ODA(政府開発援助)
メラピ火山を中心とした日インドネシア火山防災事業の歴史
原稿執筆 在インドネシア日本国大使館
インドネシアは130の活火山(世界の16%相当)を持つ世界有数の火山国です。中でもジャワ島中部,ジョグジャカルタ特別州の北側に位置するメラピ火山は,5~10年の頻度で噴火する,世界で最も活動的な火山の一つです。
山の麓には古都ジョグジャカルタや,世界遺産のボロブドゥール遺跡,プランバナン遺跡が点在しています。住民は肥沃な火山灰と豊富な湧水の恩恵を受ける一方,火砕流や火山泥流の脅威にさらされてきました。
堰堤などの構造物で,土石流,火山泥流の移動を阻止・調節して,住民の生命や財産を土砂災害から守ることを砂防といいます。砂防に関する日本とインドネシアの技術協力の歴史は長く,メラピ火山の1969年噴火を契機として1970年に初代砂防専門家が派遣されて以来,産官学の各セクターで広範な技術協力が行われてきました。
1980年にはメラピ火山砂防基本計画が策定され(2001年改定),これに基づきインドネシア国家予算や3期に亘る円借款事業によって,約250基の砂防施設が建設されました。砂防堰堤(いわゆる砂防ダム)は1998年のボヨン川,2003年のアプ川等で,土石流を度々くい止め,住民の命や財産を守ってきました。
1982年,火山砂防技術センターがジョグジャカルタ市内に設立され,3期に亘り技術者の育成が行われました。同センター前の道路は「サボウ通り(Jalan Sabo)」と名付けられ,住民に親しまれています。
現在実施中の円借款事業「メラピ山緊急防災事業(II)」(2014~2021年)では,山麓の河川に放水路やサンドポケット(土砂を一時的に堆積させる施設)を建設し,土砂災害の軽減を行うとともに,2010年大噴火による地形変化を考慮し,砂防基本計画の改定を行っています。
2010年大噴火では計画量の30倍に上る噴出物が放出され,多くの砂防堰堤が損傷しましたが,長年に亘る協力事業により技術を磨いたインドネシア技術者たちが奮闘し,施設の修繕はほとんどすべてインドネシアにより実施されました。
メラピ火山事業で得られた知見は日本の基準類(火山噴火緊急減災対策砂防計画策定ガイドライン等)や桜島及び雲仙普賢岳における火山砂防事業等に多数フィードバックされており,インドネシアに対する技術協力は,インドネシアだけでなく日本における火山防災の発展にも貢献しています。