ODA(政府開発援助)
ODAメールマガジン第417号
コロンビアの平和構築を後押しする
日本の地雷除去分野での協力
在コロンビア日本国大使館 開発協力班 山下 航
日本でコロンビアと聞くと,2018年サッカー・ワールドカップでの日本との対戦などが注目を集める一方で,未だに麻薬抗争やマフィア,暴力といった負のイメージを持たれている方も多いかもしれません。しかしながら,豊富な天然資源や農産物を活かした堅実な経済運営や,近年の安定化政策によるゲリラ掃討の奏功,左翼ゲリラ(FARC)との和平合意などにより,ここ十数年間で,特に治安情勢をはじめとして国内状況は大きく改善してきています。コロンビアに進出した日系企業は100社に達するなど,両国間はさまざまな分野での交流が盛んになってきています。
振り返ると,日本とコロンビア両政府の外交関係は1908年5月の修好・通商・航海条約の締結にはじまり,現在110年余が経過しています。コロンビアに在住する日系人は2,600人強にのぼり,日系人社会の存在は,両国関係で特別な意味を持っています。特に多くの日系人が住むバジェ・デル・カウカ県カリ市において,2019年10月には日本人移住90周年を祝う盛大な式典が開催されました。
ODAで地雷除去機の供与と技術支援
日本に対して大統領から感謝の言葉が贈られる
このコロンビアで日本は,紛争が激しかった時代より一貫して平和構築のための支援を行ってきました。最も代表的な分野は地雷除去支援です。コロンビアでは,長年続いた政府と反政府武装組織との紛争において埋められた対人地雷により,これまで11,000人を超える地雷被害者が発生し,現在でも国土の広範囲に広がる地域において,地雷埋設の疑いが残っていると言われています。このため日本は,2000年代初頭から地雷除去機材の供与,地雷除去に取り組む組織の強化や活動支援,地雷被害者のリハビリテーション支援など,さまざまな協力を実施してきています。
2019年11月には,コロンビア国内38市での地雷撤去完了を宣言する大統領府主催の記念式典にあわせて,新たに8台の地雷除去機(うち1台は山間部でも作業可能な小型機)や機材を運搬するための4台のトレーラー,地雷除去隊員の移動用の14台のバンなどの供与式を行いました。供与式では,イバン・ドゥケ大統領から森下駐コロンビア日本国大使に対し,日本からの継続的な協力がコロンビアでの地雷除去活動の推進に貢献するものであるとして,改めて謝意が示されました。
また,大使館ではJICAコロンビア支所の取組とも連携しながら,日本・コロンビア・カンボジアの「三角協力」による地雷除去の研修プログラムも実施しています。コロンビア国内で地雷除去活動に従事する陸軍隊員や地雷除去政策を立案する政府職員などをカンボジアの地雷対策センター(CMAC)に研修員として派遣し,地雷除去の活動や機材操作など知見やノウハウの技術移転を行うことを目指すものです。カンボジアに派遣される予定の研修員からは毎回高い意欲や期待が寄せられるとともに,研修後は陸軍や政府機関などにおいて,地雷除去活動の第一線で活躍しています。
2016年に左翼ゲリラとの和平合意が締結されたコロンビアでは,治安は大幅に改善されつつあるものの,いまだ国内各地において,手足の一部を失われた対人地雷被害者と思われる方など,長年の紛争被害者を見かけることもしばしばあります。これまで蓄積されてきた日本の地雷除去分野での協力を通じて,和平合意履行の途上にあるコロンビアにおける新たな対人地雷被害者発生の防止や,紛争被害者も含めた国民の社会統合の促進,ひいては同国の持続的な社会経済発展に貢献できることを切に願っています。
「負の遺産」のないジョージアのために
在ジョージア日本国大使館 小畑 政孝 参事官,橋本 典子 草の根委嘱員
ジョージアは,2015年まで日本ではグルジアという国名で知られていましたが,特に最近では,相撲界では栃ノ心関の活躍,そして一部外食チェーンが提供しているジョージア料理の「シュクメルリ鍋定食(鶏肉のにんにくミルクソース煮込み)」で益々認知度を高めつつあります。この国は,南コーカサスに位置し,山岳地帯や黒海地域の観光地にも恵まれています。自然豊かな大地,古い伝統と歴史,世界遺産,有史以前から続くワイン造り,そして旅人をもてなすホスピタリティあふれる国民性は,この国の大きな魅力といって良いでしょう。
その一方で,この国が内外に抱える問題は少なくありません。特に隣国ロシアとの間で2008年に戦争が起きたことは記憶に新しいと思いますが,その結果,現在もロシアと国境を接するアブハジア地域およびツヒンバリ(南オセチア)地域は,トビリシ当局の実効支配の及ばない状態が続いています。そして,これら2つの地域とのロシアとの境界線上は今もEU監視団が警備に当たるなど緊迫した状況に置かれています。この境界線付近には,2008年時の戦争による遺物として地雷や不発弾等が現在も多数存在し,地元住民の日常生活を脅かしてきています。地方の社会生活環境を改善し発展させることが国家としての大きな課題となっていますが,そのためにもまずは地元住民にとって住みやすい,安心して暮らせる環境の整備が不可欠です。しかしながら,国全体としてこのような問題への手当までは十分な配慮が行き届いていないのが実情です。
日本政府は1998年からジョージア国内各地を調査し,さまざまな社会問題に対応するための支援を,草の根・人間の安全保障無償資金協力を通じて取り組んでいます。今回紹介するのは,地元住民の生活環境の抜本的改善のために,地雷等の除去を目的として実施した案件です。
日本政府は平成29年度の案件として,地雷等の除去活動を行っている英国のNGO「ヘイロー・トラスト(HALO Trust)」と連携して,アブハジアと接するサメグレロ=ゼモ・スヴァネティ地方,そして南オセチアと接するシダ・カルトリ地方の地雷等除去作業を実施しました。その結果,約63万5197平方メートル(東京ドーム13個半分)の敷地に安全な環境をもたらし,シダ・カルトリ地方の地元住民は以前のように,いつ何時,地雷や不発弾に触れてしまわないかと怯えることもなく,安心して墓参や教会に通うことができるようになりました。また,サメグレロ=ゼモ・スヴァネティ地方での地雷等除去計画の実施地のすぐ近くには,夏になると400名以上の子どもが集う青少年用のキャンプサイトがありますが,その子どもたちも安心して屋外活動を楽しむことができるようになりました。さらに一部の土地は放牧地や農耕地として利用されることで,住民の収入を増加させることができるようになりました。
この引渡しには,地元の村長や被供与団体である「ヘイロー・トラスト」のほか,アブハジアおよび南オセチアとの行政境界線上において監視を行っているEU監視団,内務省,国防省他多数の関係者が駆けつけてくれました。この案件がいかに大切であり,注目されたかを窺わせるものでした。
以前は地雷や不発弾などのため放置されていた土地は,ちかく,地元住民が行き通い,豊かな農産物をもたらす恵みの大地として改めて生まれ変わることになるでしょう。そして地元住民の方々が,日々生活を営む中で,いつかこうした支援に思いをはせてくれるのかもしれません。
パレスチナの子どもたちに
安全で衛生的な学校設備をODAで支援
在ラマッラ出張駐在官事務所 経済協力班 成田晃洋
パレスチナ自治区は,ガザ地区とヨルダン川西岸地区から構成されていますが,パレスチナと言えば,ガザ地区におけるデモや衝突について報道されることが多く,ヨルダン川西岸地区の現状についてはイメージが浮かびにくいかもしれません。しかし,イスラエル・パレスチナ間の衝突,イスラエルによる分離壁建設,占領政策による移動の制限等によって経済発展が進んでおらず,ヨルダン川西岸地区もまた厳しい状況に置かれています。
そこで,今回は,パレスチナ西岸地区における教育に関する草の根・人間の安全保障無償資金協力についてご紹介します。
共学校の建替支援
安全できれいな校舎で勉強できるように
パレスチナでは,0歳から14歳の若年層の占める割合が約38%と高く,また,年2.6%という高い人口増加率を維持しているため,年々子どもが増えています。そのため学校における教室やトイレなどの設備不足が慢性的に深刻化していますが,教育環境を改善するための十分な整備を行えていない状況にあります。
在ラマッラ出張駐在官事務所(対パレスチナ日本政府代表事務所)では,パレスチナの子どもたちの教育環境を改善し,衛生的で文化的な教育環境整備のため,1995年からこれまで,草の根・人間の安全保障無償資金協力を通じ,教育分野で162件,総額約1,100万ドル(約12億円)の支援を行っています。
ウリフ村共学校は,開校当初1教室のみでしたが,生徒数の増加に伴い現在15教室にまで教室数が増えました。そのうち4教室が入った平屋建て校舎は1950年代に建設されたもので,深刻な老朽化により,壁や天井の破損や雨漏りなどにより教室の衛生環境が悪化していました。さらに天井塗装の剥落などにより生徒の安全面でも懸念がありました。そこで老朽化していた学校の校舎の建替を実施し, 1年生108人の学習環境を大きく改善しました。
学校の校舎建替完了式典では,強風が吹いていたにもかかわらず,式典1時間前から校門に全校生徒が日本とパレスチナの旗を持って整列し,みな笑顔で出迎えてくれました。
女子学校のトイレ棟建設を支援
安心して勉強できる環境に
また,アッカーバ市立女子学校は開校当初3教室のみでしたが,生徒数の急激な増加に伴い,現在30教室をもつ規模に発展しました。しかし,生徒315人と教師25人が利用する第2校舎にはトイレが設置されておらず,校舎外に設置されたコンテナ式簡易トイレ2基を使用していたものの,深刻なトイレ不足により生徒の衛生・学習環境が確保されていませんでした。また,生徒がトイレを気にして学校に行きづらくなったりと学習意欲にも影響を与えていました。さらに,同校には8名の障がい児が登校しているものの,障がい児用のトイレも設置されていませんでした。そこで日本は同校に障がい児用を含む全12の個室を備えたトイレ棟を整備し,同校の衛生・学習環境を大幅に改善しました。
これに対してパレスチナ教育省は,日本からの支援に感謝の意を示し,「アッカーバ市立女子学校」の名称を「日本学校」と改称し,日本からの支援に感謝の意を示してくれました。生徒も名称変更にとても喜んでいるとのことで,日本とパレスチナの友好関係がパレスチナの地方部においても確実に実を結んでいることが実感できました。なお,当館でこれまで多くの草の根無償資金協力を実施してきましたが,校名まで変更されたのは初めてであり,式典に参加した大使および館員にとっても嬉しいサプライズとなりました。
日本政府はパレスチナに対して無償資金協力を通じて,一貫して地域社会に密着した支援を継続してきており,パレスチナにおいてその支援内容は高く評価されています。パレスチナの教育分野の発展は,パレスチナの将来を担う子供たちを支え,中東和平に繋がる地域の安定と繁栄に資するものであり,日本政府は引き続きこの分野でも支援を継続していくことが望まれています。