ODA(政府開発援助)

2021(令和3年)年3月5日発行
令和3年3月5日

ピーナツ油の生産で明日への希望を!
南スーダンの女性の自立を後押し

(画像1)南スーダン共和国

国連工業開発機関(UNIDO)アグリビジネス部 石川 明美

 南スーダンは、2011年7月にスーダンから独立して建国された世界で一番新しい国です。アフリカ大陸では54番目、世界全体では193番目に誕生した国です。南スーダンでは、その建国2年後の2013年12月、同年7月に解任されたマシャール副大統領派とキール現大統領派との衝突を機に国内情勢が不安定化し、2015年には両派間で衝突解決に関する合意文書に署名がされたものの、2016年には再び衝突が発生し、その影響で420万人もの人々が家を追われました。そのうち、約200万人が国内避難民となり、約220万人は難民として国外に避難したと言われています。両派間の衝突は、2018年8月に恒久的停戦合意文書に署名されるまで断続的に継続していましたが、昨年2月ついに待望の統一暫定政府が発足しました。今後の平和の定着が期待されますが、対立の爪痕は深く、また昨今のコロナ禍の影響で、支援が必要な人たちが数多くいることに変わりはありません。

 今回は、国内避難民とその受入れコミュニティーを対象とした支援プロジェクトについて御紹介したいと思います。南スーダンの首都であるジュバ近郊にある国内避難民キャンプの人口は約8,000人。人口過多のため、テントが非常に密集して立っておりプライベートはほぼありません。テントはビニールシートで作られた非常に簡素なもので、土の上に立っており、雨が激しく降った際にはテントの中に雨が降り込み、床はドロドロになってしまうことが簡単に想像できます。生計手段は非常に限られており、キャンプ内の粗末な市場で、外の市場から買ってきた野菜、果物、干し魚などを細々と売ることぐらいしかありません。食料は常に不足気味で、水は井戸があるものの、水の争いが絶えず、トイレはNGOが支援したものがありますが、数が足りておらず、夜に外で用を足す女性に対する暴力事件が頻繁に起こっています。

ピーナツを元に農産加工プロジェクトを開始
生計手段獲得への一筋の光に

(写真1)プロジェクトの看板 マザレロ女性支援センターには、共同で食品加工ができる作業場が整備されました

 このような状況の下、UNIDOは2019年4月から2020年8月まで、日本政府の支援により、国内避難民とその受入れコミュニティーを対象に、社会的安定に貢献すべく、ピーナツとゴマのバリューチェーン構築を通じた雇用・所得機会の創出を目指すプロジェクトを実施しました。

 現在、ジュバやその近郊で売られている食用油は、隣国のスーダンやウガンダから輸入されたものです。アガック第1貿易・工業省次官によりますと、輸入された食用油は時に品質が悪く、廃棄せざるを得ないこともあるそうです。プロジェクト対象地であるジュバ近郊では、食用油の原料となるピーナツ等が多く栽培されています。また、ピーナツ油やゴマ油が一般的に広く消費されていることから、市場において国内産の食用油の需要が見込まれました。よって、地元で調達可能なピーナツ等を利用した食用油の生産・販売を通じて、国内避難民やその受入れコミュニティーの女性たちの生計を向上させることができるのではないかと考えました。地元からの材料調達を前提としており、受入れコミュニティーの農家が新たな販売先を確保できることも、決め手となりました。

 そしてプロジェクトでは、生計手段サポートパッケージとして、グループ貯蓄・貸付キット、収穫後処理機材、搾油プラントを供与すると共に、244人(そのうち230人が女性)に対し、自分たちの力で小さなビジネスを始められるよう起業家教育、グループ貯蓄・貸付、収穫後処理機材、搾油プラントの使い方の指導、食品加工における安全性に関する研修を実施しました。

(図解)生計手段サポートパッケージを説明する図。生計手段サポートパッケージでは、国内避難民やその受入れコミュニティーに対して、グループ貯蓄・貸付キット、収穫後処理機材、搾油プラントを供与し、自分たちの力で小さなビジネスを始められるよう起業家教育、グループ貯蓄・貸付研修、収穫後処理機材、搾油プラントの使い方の指導、食品加工における安全性に関する研修を実施しました。
【図解】プロジェクトで実施された生計手段サポートパッケージ

 研修を始めるにあたっては、研修実施の支援をし、プロジェクト終了後もプロジェクトの活動を継続できるよう14人のリーダーを育成しました。起業家教育では、わかりやすいイラストなどを多用し、ビジネスを始めるための心構えや、ビジネスプランの作成方法の指導等を行いました。グループ貯蓄・貸付では、14人のリーダーを中心にグループを作ってもらい、週に1度時間を決めて集まり、各人からグループで決められた少額の現金を集め、それを台帳に記録し、安全に保管すること、そして貯めたお金はグループ全員の賛同を得て、必要なグループ員に貸し出す仕組みを教え、活動が根付くように、研修終了後も引き続き助言や指導を行いました。その他、南スーダン国家基準局等に対し能力強化研修を実施後、連携して、食品加工における安全性や衛生についての研修も実施しました。

 生計手段サポートパッケージの供与の結果、2020年1月11日から8月29日までの間に、244人(7グループで)、4,690,520南スーダンポンド(日本円で約30万円)のお金を貯めることが出来ました。このことにより、今後、自分たちの資金で食用油生産・販売を始めること、また病気などの急な出費に備えることができるようになりました。コロナの影響で、生産した食用油を大々的に売り出すところまではいたりませんでしたが、食用油の売り先としては、ホテル、食堂、市場などの目処がついており、今後の生産・販売による所得の獲得が期待できます。

プロジェクトで生計への自信をつけ
笑顔がはじける南スーダンの修了生たち

(写真2)2019年12月の研修修了式の模様 2019年12月の研修修了式の模様
(写真3)お互いに白い粉をつけ合う様子 お祝い事があるときは、お互いに白い粉をつけ合うことになっているようです

 2019年12月、岡田前駐南スーダン日本大使臨席のもと、修了式を行いました。起業家教育終了後には、自分たちでビジネスを始める自信がついたためか、同一人物とは思えないほど生き生きと変貌した様子の修了生もいました。我々のプロジェクトが支援した人々のほとんどは、長く続いた不安定な国内情勢のため、ほとんど学校に行ったことがありません。修了証書など、人生で初めてもらったのでしょう。修了式では、弾ける笑顔が印象的でした。

(写真4)左から、アガック第1貿易・工業省次官、岡田前大使、筆者 左から、アガック第1貿易・工業省次官、岡田前大使、筆者です。修了生たちの様子をみて思わず笑顔になりました
(写真5)修了書を手に記念撮影する修了生たち 2019年12月の研修修了式後、修了書を手に
記念撮影する修了生たち

 また、プロジェクトの終了時には、堤駐南スーダン日本大使や南スーダン高官の臨席のもと、ピーナツ油の製造過程と生産したピーナツおよびゴマ油のお披露目会を開催しました。お披露目会は、地元のテレビ局のニュースで取り上げられ、南スーダン国民に驚きと喜びをもって受け入れらました。また、ニュースのおかげで、たくさんの照会や注文を受けることができました。

 プロジェクト受益者の多くは、教育を受けられなかっただけでなく、派閥間による衝突の混乱により目の前で夫を殺されたり、ジュバまで逃げてくる途中で暴力を受けたりと、凄惨な経験をしている人たちです。そんな彼女たちが本来持つ力を発揮し、自分たちの力で生きていけるよう支援することは非常に重要だったと思っています。この先も、プロジェクトの実施協力者だったドン・ボスコのサレジアン女子修道会の手を借りつつ、彼女たちがプロジェクトから得た知識や技術を使って、経済的自立への道を歩み続けてくれること、そして南スーダンに一刻も早く平和が定着することを願ってやみません。

(ロゴ画像)UNIDO

 UNIDO(United Nations Industrial Development Organization 国際連合工業開発機関)は、産業開発を通じて開発途上国・新興国の経済発展を支援する国連の専門機関です。オーストリアのウィーンに本部を置き、世界49か国に地域事務所、3都市に連絡事務所、東京を含む8か国9都市に投資・技術移転促進事務所(ITPO)を設置しています。2021年2月現在の邦人職員数は、国吉事務次長を筆頭に18名(689名中)で、東京に3名、本部に15名勤務しています。日本は、これまで補正予算や国際機関連携無償資金協力を通じて、シリア、イラク、リベリアなどで、危機的状況後の生産的な回復や復興、持続可能な生活ができるように促進するUNIDOの活動を支援してきました。また、ITPO東京を通じて、開発途上国・新興国の持続的な経済発展を支援するために、日本からの直接投資や技術移転を促進しています。

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