ODA(政府開発援助)

2016年5月11日発行
平成28年5月13日

ODAメールマガジン第323号は,インドネシア共和国からの「ジャカルタMRTの整備」,「ビネカ・トゥンガル・イカ 多様性の中の統一」とシリーズ「中東の難民問題」第4弾としてトルコ共和国から「高まる生活インフラ需要 シリア難民受け入れ自治体支援」,シリーズ「TICAD VI」第2弾としてタンザニア連合共和国から「タンザニアの生活を明るくする開発協力」,そして「「世界人道サミット」の開催」をお届けします。

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ジャカルタMRTの整備

原稿執筆:在インドネシア日本国大使館 石原 健司 二等書記官

ジャカルタ首都圏の人口は,過去10年間で約1.3倍の約2,800万人に伸びており,同じく,郊外からジャカルタ中心部への通勤者は約1.5倍の約110万人,車両登録台数は約3.6倍の約963万台へと急増しています。

ジャカルタでは深刻な交通混雑や排気ガスによる大気汚染等の交通公害が大きな課題となっており,今後更なる交通需要が見込まれる中で,同首都圏における新たな都市高速鉄道(MRT:Mass Rapid Transit)の整備が不可欠とされています。

こうしたなか,2015年11月,ジャカルタにおいて,谷﨑泰明駐インドネシア大使とインドネシア外務省のユリ・タムリン アジア・太平洋・アフリカ総局長との間で,都市高速鉄道計画の円借款に関する交換公文の署名が行われました。この支援は,2015年3月の日インドネシア首脳会議において安倍総理大臣からインドネシアのジョコ・ウィドド大統領に対して表明されていたものです。

今般の円借款事業である「ジャカルタ都市高速鉄道東西線計画(E/S)(フェーズ1)」(約19億円)と「ジャカルタ都市高速鉄道計画(第二期)」(南北線)(約752億円)は,ジャカルタ首都圏において,インドネシア初の地下区間を含むMRTを整備することにより,旅客輸送能力の増強,交通渋滞の緩和,投資環境の改善及び気候変動の緩和を図り,民間セクター主導の経済成長の加速化に寄与するものです。

MRT東西線に係る借款は,基本設計や入札補助等に用いられます。また,MRT南北線に係る借款は,既に着工済みの中央ジャカルタ・ホテル・インドネシア前ロータリーから南ジャカルタ・ルバックブルスまでの区間(15.7キロ)の建設に対する資金を供与するものです。

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    MRTトンネルボーリングマシンの発進式
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    MRT工事現場でのトンネルボーリングマシン

ビネカ・トゥンガル・イカ 多様性の中の統一

原稿執筆:在インドネシア日本国大使館 山森 允夢 三等書記官

【ビネカ・トゥンガル・イカ 多様性の中の統一】

インドネシアは,総面積約190万平方キロメートル(日本の約5倍)の国土に約2億4,000万人の人口を持つ東南アジアの大国です。国土の東西の幅は5,110キロメートルと,アメリカの東西海岸の距離とほぼ同じと言われるほど広大な国土を持っています。その広大な国土の中で,それぞれ特有の地方言語,文化的特徴を持つ数多くの民族が,イスラム教をはじめ,キリスト教,ヒンドゥー教,仏教等様々な信仰の下,一つの国としてまとまって生活しています。「ビネカ・トゥンガル・イカ」とは「多様性の中の統一」を意味し,インドネシアという国の特徴をよく表した言葉です。

【良好な二国間関係】

日本とインドネシアは1958年の国交樹立以来,60年近く,経済に限らず,政治,文化等様々な分野で良好な関係を築いてきました。今では対日感情が最も良好な国の一つになっています。特に最近では,漫画,アイドル等日本のポップカルチャーがインドネシアでも人気で,日本のアイドルグループやバンドがインドネシアで人気を博す例も多く見られます。またこれらの影響もあり,若年層では日本語の学習に興味を持つ人も多く,約87万人が日本語を勉強しています(世界第2位,2012年国際交流基金調べ)。

【幅広い二国間協力】

日本は長きにわたり,経済協力のパートナーとしてインドネシアと関わっています。今ではインドネシアの各地にて,小学校の校舎改修事業,水道整備等を行う草の根無償資金協力から,現在インドネシアの目抜き通りに目下建設中のMRT建設等まで,日本はインドネシアと幅広い面において経済的な協力関係を築いています。また,日本,インドネシアともに地震,津波,火山噴火などの自然災害が多いという共通点があります。2004年スマトラ沖地震・津波,2006年中部ジャワ地震などの災害時には,日本は国際緊急援助隊を派遣し,支援を行う一方で,2011年の東日本大震災の際には,インドネシア政府,また多くのインドネシア市民から多くの励まし,義援金が日本に寄せられました。

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    ジョグジャカルタのプランバナン寺院
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    スマトラ島のガライ・シアノッ渓谷
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ジャカルタの独立記念塔
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コモド島近辺に生息するコモドドラゴン
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インドネシア最大の湖,トバ湖

高まる生活インフラ需要 シリア難民受け入れ自治体支援

原稿執筆:JICAトルコ事務所

トルコは4月現在,約270万人のシリア難民を抱えています。
難民は,トルコ国内全81県に散らばっていますが,全体の約55%にあたる約150万人が上位4県に集中しています。トルコ南東部を中心に26か所ある難民キャンプでは,全体の約1割の難民が暮らしています。また,1,400万の人口を抱えトルコ経済の中心地であるイスタンブールに,職を求めて向かう難民もいます。

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    シリア難民が住むイスタンブールのアパート
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    南東部ガージアンテップの難民キャンプ

シリア危機発生から5年。終結の見通しは立たず,今後もトルコへの難民流入は続くと予想されています。トルコ政府はこれまで,総額約100億米ドルをシリア難民支援に費やしてきました。政府だけでなく,難民受け入れ自治体も,限られた予算で様々な対応をしています。しかし,難民の急増で,自治体の住民サービスの質が低下しているのが現状です。自治体の中には,シリア難民の大量流入で,2020年時点に予想していた人口にすでに到達してしまい,飲料水の利用量が急増したり,ごみ処理が追いつかなくなってしまうなどの問題を抱えているところも少なくありません。そのため,将来の生活インフラ整備計画の前倒しを急ぐ自治体が増えています。

こうした自治体を支援しようと,日本政府は450億円を限度とする円借款を決定し,昨年5月,JICAはトルコの政府系金融機関「イルラー銀行」との間で借款契約の調印を行いました。上下水道,廃棄物処理施設の整備が喫緊の課題となっているトルコ南東部の自治体を対象に,イルラー銀行を通じてインフラ整備に必要な低利の長期資金を貸し出すというものです。

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    盛大に行われた円借款の調印式
    (中央が田中前JICA理事長)
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    盛大に行われた円借款調印式の様子

生活を送る上で欠かせないインフラを改善することで,長期間難民を受け入れているトルコの負担が少しでも軽減されるよう,自治体からのニーズも踏まえ,今後とも引き続き必要な支援を行っていきたいと思います。

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    難民キャンプ内の学校で学ぶ児童たち
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    難民キャンプ内の職業訓練で学ぶ女性たち

タンザニアの生活を明るくする開発協力

原稿執筆:在タンザニア日本国大使館 平田 民子 専門調査員

【TICAD VI】

今年8月に,タンザニアの隣国ケニアでTICAD VIが開催されます。TICADに期待されている役割には,「人材育成」の文化や日本企業の有する「高い技術」による「質の高い成長」そして「人間の安全保障」の推進があります。この理念に基づいた日本の開発協力を,タンザニアにおける電力セクターへの取組みを例にとって,紹介します。

【タンザニアの電力事情】

タンザニアは過去10年間にわたり経済成長率7%を維持しつつも未だ実現していない貧困削減と雇用機会の創出を目指し,製造業の誘致等,産業開発政策に注力していますが,電力セクターは経済成長の基盤といっても過言ではありません。タンザニアの発電設備容量は1,500MW程度(水力:35%,火力(ガス・石油):65%)です。日本は過去10年間200,000MW強の発電実績を維持しているので,日本の発電量の1%にも満たない規模ですが,5,000万人の人々の生活を支えています。しかし,近年は渇水,設備の維持管理不足,電力需要の拡大等により慢性的な電力供給不足が続いています。

【タンザニアに根づく,日本の「人材育成」文化】

1992年~2006年にかけてタンザニア電力供給公社(TANESCO)の民営化が実施されましたが,この間,設備投資と人員が共に削減された結果,適切な維持管理が行われず,停電の頻発により社会経済活動に深刻な影響をもたらしていました。2009年8月,日本政府はタンザニア政府の要請を受けて,JICAによる技術協力プロジェクト「効率的な送配電系統のための能力開発プロジェクト」を開始しました。以来7年間,専門家がTANESCO職員と共に研修システムを開発し,1,400人以上の職員が研修を受講しました。
更に研修の成果を現場に普及するため,作成された作業ガイドラインを基に,最大都市ダルエスサラームにおいて定期的な維持管理がなされた結果,停電率20%の減少,及び120万米ドルのコスト削減を実現しています(2015年実績,対2014年比)。

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    上空から見たダルエスサラーム

加えて,停電などに対する緊急対応が減少したことに伴い,職員の業務効率も改善しました。その後も職員間の自発的な技術移転により,技術者の能力育成が継続的に実施されていますが,こうした成果を全国に普及すべく,JICAは今年度開始予定の後継プロジェクトを通じてTANESCOの取り組みを継続支援してく予定です。

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    研修中のTANESCO職員と専門家

【日本企業の有する「高い技術」】

2015年10月には,TANESCOが所有する初のガス火力発電所となるキネレジIが始動し,電力供給の増加と安定化が期待されています。2016年3月に着工式が行われたキネレジII(240MW)の建設には,日本企業数社が参加しており,日本の高効率な複合火力発電技術が活用されます。

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    キネレジIIガス火力発電所サイト

また,タンザニア経済の成長見通しは明るいものの,地域間の格差拡大が指摘されています。タンザニアの全国電化率は24%ですが,都市部に偏っており(71%),地方部ではわずか7%に留まります。農村地域の電化は重要課題の一つです。日本企業も太陽光発電を利用した電力小売りシステムを導入したオフ・グリッドソリューションを提供しています。

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    ランタンを露店の照明にして営業時間を延長
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    ランタンと子供たち。夜でも勉強ができると喜んでいる姿

【「質の高い成長」・「人間の安全保障」確立に向けて】

日本の官民による電力セクターへの幅広い支援により,タンザニアの人々の教育・医療分野のサービス改善や産業の発展等生活を明るくしていくことが期待されています。TICAD VIは,アフリカの「質の高い成長」と「人間の安全保障」の実現に向けて,日本がパートナーとして何ができるかを改めて考える機会として活用したいと考えます。

とはいえ,地方に出かけた際,電気のない静かな夜に見えた満天の星空は格別です。
タンザニア人が家族や友人との時間を大切にする意味,タンザニアで大切にされている社会の絆を実感する瞬間でした。

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    ムトワラ海洋公園の星空

「世界人道サミット」の開催

原稿執筆:国際協力局緊急・人道支援課

5月23日と24日の2日間,「世界人道サミット」がトルコのイスタンブールで開催されます。

現在,世界では紛争や自然災害などにより,日本の人口とほぼ同じ1億2,500万人の人が人道支援を必要としています。また,難民・国内避難民の数は約6,300万人にのぼり,第二次世界大戦後最大となるなど,深刻な人道状況が続いています。このように人道支援のニーズが高まる一方で,支援を提供するための資金は大幅に不足しています。

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    フィリピンにおける台風被害
    (写真提供:国連人道問題調整事務所(OCHA))
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    シリアにおいて空爆で壊された自宅前に座る男の子
    (写真提供:国連WFP)

世界人道サミットは,このような状況を背景に,潘基文国連事務総長の呼びかけで初めて開催されることになりました。各国政府関係者のほか,国際機関やNGO,ビジネス界,研究機関など,様々な関係者が参加し,一人でも多くの命を救い,より効率的・効果的な人道支援を実現するために何が必要かを議論し,具体的な行動を示していくことが期待されています。

日本は,人間ひとり一人に焦点を当てる「人間の安全保障」の考えに基づいて人道支援を積極的に実施しています。世界人道サミットについても,2014年7月に世界で2番目の地域準備会合を東京においてホストするなど,準備段階から貢献してきました。

5月の世界人道サミット本番では,今年2月9日に国連事務総長が発表した報告書で掲げられている国際社会が果たすべき5つの責任を中心に議論が展開されます。また,本会議やテーマ別のラウンドテーブル,スペシャル・セッションのほか,各種サイドイベント,展示フェア,イノベーション・マーケットプレイス(人道支援に役立つ技術やサービスなどの展示・紹介)が開催されます。

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    南スーダンにおいて食料支援を受け取る国内避難民の女性
    (写真提供:国連WFP)
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    ソマリアの国内避難民居住地における
    パナソニック社製のソーラーランタンの配布
    (写真提供:国際移住機関(IOM))

日本は,これまでに培ってきた経験や強みを活かし,(1)人道支援と開発協力を組み合わせたより効果的で包括的な貢献や,(2)自然災害への対応・防災分野への貢献,(3)「女性が輝く社会づくり」をリードする国として,人道危機下における女性の保護とエンパワーメントの推進などを中心に議論に貢献していきます。

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