 完成しました!ブロックで作られた完成品を、実際に動かしてみます。
(写真16)みんなで手をつなぎ合い掲げる様子 コミュニティセンターで行われたSTEM教育研修に参加した子どもたち。

 シリアにおいてUNIDOは、ダマスカスとアレッポのコミュニティの人々と密に協力することで、彼らの必要としている支援の把握に努めてきました。現地の事情を踏まえ、現地の人々を中心に据えた支援としての、包括的かつ予防的な『人間の安全保障』アプローチにより、UNIDOは今後もシリアの人々の強靭性強化へ向けた支援を行っていきます。

(写真17)石川明美(中央) ナイジェリア北東部出張の際に現地の女子高生と
著者略歴:
名古屋大学大学院国際開発研究科修士課程修了後、開発コンサルティング会社、個人開発コンサルタント、在ラオス日本大使館(専門調査員)、東京大学大学院総合文化研究科『人間の安全保障プログラム』(博士研究員)、JICA派遣専門家(アフガニスタン)を経て、2015年11月よりUNIDOアグリビジネス部に勤務。専門は、農業農村開発(農業の社会経済的側面)、紛争やその他の危機の影響下にある地域・国での生計向上支援。これまで、全世界20か国以上の発展途上国で、案件形成、実施、モニタリング・評価に従事。国際貢献/人間の安全保障学博士。
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(ロゴ画像)UNIDO

 UNIDO(United Nations Industrial Development Organization 国際連合工業開発機関)は、産業開発を通じて開発途上国・新興国の経済発展を支援する国連の専門機関。日本は、これまでイラク、リベリア、南スーダンなどで、危機的状況後の生産的な回復や復興、持続可能な生活ができるように促進するUNIDOの活動を支援してきました。また、投資・技術移転促進事務所(ITPO)東京を通じて、開発途上国・新興国の持続的な経済発展を支援するために、日本からの直接投資や技術移転を促進しています。

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