ODA(政府開発援助)

2020(令和2年)年12月25日発行
令和2年12月25日

「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の実現に向けた取組
ベトナムの海上保安能力向上支援について

(画像1)ベトナム

在ベトナム日本国大使館 政務班/経済班 柿沼 俊二

(写真1)ベトナム海上警察巡視船CSB6001 日本政府が供与した中古船、ベトナム海上警察巡視船
「CSB6001」、(元水産庁取締船)

 近年、インド太平洋地域は、海洋権益を巡る摩擦が増加しており、経済活動の活発化によって、衝突事故や油流出など、災害の危険性も高まっています。このような海上の脅威には、一義的に各国の海上保安機関が対応することになります。しかし、グローバル化が進み、沿岸国一国のみで対応することは困難であるため、国境を越えた連携・協力が不可欠です。

 日本は、ルールに基づく自由で開かれた国際秩序を実現することにより、地域全体、ひいては世界の平和、繁栄を確保していくとの考え方に根差した「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」構想を推進しています。FOIPの実現に当たって、海洋安全保障及び海上安全の確保は重要であり、各国海上保安機関の能力向上やそれらの機関との連携強化に向けた取組が進められています。

 ベトナムで海上法執行や海上捜索救助業務を行っている組織は、ベトナム海上警察の他、農業農村開発省漁業監視局、海上捜索救助調整センター等、複数存在しますが、メインの海上保安機関は、ベトナム海上警察(Vietnam Coast Guard)となります。ここでは、海上警察の能力向上支援を取上げます。

(写真2)ベトナム海上警察巡視船CSB6003 日本政府が供与した中古船、ベトナム海上警察巡視船
「CSB6003」(元漁船)

 ハード面の支援として、2014年度ノン・プロジェクト無償資金協力により、海上警察に中古船(大型漁船)3隻を供与しています。この3隻は巡視船として改造され、ベトナムの沿岸、南シナ海で活用されています。さらに、2017年6月にE/N(交換公文)が締結された円借款(円借款額約366億円)により、新造巡視船(80メートル型多目的船)6隻が供与される予定です。緊縮財政策に舵を切ったベトナム財政当局の影響により、L/A(円借款貸付契約)手続きが大幅に遅れ、本年7月にようやく調印に至りました。このような背景もあり、早期供与への期待がますます高まっています。

(写真3)救難セミナー、曳航救助の紹介の様子 2019年10月、海上保安庁MCTによる
救難セミナー、曳航救助の紹介

 巡視船の保有隻数が増えれば、それを運用する人材の育成が急務になります。2015年9月、「海上保安庁とベトナム海上警察との間の協力覚書(MOC)」が交換されました。本MOCに基づき、海上保安庁は、海上警察に対してさまざまな研修・セミナー等のソフト面の支援を実施しています。昨年の例を挙げれば、海上保安庁モバイルコーポレーションチーム(海上保安庁MCT:2017年10月に発足した諸外国の海上保安能力向上支援に当たる専従部門)による、立入検査訓練(6月)、ダナンから呉までの乗船研修(7月)、捜索救難セミナー(10月)が実施されました。

(写真4)航空機ファルコン 2018年12月、航空機「ファルコン」が
ハノイ・ノイバイ空港に着陸
(写真5)ベトナム海上警察巡視船CSB8002が横浜に入港する様子 2019年12月、ベトナム海上警察巡視船
「CSB8002」が横浜に入港。東南アジアの海上保安機関の
巡視船としては初の日本への寄港となった

 なお、巡視船の寄港は、両機関の友好関係の象徴的イベントです。MOCが交換された2015以降毎年(本年は除く)、海上保安庁所属船がダナンに寄港しています。直近では、昨年7月に練習船「こじま」がダナンに寄港し、2018年12月に、航空機「ファルコン」がハノイに着陸しました。なお、昨年12月には、ベトナム海上警察巡視船「CSB8002」が横浜に寄港しました。東南アジアの海上保安機関の巡視船の日本への寄港は、これが初となります。

(写真6)練習船こじま 2019年7月、練習船「こじま」がダナンに入港
(写真7)MCTによる立入検査についての講義の様子 2020年12月、MCTによる立入検査についての講義
(写真提供:海上保安庁)
(写真8)MCTによる制圧の実技講習の様子 2020年12月、MCTによる制圧の実技講習
(写真提供:海上保安庁)

 また、本年9月から、ベトナム海上警察に対するJICA技術協力が開始されました。新型コロナウイルスの感染拡大により、双方の往来が困難な状況になりましたが、本年12月に、ベトナム海上警察職員10名が参加し、オンライン形式での海上法執行に関する研修が実行されました。

 海上の安全を確保し、法の支配に基づく平和で安定した海を実現するためには、各国の海上保安機関の連携協力、海上保安能力向上を一層進めなければなりません。このコロナ禍において、両国の往来が制限される中でも、知恵を絞り、支援・連携を継続していく必要があります。

平和で安定したインドネシアの海を目指して
コロナに負けず、海上保安機関の能力向上支援を推進

(画像1)インドネシア

在インドネシア日本国大使館 政務班 野田 洋介

 インドネシアはインド太平洋地域の中心に位置し、マラッカ海峡、ロンボク海峡など重要なシーレーンを抱える海上交通の要衝です。しかし、周辺海域では、海賊、テロ、違法操業などのさまざまな脅威に晒されており、この海域の安全確保は極めて重要な課題となっています。

(画像2)インドネシア海域で発生した事件・事故マップ(BAKAMLAホームページより) 2020年7月から11月の5か月間にインドネシア海域で
発生した事件・事故マップ(BAKAMLAホームページより)
(画像3)凡例:衝突・転覆など海上事故 約400件、地震など自然災害 約100件、密輸 約50件、違法業漁等 約40件、違法薬物取引 約10件、油流出など海洋汚染 約10件、その他 約20件(2020年11月末現在)

 このインドネシア周辺の海を守っている機関のひとつが、インドネシア海上保安機構(BAKAMLA)です。この機関は2014年の改組によって設立したまだ若い組織であることから、日本は海上保安庁の経験や実績を活用し、合同訓練などを通して、BAKAMLAの海上保安能力の向上に貢献しています。

(写真1)日夜パトロールを続けるBAKAMLAの巡視船 日夜パトロールを続けるBAKAMLAの巡視船
(写真2)インドネシア・ジャカルタへ派遣した海上保安庁巡視船つがる(右) 2018年7月、BAKAMLA等関係機関との合同訓練のために
海上保安庁巡視船「つがる」(右)をインドネシア・ジャカルタへ派遣
(写真3)オンラインで制圧術技の実演をする海上保安庁MCTの様子 オンラインで制圧術技の実演をする海上保安庁MCT
(写真4)モニターに映し出された、制圧術技を反復練習する研修生たちと 模範演技を行う海上保安庁MCT(右上) モニターに映し出された、制圧術技を反復練習する研修生たちと 模範演技を行う海上保安庁MCT(右上)

 今回は、先日オンライン形式で開催した犯罪取締り研修についてご紹介します。

 2019年6月に署名した海上保安庁とBAKAMLAの海上安全分野における協力覚書を踏まえ、2020年1月からJICA技術協力「インドネシア海上保安能力向上」が開始され、海上保安庁による訓練・研修等を通した能力向上支援がスタートしました。第1回目の研修は3月にBAKAMLA職員を日本に招いて実施することとなり、BAKAMLA側の要望を踏まえた研修内容を企画し、受入れ準備も全て整い、さあいよいよ支援開始という矢先、コロナ禍に見舞われ、延期を余儀なくされました。

 しかし、地域の安全確保に欠かせないBAKAMLAの海上保安能力向上は待ったなしです。コロナ禍を理由に先送りにするわけにはいきません。そこで、BAKAMLAと打合せを重ね、犯罪取締りに関する研修をオンライン形式へ変更して行うことが決まりました。

 研修は7月6日から9日の4日間にわたって行われ、研修内容は、容疑船舶に対する立入検査手法や、取締りに必要な国際法講義など多岐にわたりましたが、中でも研修生の関心が高かったのは、犯人逮捕に必要な制圧技術の講義でした。講師の海上保安庁モバイルコーポレーションチーム((注)海上保安庁MCT:2017年10月に発足した諸外国の海上保安機能の能力向上支援に当たる専従部門)が、ウェブカメラを前に、制圧の基本となる5つの術技を実演すると、海を隔てたBAKAMLA研修生たちも模範演技を真似て、関節技などの習得に積極的に取り組む姿が印象的でした。

(写真5)モニターに映る研修参加者のニューノーマルな集合写真 研修参加者の集合写真も「ニューノーマル」で

 日本側にとってもオンライン研修は初めての試みであり、研修効果をより高めるための試行錯誤が続きましたが、場所を選ばないというオンラインのメリットを活かし、今回の研修では、BAKAMLAの地方事務所や巡視船など計18会場、約70名の研修生をインターネットで結び、地方まで隈なく技術支援できたことは大きな成果となりました。

 私が所属する在インドネシア大使館のモットーは、日本とインドネシアで

 共に働き、共に進む!
 Kerja Bersama, Maju Bersama!(クルジャ ブルサマ、マジュ ブルサマ)

です。コロナ禍で思うようにいかないこともたくさんありますが、みんなで知恵を出し合って、今回のオンライン研修のように今できる支援の形を考え、これからもインドネシアと共に働いていきたいと思います。

 そして、日本とインドネシアがFace to Faceで交流できる日が1日も早く戻って来ることを心から願っています。

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