ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
令和7年1月16日
評価年月日:令和6年12月26日
評価責任者:国別開発協力第三課長 東 邦彦
1 案件概要
(1)供与国名
タンザニア連合共和国(以下、「タンザニア」という。)
(2)案件名
農業・農村開発ツーステップローン計画
(3)目的・事業内容
本計画は、タンザニア全土において、タンザニア農業開発銀行(TADB)への中長期資金供給を通じた農家等へのツーステップローン供与及びTADBへの能力向上支援を実施することにより、タンザニアの農業・農村開発金融に係る金融仲介機能の円滑化及び農業生産性向上を図り、農業・農村セクターの産業化・商業化に資するのみならず、タンザニア国内外の食料安全保障に寄与するもの。
- ア
- 主要事業内容
- (ア)ツーステップローン:小規模農家、農家グループ、農業関連企業向け融資並びに園芸作物栽培に従事する女性及び若者向けの中長期融資資金の供給。対象作物(コメ、メイズ(トウモロコシ)、小麦、ヒマワリ及び園芸作物)の生産・加工のための設備投資を融資対象とする。
- (イ)コンサルティング・サービス
- イ
- 供与条件
供与限度額 金利 償還(うち据置)期間 調達条件 227.42億円 0.20% 40(10)年 一般アンタイド - (注)コンサルティング・サービス部分の金利は0.2%を適用。
(4)環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点
- ア
- 環境社会配慮
本計画は、「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン」(2022年1月制定)上、JICAの融資承諾前にサブプロジェクトが特定できず、かつそのようなサブプロジェクトが環境への影響を持つことが想定されるため、カテゴリFIに分類される。 - イ
- 外部要因リスク
特になし。
2 資金協力案件の評価
(1)必要性
- ア
- 開発ニーズ
- (ア)タンザニア政府は、「第三次5か年計画(2021~2026)」(以下、「FYDPIII」という。)において、優先作物を指定し、生産性及び収量を向上させるためのバリューチェーン強化に取り組んでいる。
- (イ)タンザニアの農業セクターにおいて、農業生産性を上げるため、天候に左右されにくい、かつ効率的な生産を行うための機械化、灌漑整備の拡大が求められている。タンザニア農業省は商業化、農業生産性及び農家収入向上に向けた変革に取り組んでいるが、農業機械利用世帯の増加や農業金融の融資割合の増加などが依然課題となっている。そのような中、農業融資への需要は高まっているが、農業セクター全体が抱える資金需要の10%程度しか満たせていない。
- (ウ)タンザニア政府は2012年に農業金融を強化し、農家向け融資を促進するため財務省傘下の政策金融機関としてTADBを設立した。TADBは全国に8支店を展開し、同銀行の貸付残高は2022年1月の116,000百万タンザニア・シリング(約66億円)から2023年8月には359,000百万タンザニア・シリング(約206億円)へと大幅に増加している。年々増加する農業融資需要に応えるためには、TADBは更なる資本増強を行い、仲介金融機関への融資を提供することで、より幅広い農業融資需要に応える必要がある。
- (エ)本計画では、FYDPIIIの中で優先作物として掲げられているコメ、メイズ(トウモロコシ)、小麦、ヒマワリの4作物に加え、若者及び女性の所得向上及び雇用機会創出の観点から収穫までの期間が短く換金性の高い園芸作物を対象とし、急速に増加する農業融資需要に応えるためTADBを通じたより譲許性の高い条件での農業融資の促進を目的としている。また、農業機械化の促進により、作業の効率化が図られ、かつ天候に応じた適時作業が可能になり、点滴灌漑等の灌漑施設の整備により水資源の有効活用を促進するなど、気候リスクに適応した農業技術を導入することで上記作物のバリューチェーン強化を図る。タンザニア政府は、引き続きポテンシャルが相対的に高い農業セクターを社会・経済の回復と雇用促進による安定を図る優先度の高いセクターとして位置づけており、日本による協力を要請し、農業関連事業者を含めた農業融資需要に応えることを求めている。
- (オ)本計画は農家等への中長期資金供与を通じて農業設備投資を促すことで、農業の商業化・フードバリューチェーンの強化、並びに域内の食料安全保障に資するものであり、SDGsゴール2(食料安全保障・栄養改善)及びゴール8(包摂的で持続可能な経済成長)に貢献すると考えられることから、本計画を実施する必要性は高い。
- イ
- 我が国の基本政策との関係
- (ア)2017年9月に策定された対タンザニア連合共和国国別開発協力方針において、農業セクターを重点分野に位置付けるとともに、フードバリューチェーン構築の支援を行うとしており、本計画はこの方針に合致する他、我が国が2022年8月に開催した第8回アフリカ開発会議(TICAD8)のチュニス宣言の柱の1つである「持続可能な経済成長と発展のための構造転換の実現」のうち「食料安全保障・栄養の改善。持続可能な農業。」にも資するものである。さらに、タンザニアの食料生産能力の向上を通じて食料安全保障の改善を図ることは、自由で開かれたインド太平洋(FOIP)の第二の柱「インド太平洋流の課題対処」で示された食料安全保障を通じて同国の持続可能性を高めることにも資する。
- (イ)TICAD7の施策の一つである「日・アフリカ農業イノベーションセンター(Africa Field Innovation Center for Agricultural Technology:AFICAT)」の事業の中で、日本の農業機械の販路拡大に努めており、本計画が日系企業のタンザニア進出及び販路拡大にも貢献する可能性がある。
(2)効率性
TADBに派遣中のJICA専門家「農業開発銀行能力強化アドバイザー」により、TADBの審査能力強化や顧客データベース開発等の本事業の運営・維持管理に資する技術協力を行っており、体制面、技術面での運営・管理能力改善を実施し、案件の効率性向上を図る。
(3)有効性
事業完了2年後(2031年)にサブローン累計融資件数400件(うち小規模農家向け300件)の実施と、それによる融資対象農家の所得増加及び生産作物の生産量増加、並びにTADBの能力強化(審査能力、リスク管理能力強化等)、小規模農家のビジネススキル向上(簿記、ビジネスプランの作成等)が期待される。
3 事前評価に用いた資料、有識者等の知見の活用
要請書、JICAから提出された資料、タンザニア国別評価報告書(2016年度・第三者評価)、IMF報告書、世銀報告書等。
なお、本計画に関する事後評価は、実施機関であるJICAが行う予定。