ODA(政府開発援助)
ODAメールマガジン第325号
ODAメールマガジン第325号は,モロッコ王国から「日本から遠い?モロッコ」,「第4回日本・アラブ経済フォーラム:日本とアラブをつなぐ国モロッコ」,イラク共和国からシリーズ「中東の難民問題」第7弾として「イラク国内避難民支援の現場から」,そして「平成27年度外務省ODA評価(第三者評価)個別報告書の公表」をお届けします。
日本から遠い?モロッコ
原稿執筆:在モロッコ日本国大使館 石井 彩 二等書記官
日が沈む大地に広がる砂漠,降りそそぐ灼熱の太陽とラクダ,彩り鮮やかな香辛料,陶器や革製品が並ぶ熱気あふれるメディナ(旧市街),アトラス山脈に積もる雪,カサブランカのビジネス街。「縦断すれば一度に四季を体感できる」と言われる自然豊かなモロッコ。
モロッコと聞いて皆さんは何を想像されますか。
モロッコはその地理的特徴を活かして,アラブ,ベルベル,アフリカ,地中海の文化を融和させた独自の文化を形成してきました。その地理的利点から「北アフリカのゲートウェイ」とも言われ,交易拠点を意識した港湾開発などが進んでおり,目覚ましい経済成長を遂げています。
欧州に近いということもあり自動車産業が盛んなモロッコですが,現在,モロッコで最も多くの雇用を創出している企業は,日系の自動車ワイヤーハーネス工場なのです。日本政府も自動車関連分野での協力を実施し,モロッコ政府機関に日本のクリーンディーゼル車170台を供与しました。供与された日本車が颯爽と走る様子は町中で頻繁に見ることができます。
自動車関連以外でも多くの日系企業がモロッコに拠点を置いており,計50社の日系企業がモロッコで活動しています。なぜ日本に近くはないモロッコが活動拠点として選ばれるのでしょう。一つの要因としては,モロッコがその地理的な利点を活用して,近年輸出フリーゾーン(税制優遇地域)を設置するなど,商業活動を取り巻く環境を整備していることが挙げられます。
開発協力の分野でも,モロッコ政府は地理的な利点を十分活かしつつ,これまで海外から得た知見や経験をアフリカ諸国に還元する「南南協力」に注力しています。日本も発電,水,道路,保健,農水産などの分野においてモロッコを通じた三角協力を実施しており,例えばジブチ沿岸警備隊向け「海事技術向上研修」ではモロッコ高等海事学院に日本の自衛隊が派遣されているジブチの沿岸警備隊関係者を招へいし,巡視艇の運航などの研修を行いました。
日本とモロッコは約1万キロも離れています。日本での日常生活において「モロッコ」を意識できる機会は限られているかもしれませんが,意外にも(?!)日本とモロッコの友好関係は長く,本年には外交関係樹立60周年を迎えます。日本とモロッコの相互理解がこれまで以上に広がり,日本とモロッコの双方の皆さんが「モロッコ=近い国」,「日本=近い国」と実感できるようになることを目指していきます。
第4回日本・アラブ経済フォーラム:日本とアラブをつなぐ国モロッコ
原稿執筆:在モロッコ日本国大使館 牧薗 舞 専門調査員
本年5月4日から5日まで,欧州,アラブ,アフリカの交差点に位置するモロッコの経済中心都市カサブランカにて,日本とアラブ諸国の政府や企業関係者約800名の参加を得て「第4回日本・アラブ経済フォーラム」が開催されました。
この経済フォーラムでは,日本とアラブの経済関係の多角化,モロッコの投資機会,エネルギー・環境・インフラなど幅広い分野での協力促進が議論され,「カサブランカ宣言」が発出されました。この宣言では日本とアラブ諸国の間のエネルギー分野における協力,特に再生可能エネルギー技術開発への日本の協力が強調されています。また,この経済フォーラムにおいて,住友電工とモロッコ太陽エネルギー庁が,集光型太陽光発電(CPV)プラントを共同で建設し,運用実証を行うことに合意しました。
昨年9月,住友電工は既に,JICAの民間技術普及促進事業を通じて,サハラ砂漠への入口として知られるワルザザードでCPV普及促進事業を実施しました。今回の経済フォーラムでの合意をベースに更なる実証実験を重ね,将来的にはアラブ諸国へ安定した電力を提供することが期待されます。
現在,モロッコの総発電能力の約35%は再生可能エネルギーが占めていますが,昨年パリで開催されたCOP21において,モロッコは2030年における総発電能力の52%を再生可能エネルギーでまかなう目標を発表しました(太陽エネルギー20%,風力20%,水力12%)。この目標が達成されれば,モロッコの歴史上初めて電力供給における再生可能エネルギーの割合が化石燃料を超えることとなります。モロッコはこの目標達成に向けて海外からの投資を呼び込むとともに,その地理的特徴を活かし,アラブやアフリカへ蓄積した技術を移転する計画を持っています。
日本で生まれた技術がモロッコに移転され,モロッコは今,サハラ砂漠に燦々と降り注ぐ太陽で発電された電力により明るく照らされようとしています。近い将来,日本の技術を活かしたクリーンなエネルギーが,モロッコから欧州,アラブ,アフリカまで照らすことを期待します。
イラク国内避難民支援の現場から
原稿執筆:在イラク日本国大使館 塚崎 大輔 二等書記官
昨年11月27日配信のメールマガジンでイラクの現状と支援の現場を紹介させて頂きました。それ以降,ISILの勢力は少しずつではあるものの後退してきており,支配されていた地域の解放も進んでいます。しかしながら,現在でもイラクの国内避難民の数は約330万人と人口の1割にも上ります。特にイラク北部のクルディスタン地域では地域の人口520万人に対し,約100万人の国内避難民と約25万人のシリア難民が押し寄せ,地域に暮らす人々の生活に大きな影響を与えています。また,解放された地域でも,ISILが撤退時に爆発物を大量に仕掛けたり住宅やインフラ等を徹底的に破壊したため,多くの避難民が未だに帰還できないでいます。さらに,今後ISILの占領するモースル等都市部の解放作戦が本格化すると,ますます多くの人々が避難を余儀なくされると予測されています。
日本は2014年のISIL侵攻以降2億2,000万ドル以上の無償資金協力や国際機関への拠出を通じた支援を実施してきています。
もちろん,日本の支援だけでイラクの状況を劇的に改善できるわけではありません。しかしながら,避難民と彼らを受け入れている地域社会の人々の厳しい状況を少しでも改善するために日本の支援は有効に活用され,避難民や地域の人々から感謝されています。そのような支援の一部を以下に紹介します。
(1)物資配布支援
戦火を逃れて避難した人々には,避難生活を立ち上げるためにもまず生活必需物資が必要です。日本政府は国連等の国際機関と連携して,そのような物資の調査・調達・配布事業を実施してきています。
(2)仮設住宅地設置支援
避難民の多くは女性と子供であり,より脆弱な立場におかれています。日本政府と国連人間居住計画(UN-Habitat)がイラク各地で実施している仮設住宅地設置事業は,耐久性・持続性の高い仮設住宅地を設置して,脆弱な立場にある避難民も安心して生活できる環境を提供しています。
(3)雇用創出,社会・経済インフラ復旧
避難民や帰還民の多くは生計の糧を失い,コミュニティーのインフラも破壊されています。そこで,日本政府は国連開発計画(UNDP)と協力して,避難民/帰還民に対する雇用創出や社会・経済インフラの復旧事業等を通じて,彼らの生活環境の向上と生計手段の確保を支援しています。
平成27年度外務省ODA評価(第三者評価)個別報告書の公表
原稿執筆:大臣官房ODA評価室
外務省は平成27年度外務省ODA評価(第三者評価)個別報告書を公表しました。
平成27年度は,「ベトナム国別評価」,「太平洋島嶼国のODA案件に関わる日本の取組の評価」,「コーカサス諸国への支援の評価」,「モロッコ国別評価」,「環境関連ミレニアム開発目標(MDGs)達成に向けた日本の取組の評価」,「『日本の教育協力政策2011-2015』の評価」,「債務免除の評価」,「ODAにおけるPDCAサイクルの評価」,の8件を実施しました。
ODAに携わる方々やODAに御関心のある方々に,ぜひ活用していただければと思います。
これらの報告書は,外務省ODAホームページに掲載しています。
また,これらの個別報告書以外にも,外務省が実施したODA評価の概要を中心に,他のODA関係省庁と国際協力機構(JICA)が実施したODA評価の概要などを取りまとめた「ODA評価年次報告書」についても,毎年度公表しておりますので,ぜひこちらも御覧ください。