ODA(政府開発援助)

ODAメールマガジン第313号

2015年11月25日発行

平成27年11月27日

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今こそ手と手をとりあって イラクの現場から

原稿執筆:在イラク日本国大使館 鶴田 純平 二等書記官

現在,イラクはかつてない程の苦境に立たされています。

2014年前半,ISIL(「イラク・レバントのイスラム国」)等がイラクの一部を占拠しました。このため,300万を越える人々が住居を追われ,国内の別の場所への避難を余儀なくされています。

想像できますでしょうか。昨日までいつもと変わらない平穏な日々を送っていたのに,一夜にして,多くの家族,友人,知人を失った挙げ句,生き延びても食べ物も,水も電気も,暮らすところもままならない状況に陥ってしまうという人たちが320万人もいるという現実を。

イラクは,北はトルコ,東はイラン,南はクウェートとサウジアラビア,西はシリアとヨルダンに囲まれた,本来は石油などの資源に恵まれた国(人口約3,481万人,面積は日本の約1.2倍)です。しかし,度重なる戦争などで上下水道や電力など基礎インフラの補修もままならない厳しい経済状況にありました。
このため,サダム・フセイン政権が倒れた2003年以降,国際社会はイラクの復興のために様々な支援を行ってきました。日本も同年以降これまでに72億ドルにのぼる支援(無償資金協力と円借款)を行ってきています。

【緊急的な支援から安定化支援,そして復興・開発支援へ】

こうした国際社会の支援は,イラクが異なる宗派・民族間での国民和解を果たし,一刻も早く安定し反映した国へと立ち直るためのものです。しかし,昨年6月にISILがモースル市を始めとするイラク北部に侵入し,国土の3分の1を占拠したため,現在,イラクは,国連が最も厳しい人道危機レベルにあると指定する状況に陥っています。また,ISILとの戦費の増大,油価の大幅な下落も相まって,深刻な経済危機に直面しています。

こうした状況を踏まえ,日本は命からがら避難した方々に対し,まずは生きるための緊急的な支援として,130億円以上の支援を行いました。
具体的には,テントやプレハブ住宅の建設,安全な水の提供,食糧やキッチンセットの供給,医療施設の整備,未来を担う子どもたちの将来のための基礎教育の実施などです。

  • 国内避難民キャンプの様子
  • 日本が供与したテント

そして,現在は,イラク軍やイラク北部のクルディスタン地域政府の軍事組織であるペシュメルガなどが,米国をはじめとする国際社会の協力を得て,複数の町をISILから解放することに成功しました。
しかし,こうした町では,戦闘で人々の住居や多くのインフラ施設が破壊されてしまいました。そのため,元住民が一刻も早くかつ安全に故郷に戻れるような支援,すなわち,解放された町の治安を回復し,生活を立ち上げるために必要不可欠な電気や水といった基礎インフラを修復したり,地方行政府の機能を回復させて,帰還した人々が生活の糧を見いだせるような支援(これらをまとめて安定化支援と呼んでいます)が始まっています。
今後,解放される町が増えるにつれ,支援も緊急的な支援から安定化支援に軸足が移っていくことになります。日本も,国連開発計画(UNDP)等の国連機関とともに,この安定化支援に取り組んでいるところです。

同時に,日本は,電力施設や上下水道施設の修復・新設,イラク経済を支える石油関連施設の復旧等,円借款を通じたイラク全体の復興開発も引き続き支援しています。このように,イラクは,日本が緊急的な支援 安定化支援 復興・開発支援という一連の流れの支援を行っている珍しい国ですが,それがイラクの苦境を物語っていると言えます。

支援の現場では,多くの日本企業,日本のNGO,JICA等多くの関係者が汗をかいて,テロとの闘いの最前線に立つイラクを支えています。こうした支援があるからこそ,イラクの何処へ行っても,「日本,ありがとう」,「日本から多くのことを学びたい」という声を多く頂戴します。

近い将来,またこの国で生きる人々に笑顔が戻ってくることを願って,イラクを支えていきたいと思います。

世界で一番暑い町

原稿執筆:JICAイラク事務所 内田 久美子 次長

今年の夏は日本でもかなりの猛暑でしたが,ここイラクも例にもれていません。
イラクでは気温が50度を越えると,消費電力節約のため政府機関が一斉に休業になります。中でも南部のバスラは1921年に58.8度を記録,世界の最高気温記録を持つ町です(注:世界記録には諸説あり,この58.8度は正式には認められていないようです)。
そんなバスラ県にあるハルサ発電所は,同県の中でも最大級のもので,地域の電力供給に欠かせない発電所です。

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この発電所,実は日本と非常に関係が深いことをご存じでしょうか?
さかのぼること30年以上,1982年に日本の支援により建設された発電所で,4基ある発電機全てが三菱重工(当時)によるものです。

その後も,発電所で働くイラク人技術者に対する研修を日本で実施したり,あるいはハルサに日本の技術者が赴いたりと,三菱重工の善意により交流が続いていました。
この発電所はこれまで多くの戦争をくぐりぬけ,ミサイルが落ちてきたこともありました。それでも,イラクの技術者は日本から学んだ技術を使って丁寧に,丁寧に,修理しながら発電を続けています。

ハルサ発電所を訪れると,イラク人技術者が思い出話と共に,日本での研修時の写真を見せてくれます。既にセピア色になっているその写真からは,日本の技術に対する絶対的な信頼感が,この発電所と日本人との友好的な歴史の上に形成されていることが自然と感じられます。

  • 30年以上稼働しているハルサ発電所

とは言え,そろそろ限界に近づきつつある状況となっているのも事実です。
イラク政府が日本政府に対して大規模な改修のため支援を要請したのが数年前。これを受け,日本政府は特に稼働率が下がってきている4号機を対象に支援することを決定し,2015年2月にイラク政府との間で円借款貸付契約の署名がなされ,入札の結果,日本企業が落札しました。

イラク人技術者は,日本との友好の象徴であるハルサ発電所が再び地域のためにフル稼働による発電が行えるよう,早期の改修を目指し,日本企業と文字通り汗を流しながら頑張っています。

ケニア保健セクターにおける我が国の貢献,そして挑戦

原稿執筆:在ケニア日本国大使館 吉田 祐樹 専門調査員

「私は,「UHC」を,これから,「ジャパン・ブランド」にしてしまうつもりです」。
2013年のTICAD V開会式安倍内閣総理大臣オープニング・スピーチの一部です。
「UHC」とは,「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ」の略で,全ての人が基礎的医療サービスを享受できる制度です。日本の国民皆保険制度のようなものです。

本年8月17日,日本政府はケニア政府に対し,「UHC達成のための保健セクター政策借款」として,40億円を限度とする円借款に関する書簡の交換を行いました。これは,日本政府のUHCに特化した保健分野への政策借款としては世界で初の試みです。
同国の保健システムは脆弱で,多くの人々が経済的理由や医療施設の不足等が原因で,必要時に十分な治療を受けることができません。現状を改善すべく,本借款では次の3分野に焦点を絞って協力します。

  • 「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジの達成のための保健セクター政策借款」
    交換書簡署名式典。
    中央左から,江口JICAケニア事務所長(当時),寺田大使,ロティッチ財務長官,
    マチャリア保健長官(ケニア財務省にて)

1つ目は,産科サービスの無料化です。
ケニアの妊産婦死亡率は10万人あたり400人で,日本の6人とは桁が違います(出典:WHO, World Health Statistics 2015)。ケニアでは,経済的理由等から自宅で出産する女性が依然として多く,出産時に適切な処置を受けられないことから,母子共に命が危険にさらされることがあります。本借款は,女性が安心して出産し育児ができる環境づくりに貢献します。

2つ目は,一次医療供給体制の強化です。
ケニア等の発展途上国では,風邪の初期段階での医師の適切な治療が受けられないために,最悪の場合,死に至るケースもあります。本借款では,質の高いサービスを提供する医療施設への予算を補助することで,各施設のサービス改善への意識向上を目指します。

3つ目は,公的医療保険の貧困層への拡大です。
ケニアの国家予算の内,保健セクターにはたった5%しか配分されていません。財源が不十分では保険の拡大は到底困難なため,本借款は財源を補助するためにも使われます。

ケニアは,KENYA VISION 2030という国家中長期成長戦略の中で,2030年までにUHC達成を目標に掲げています。我が国は,この目標達成を支援するため,本政策借款に加え,国際協力機構(JICA)による技術協力を通じたUHC政策の策定支援,保健システムの強化や日本NGO連携無償資金協力を通じて,(特活)HANDSや(特活)アフリカ地域開発市民の会CanDo等のNGOによる地域保健事業を支援しています。
更には,ロート製薬やシオノギ製薬等の民間企業も,支援に乗り出しています。明年のTICAD VI当地開催を,UHCの「ジャパン・ブランド化」の更なる促進の機会と捉えて,「オール・ジャパン」で取り組んでまいります。

  • 今年8月にケリチョ郡にて行われた
    特定非営利活動法人HANDS主催の世界母乳週間記念イベント。
    中央左より,第1回野口英世アフリカ賞受賞者のウェレ博士,
    チェプクウォニー同郡知事夫人,HANDS中村理事

日本企業のケニアへのビジネス進出

原稿執筆:JICAケニア事務所 相園 賢治 企画調査員

2013年に横浜で開催されたTICAD V以降,本邦企業のアフリカビジネスへの関心は高まっており,ケニアを訪問する企業数も増加傾向にあります。
加えてJICAの民間連携調査スキームを活用した調査数も他アフリカ諸国と比べてもケニアは群を抜いている状態であり,累計23件の調査がすでに実施されています。さらに次回のTICADは来年2016年にケニアで開催されることが正式に決まったため,日本企業のケニア進出への関心が益々高まることが予想されています。

そんな中,今回は,ひとつの民間企業がJICAの中小企業海外展開支援事業を活用して進出した例を取り上げてみたいと思います。

株式会社ウェルシィはケニアのルイル地区(ナイロビから北東25km)において,地元の水道事業体と連携し,高濁浄水の技術検証,流域監視事業(遠隔監視)およびコンサルテーションサービスの構築などの普及・実証事業に取り組んでいます。
特に2015年6月に設置された水浄化装置については,7月より400世帯,約1,000名の地域住民への給水を始め,現在,そのシステムは順調に稼動しています。

  • 2015年6月に設置された水浄化装置
  • ケニア側関係者に各装置を説明している様子

しかしながら,ここに至る段階までは長い道のりで,機材調達の問題,基礎インフラの問題,人的リソースの問題,商習慣の違いなど問題は山積みでしたが,ケニア側パートナーと少しずつ良好な関係を築きながら,それぞれの問題を解決していった経緯があります。
また,ケニアのような新興国にてビジネス展開をするには,想定外のことが起こることが多く,その都度対応に迫られるため,現地にあわせた事業体制を構築することが重要です。さらに課題解決等の提案と同時に,事業採算性を考えなくてはいけないという難しさがありますが,そういった障壁を越えていった先には,ダイナミックな未開の市場が待ち構えているのも事実です。

ケニアでは,オールジャパンとして,日本大使館,JETROおよびJICAでタッグを組み,本邦企業のケニア進出のお手伝いをしています。

  • 水の濁度が変化する様子(右から左)
  • 2015年6月
    給水式にて浄化された水を試飲する様子
    ウェルシィ社長(左から2番目)
    森在ケニア日本国大使館公使(左から4番目),
    丹原JICA次長(右から2番目),他ケニア関係者

青年海外協力隊を題材とした映画「クロスロード Crossroads」公開

原稿執筆:国際協力局事業管理室

1965年に発足した青年海外協力隊事業は,今年で50年を迎えました。
本事業を通じて,これまでに88ヶ国へ4万名を超える協力隊員が派遣され,現在も約2,000名が開発途上国の人々とともに活動しています。
50周年という節目にあたり,青年海外協力隊の帰国隊員を中心に組織されている青年海外協力協会は,協力隊を題材とした映画を製作しました。

「マリリンに逢いたい」で知られる協力隊OBのすずきじゅんいち監督(昭和60年度2次隊・モロッコ・映像)がメガホンを取り,シナリオコンテスト入賞作をもとに,「闇金ウシジマ君」「映画 ひみつのアッコちゃん」の脚本を手がけた福間正浩氏(平成2年度3次隊OB・セネガル・視聴覚教育)が脚本・脚本監修,EXILEの黒木啓司氏が映画初主演を務める映画「クロスロード Crossroads」は,2015年11月28日(土曜日)より全国で公開予定です。
皆様是非御覧ください。

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<映画概要>
2015年11月28日全国公開
監督:すずきじゅんいち
脚本監修・脚本:福間正浩
出演:黒木啓司,渡辺大,TAO,長塚京三 ほか
後援:国際協力機構(JICA)
配給:フレッシュハーツ
©2015「クロスロード」製作委員会

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