ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
令和7年1月23日
評価年月日:令和6年11月1日
評価責任者:国別開発協力第一課長 榎下 健司
1 案件名
1-1 供与国名
ラオス人民民主共和国(以下、「ラオス」という。)
1-2 案件名
県教員研修センター整備計画
1-3 目的・事業内容
本計画は、県教員研修センター(9か所)の施設及び研修用機材(プロジェクター、音響システム等)の整備を行うことにより、教員養成校を軸とするラオス全土における現職教員研修の実施体制の強化を図り、もって同国の基礎教育の質の向上に寄与するもの。
供与限度額は12.70億円。
1-4 環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点
本計画は、「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン」(2022年1月制定)におけるカテゴリはCであり、環境への望ましくない影響は最小限である。
2 無償資金協力の必要性
2-1 必要性
- (1)ラオス(一人当たり国民総所得(GNI)2,120米ドル)は、OECD開発援助委員会(DAC)の援助受取国リスト上、後発開発途上国に分類されている。
- (2)ラオスにおける初等教育の就学率は98.8%(世界銀行、2020年)と高い水準を達成したが、教育の質については依然として大きな課題であり、UNICEF及び東南アジア教育大臣機構が2019年に初等教育5年目の生徒を対象に実施した読み書き、算数の学力テストにおいても、対象国(カンボジア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、ベトナム)の中で最も低いスコアとなっている。社会経済成長に向けた人材育成及び労働力の質の向上を目指す同国にとって、その前提となる初等教育の質の向上は優先的な課題である。
- (3)ラオス政府は第9次教育スポーツセクター開発計画(ESSDP)において、初等教育の質の向上を重点分野に位置づけている。中でも現職教員の指導力強化は、初等教育の質の向上に直結する課題であることから、現職教員の継続的職能開発(CPD)のための制度構築に取り組むことを重点方針として打ち出している。同方針のもと、2022年に教育・スポーツ省(MOES)の「教員の継続的職能開発に関する省令」が策定された。同省令では、全国一律のCPDの実施に向けて、全国8か所の教員養成校(TTC)が中核となり、全国の教員研修計画の策定及び各TTCの担当県における計画の実施管理を行うとされている。TTCが設置されていない県においては、県教員研修センター(PTDC)の設置が規定され、TTCとPTDCをオンライン接続する環境を整備し、PTDCがTTCから教員研修の技術的な支援を得つつ、連携して研修を実施する体制を整備し、初等教育を始めとする就学前~中等教育の質の向上に寄与する方針が打ち出されている。しかし、多くのPTDCでは、CPDを実践する上で必要な施設及びTTCとの連携に必要な機材が不足しており、研修実施が困難な状況にある。これらはCPD制度を担う主要機関としてのPTDC及びTTCの機能を妨げるとともに、CPD制度の確立を困難にし、現職教員の能力の停滞を招くことになる。
- (4)また、対ラオス国別開発協力方針(2019年4月)における重点分野として「産業の多角化と競争力強化とそのための産業人材育成」が定められ、対ラオス国別分析ペーパー(2024年3月)においても、同国の児童の学習到達度が低い一因として教員の職能不足が指摘されていることから、本事業は同方針等に合致するものであり、さらに、SDGsゴール4(質の高い教育をみんなに)及びゴール8(働きがいも経済成長も)にも貢献することから、本計画を実施する意義は大きい。
- (5)また、我が国とラオスは、2015年に二国間関係を「戦略的パートナーシップ」に格上げし、2025年には国交樹立70周年を迎えるところ、「教員養成校改善計画」(2020年6月~2025年1月予定)によるTTCの整備及び本事業によるPTDCの整備を通じ、治安上邦人の渡航ができない1県を除くラオス全国の県に日本の支援による教員研修施設が行き届くこととなり、ラオス側へ日本のプレゼンスを示すことができる。さらに、初等教育の質の向上は、人間の安全保障を実現する重要な基盤であり、貧困など個人の尊厳、生命、生活に対する脅威への対応からも無償資金協力として本事業の実施を支援する必要性は高い。
2-2 効率性
ラオス政府の要請を踏まえつつ、現地調査を通じて支援対象を精査し、必要かつ適切な施設規模と機材内容及び数量とするとともに、事業費の妥当性を検討した。また、技術協力「初等教育における算数指導力強化プロジェクト」(2023年11月~2026年10月)においては学校レベルでの新初等算数カリキュラムの実践強化を目的としたCPDモデル構築を支援しており、同プロジェクトで構築したCPDモデルを本計画で整備するPTDCで実施することで、同プロジェクトの成果を全国的に展開することができるなど、本計画との相乗効果が期待される。
2-3 有効性
本計画の実施により、2023年の実績値を基準値として、事業完成3年後の2031年の目標値と比較すると、以下のような成果が期待される。
- (1)定量的効果
- ア 対象県のPTDCで行われる当該県内の教育指導者(注)・教員を対象としたCPD研修の研修人数(人/年)が、0人から5,463人になる。
- イ 対象県のPTDCで行われる当該県内の教育指導者・教員を対象としたCPD研修の回数(回/年)が、0回から72回になる。
- ウ 対象県のPTDCで行われるCPD研修に参加した教育指導者・教員のうち、研修により指導力が向上した者の割合が、80%になる。
- エ 対象県のPTDCで行われるCPD研修に参加した教員から授業を受けた児童・生徒のうち、授業の理解度が向上した者の割合が、80%になる。
- (注)教育指導者:TTC教官、県・郡指導主事(External Pedagogical Advisors/Support。指導主事(Pedagogical Advisor)とも呼ばれる。)、学校指導主事(Internal Pedagogical Advisors/Support)等
- (2)定性的効果
対象県の教育指導者のCPD研修へのアクセスと環境が改善され、かつ、PTDCとTTCの連携によりCPDの実践が強化され、教育指導者が必要な知識、技能を習得できるようになる。
3 事前評価に用いた資料及び有識者等の知見の活用等
- (1)ラオス政府からの要請書
- (2)JICAの調査報告書(JICAを通じて入手可能)
- (3)ラオス国別評価報告書(2022年度・第三者評価)