ODA(政府開発援助)
ODAメールマガジン第326号
ODAメールマガジン第326号は,ベトナム社会主義共和国からの「広範な戦略的パートナーシップの深化へ」,「防御の港から世界に開く港へ,ラックフェン国際港建設事業」とシリーズ「中東の難民問題」第8弾としてレバノン共和国から「子どもの教育を通じて取り組む,難民と受け入れコミュニティーの融和促進」,シリーズ「TICAD VI」第3弾としてコートジボワール共和国から「住民に信頼される行政を目指して」をお届けします。
広範な戦略的パートナーシップの深化へ
原稿執筆:在ベトナム日本国大使館 井上 賢司 二等書記官
2013年,日本とベトナムは,両国の外交関係樹立40周年を盛大かつ成功裏に祝しました。その後も,両国の要人往来,日本企業のさらなる進出,来日するベトナム人の増加,ベトナムの社会経済の発展を下支えするODA事業の着実な実施などを通じて,両国関係は平和的,安定的,協力的に深まってきています。
このような良好な二国間関係を象徴する出来事として,2014年3月には,チュオン・タン・サン国家主席(当時)が国賓として来日され,日越関係を従来の「戦略的パートナーシップ」から「アジアにおける平和と繁栄のための広範な戦略的パートナーシップ」という新たな協力の次元へと発展させることが,両国首脳によって表明されました。このことは,経済や経済協力だけではなく,政治・安全保障や海洋協力,文化・学術協力など,多様な分野で,アジアの平和と繁栄のために協力し合うパートナーとして両国関係を育んでいくことを意味しています。
この「広範な戦略的パートナーシップ」の下,2015年9月にグエン・フー・チョン共産党書記長の来日が実現し,2016年5月には,4月に就任したばかりのグエン・スアン・フック首相が,G7伊勢志摩サミットに際して来日されました。来日中に行われた安倍総理大臣との首脳会談では,両国関係のますますの発展と強化について率直な意見交換が行われました。
経済協力においては,2015年に完成したノイバイ空港新国際線ターミナルとニャッタン橋(日越友好橋)が近年の目玉です。空の便で首都ハノイに到着する旅客は,ノイバイ空港新国際線ターミナルに着き,空港から市内に向かう際にニャッタン橋を渡ります。目に見える日越友好のシンボルとして,ベトナム人の皆様にも親しまれています。
また,先述のフック首相来日の際には,「ホーチミン市都市鉄道建設計画」への円借款供与に関する書簡が署名されました。交通渋滞や大気汚染の緩和によるホーチミン都市圏の都市環境改善を通じて,成長と競争力強化に寄与することが期待されています。
経済,文化,観光,スポーツ,政治,安全保障など,あらゆる分野で関係が深まっている両国関係ですが,これが日越友好50周年,さらにはその先の未来へと永く深まり続けることに貢献できるように,日々努めていきたいと思います。
防御の港から世界に開く港へ,ラックフェン国際港建設事業
原稿執筆:在ベトナム日本国大使館 林 寛之 一等書記官
ベトナム語は,現在でこそローマ字表記が使われていますが,以前は日本同様漢字の影響を色濃く受けていました。このため,言語や地名は,漢字に由来しているものも多いです。例えば,ベトナム語の“カム・オーン”(ありがとう)は,漢字の“感恩”から来ています。ベトナム北部のハイフォン市は,かつては小さな漁村でしたが,首都ハノイへの海の玄関口に位置し,防衛上の要衝であったことから,海防のための兵力が駐屯し,いつしかハイフォン(海防)と呼ばれるようになりました。このハイフォン市において,現在,日越の官民連携のもと,防御の港を世界へ開く港へと変貌させるビッグプロジェクトが進行中です。
既存のハイフォン港は,水深が浅い(最大8メートル)うえ,紅河上流からの土砂の堆積により水深の維持が難しく,ベトナムの経済発展に伴う海上輸送貨物の増加及び船舶の大型化に対応できなくなっていました。そこで,ハイフォン市沖のカット・ハイ島において新たに埋立てを行い,大水深(14メートル)の港湾ターミナルを整備することと合わせて,同島へ渡る橋梁(約5キロメートル)を建設しています。
本建設プロジェクトにおいては,公共投資と民間投資を組み合わせたPPP方式が取り入れられています。すなわち,円借款による航路浚渫(しゅんせつ)や埋立,防砂堤の整備の後,日越合弁企業による桟橋や舗装,荷役クレーン等の整備,及び完成後の運営が行われます。
円借款部分については,既に2013年に着工し,急ピッチで建設が進められているところですが,民間投資部分についても,2016年5月12日に,グエン・スアン・フック首相及び深田博史駐ベトナム日本大使が出席し着工式が行われました。今後は,2018年の完成目標に向け,官民が一体となった取組が進められます。
日本政府は昨年度,ベトナムに対し総額約2,900億円の円借款の供与を表明しました。ベトナムの経済・社会の発展には,未だ脆弱な交通インフラの整備が必要不可欠です。今後も,大使館業務を通じ,ベトナムの経済・社会の発展を支える取組を行っていきたいと思います。
子どもの教育を通じて取り組む,難民と受け入れコミュニティーの融和促進
原稿執筆:特定非営利活動法人 アドラ・ジャパン 伊東 彩 レバノン駐在員
レバノンでは,多くの難民がシリアから逃れてきたことにより,今や人口の25%が難民という異常な事態になっています。「難民」というと,キャンプでテント生活をしている人々を想像しますが,レバノンに逃れてきた難民のおよそ8割は自身でアパート等の住居を借りて,レバノン人のコミュニティーの中で生活しています。こうした受け入れ国のコミュニティーの中で生活する難民を私たちは「都市型難民」と呼んでいます。
レバノンで生活する都市型難民は,レバノン人の低所得層が住む地域に多く住んでいます。こうした地域に住むレバノンの人々は,難民の流入によって生じる物価の高騰,失業率の増加,教育や医療といった公共サービスの不足により,生活が大きく圧迫されています。レバノン人の家庭への負担は,結果的に難民に対する憤りとなり,難民と難民を受け入れている地元コミュニティーとの軋轢となっています。
シリア危機は5年目に突入し,レバノンに逃れてきた難民の生活状況はますます厳しくなっています。しかしながら,どんなに困窮した状況にあっても,子どもが教育を受けることは,シリア人難民も地元レバノン人もすべての人々にとって共通の願いであります。また,子どもが教育を受けることは,将来,国の安定のためにも欠かすことができません。
2015年から,ADRAはベイルート郊外においてジャパン・プラットフォームを通じて日本政府の資金援助を受け,学校に通うことのできない都市型難民の子ども達を対象にした学習教室を運営しています。
さらに,難民の子ども達が教育を受け続けることができ,避難先のレバノンで安心して子どもらしい生活を送ることができるように,私たちが運営する学習教室では,難民とレバノン人の間にある緊張関係を軽減することを目的とした様々な取り組みを実施しています。
一つ目の取り組みは,学習教室の活動を通じて難民とレバノン人の子どもの交流を促すことです。
学習教室では毎週金曜日に子ども達の精神的な安定(心のケア)を目的とした遊びを取り入れたレクリエーション活動を実施しています。この活動には学習教室で学んでいる難民の子どもだけでなく,地元の学校に通うレバノン人の子どもが参加しています。
毎週一緒に参加する子ども達は,お互いすぐに打ち解けて友達になれます。
学習教室の活動に子どもを通わせているレバノン人の保護者イハブさんは「私の子どもはシリア人やイラク人の友だちができ,毎週学習教室に通うことを楽しみにしています。友だちと一緒に練習したダンスを発表した時は,本当に嬉しそうでした。」と語っています。
二つ目の取り組みは,学習教室を運営している地域に住む難民とレバノン人の子どもとその保護者を対象にしたコミュニティー融和促進活動の実施です。
難民とレバノン人の間の緊張関係はとても繊細な課題です。「お互いを理解しましょう」と言葉で言っても難しく,関係は改善されません。
そこで,私たちは,難民とレバノン人が一緒に参加し,学び,楽しむ時間と場所を提供することで,結果的にお互いの理解と交流を深めることができる活動を考えて実施してきました。
これまでに実施してきた活動をいくつかご紹介します。
「子ども発表会」
「All Kids Have Talent!(すべての子どもは才能に溢れている)」を合言葉に,子ども達が様々な演技を披露する子ども発表会を実施しました。レバノン人,シリア難民,イラク難民の子ども達が,歌,ダンス,楽器演奏,詩等の演技を披露。地元の小学校や学習教室からおよそ80人の子どもが参加しました。
地元のショッピングセンターにイベント会場を提供してもらえたため,保護者だけでなく,買い物中の一般客も子ども達の演技を鑑賞していました。
素晴らしい演技を披露する子どもに対して,大きな拍手と歓声が上がりました。
「食を通じた文化交流」
10月16日の世界食糧デーにちなんで,シリア料理を食べながら参加者が交流を深めることを目的とした活動を実施しました。
シリア難民のお母さんたちがふるまう家庭料理に,参加した地元の老若男女とも舌を鳴らしていました。
「同じ釜の飯を食う」ことで参加者の交流を深めるとともに,食を通じた文化理解も促進できたイベントでした。
私たちは,街中のビルを間借りして学習教室を運営しています。
「子ども達のためなら,何だって協力するよ。」ビルのオーナーであるレバノン人のジョージさんは言ってくれています。難民と地元レバノン人との間に溝があるのは事実ですが,生活が圧迫されてでもなお難民の人々を支えようとする地域の人もたくさんいることも私たちは忘れてはなりません。
難民とレバノン人すべての人々の願いである「全ての子どもに教育を」ということを支援することで,この地域の安定に資することができるよう,今後も活動を続けていきます。
住民に信頼される行政を目指して
原稿執筆:株式会社オリエンタルコンサルタンツ GC事業本部 都市地域開発部
都市地域計画グループ 岡本 純子 課長
コートジボワールでは,2002年に勃発した政治・軍事的混乱により,中北部が反政府勢力の支配下となり,実質的に南部と中北部が分断されていました。2011年の混乱収束以降,社会は安定し,経済の回復も順調に進んでいます。
混乱収束後の復興のため,国は中央政府主導で緊急プログラムを実施してきました。
しかしながら,中央政府だけで住民ニーズに合致した公共サービスを提供していくことはできません。ようやく平和を手に入れたコートジボワールにとって,地方の行政機能を回復し,住民の行政に対する信頼を取り戻すことが,今後の平和と社会の安定のために不可欠です。中央政府は,住民により近い行政組織である地方自治体と協働して,よりよい公共サービスを提供することが望まれています。
このような背景の下,2013年11月,ベケ州で「コートジボワール国中部・北部紛争影響地域の公共サービス改善のための人材育成プロジェクト」の活動が始まりました。
過去10年,ほとんど機能していなかったベケ州内の9地方自治体を対象として,行政能力の向上及び行政と住民の協力関係の構築に取り組んでいます。
【現状調査に基づいた開発計画の策定】
これまで地方自治体は,適切な現状調査を実施せず,議員の判断に基づいて実施する事業を決めていました。プロジェクトでは,人々の生活にとって大変重要な給水施設(人力ポンプ)と小学校について,全ての村を対象とした現状調査を行い,客観的な分析に基づいて優先事業を選定しました。
その結果は,村の代表者を集めた説明会で発表されました。村の代表者達からは「明確な根拠に基づいて最も重要な事業が選ばれたことを歓迎する。自分達の村にも問題があるが,もっと状況の悪い村があるのなら優先されるべきである。」という声があがりました。地方自治体の職員は,公正で透明性のある計画策定プロセスの重要性を強く認識しました。
【小学校と給水施設の建設事業】
プロジェクトでは,11校の小学校の教室増築・改修事業,29ヶ所の給水施設建設事業,49ヶ所の給水施設改修事業を実施しました。これらの事業を通じて地方自治体職員は,適切な施工監理の技術を学びました。また,同プロジェクトにおいて,村で給水施設の維持管理を行う水管理委員会の設立を支援し,委員会メンバーに対する水管理研修を実施しました。これらの活動に参加した地方自治体は,施設を建設した後,維持管理に住民が参加することの重要性を認識し,自分達の業務として,プロジェクト対象の村だけでなく全ての村に水管理委員会を設立することを計画しています。