ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
令和6年12月3日
評価年月日:令和6年5月8日
評価責任者:国別開発協力第三課長 井土 和志
1 案件名
1-1 供与国名
モーリタニア・イスラム共和国(以下、「モーリタニア」という。)
1-2 案件名
漁業調査船建造計画
1-3 目的・事業内容
本計画は、モーリタニア海洋水産研究所(以下、「IMROP」という。)が保有する漁業調査船を建造することにより、同研究所の水産資源調査・海洋環境調査の機能・技術力の向上及び航行安全の維持を図り、もって同国及び周辺国の科学的根拠に基づく持続的な水産資源の利用及び水産業への包括的支援に寄与するもの。
供与限度額は28.75億円
1-4 環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点
本計画は、国際協力機構環境社会配慮ガイドライン(2022年1月制定)におけるカテゴリCであり、環境への望ましくない影響は最小限であると判断される。
2 無償資金協力の必要性
2-1 必要性
- (1)モーリタニア(一人当たり国民総所得(GNI)2,080ドル)は、OECD開発援助委員会(DAC)の援助受取国リスト上、後発開発途上国に分類されている。
- (2)モーリタニアは、720キロメートルに及ぶ海岸線と23万平方キロメートルの排他的経済水域を有し、水産物は輸出額の30~40%を占め、水産業は同国の基幹産業となっている。また、2000年以降、世界的な水産需要の高まりを受けて漁獲量は増加傾向にあり、輸出量及び輸出額ともにアフリカ域内第2位を誇り(FAO、2019)、同国経済における水産業の重要性が更に高まっている。他方、同国の海域では、海洋環境の変化や水産資源の乱獲等により、水産資源の持続的な利用が懸念されており、同国政府は「持続的漁業開発戦略2020-2024」において、資源管理を重点課題に掲げている。持続的な水産資源管理の推進に当たっては、海洋環境を継続的に調査し、得られた科学的情報を基に規制を含む漁獲政策の策定が進められるよう支援していく必要がある。
- (3)IMROPは、漁業・海洋経済省の管轄下で資源管理の基盤となる水産資源調査・評価を行う公的機関であり、同国以南の西アフリカ沿岸国の中でもトップレベルの調査・研究の能力と実績を有している。さらに水産資源を取り巻く状況の変化に伴い、従来の底魚資源評価に加え、浮魚や頭足類の資源評価、気候変動や油田開発に伴う海洋汚染に起因する海洋環境の変化に関する調査等が求められており、その役割は年々拡大してきている。これらの科学的調査結果は、漁業・海洋経済省が1990年代頃から行っている魚種別の漁獲可能量の設定や、漁獲割当管理の基礎情報となっている。また、その調査能力の高さから近隣諸国からもIMROPに対する水産資源調査の要請がされており、域内の水産資源管理体制において大きな役割を果たしている。
- (4)1997年に日本の無償資金協力により整備した外洋調査船「AL-AWAM号」は、IMROPにより約25年間にわたり良好に運航・維持管理されてきたが、老朽化により外洋調査が実施できない状況にある。また、近年は、海洋統計や水産政策策定のために求められる情報の幅や精度が増しており、周辺国を含めた域内の海洋環境保全と水産資源の持続的な利用のために、最新の調査機能を有する漁業調査船を調達し、水産資源・海洋環境調査における体制整備が喫緊の課題となっている。上記背景より、同国政府から我が国に対し新規の外洋調査船の建造について支援の要請がなされた。
- (5)我が国の対モーリタニア国別開発協力方針(2017年9月)においては、同国の持続可能な経済成長に貢献するため、「水産業への包括的な支援」が重点分野とされている。また、対モーリタニア事業展開計画(2021年6月)においても、同重点分野の中で、「水産業の持続性確保」を図っていくとしており、上記方針に合致する。なお、同国は、我が国との関係においても、過去15年以上、タコの輸入先第1位(2019年度総輸入量の35%)の重要な水産協力相手国である(農林水産省、2019)。かかる背景の下、我が国は1970年代から技術協力や無償資金協力を通じて、漁獲、加工技術、資源管理、水産物の安全性・付加価値向上等、多角的な支援を継続している。これらは同国水産業の成長のみならず、水産資源管理を含む能力強化を通じた安定的な水産物の輸入につながっており、日本の食糧安全保障に貢献していることから、両国間の信頼関係構築にもつながっている。
- (6)本計画は、同国の開発課題・開発政策並びに我が国の協力方針に合致し、有効な水産資源調査・海洋環境調査を実施するため不可欠な漁業調査船の建造を通じて、同国と近隣国の関連水域の持続的な水産資源管理と海洋環境保全に資するものであり、SDGsゴール14「持続可能な開発のために海洋・海洋資源を保全し、持続可能な形で利用する」に貢献することから、事業の実施を支援する必要性は高い。
2-2 効率性
適正かつ経済的な規模となるように、機材の絞り込みを行い、FlowCAM(植物プランクトンの分析用機材)、魚体測定装置、電子上皿天秤、自動滴定装置、堆積物粉砕機、乾燥用オーブン、超純水製造装置等を削減することでコスト縮減を図った。
2-3 有効性
本計画の実施により、2015~2019年の実績値を基準値として、事業完成3年後の2029年の目標値と比較すると、以下のような成果が期待される。
- (1)定量的効果
- ア IMROPにおける年間調査航海日数が、平均99日から150日に増加する。
- イ 調査水域・水深が、沿岸約30~50海里、深さ20~500メートルから、200海里水域、深さ20~1,000メートルに拡大される。
- ウ 調査項目が、生物5項目、海洋環境8項目から、生物10項目、海洋環境18項目に拡大する。
- (2)定性的効果
- ア 水産資源評価の精度の向上により、持続的な水産資源の利用が促進される。
- イ 未利用資源の資源量及び分布域が推定され、その商業的な開発可能性が確認される。
- ウ 海洋生態系のモニタリング精度の向上により、重要生息域が明らかになり同水域の保全が促進される。
- エ 海洋環境のモニタリングの精度の向上により、気象変動に関連する水産資源量の変動動向が把握される。
- オ 女性専用の船室、トイレ/シャワー、更衣室の整備により、女性研究員の研究活動・調査航海参加が促進される。
3 事前評価に用いた資料及び有識者等の知見の活用等
- (1)モーリタニア政府からの要請書
- (2)JICAの調査報告書(JICAを通じて入手可能)