ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
令和6年11月14日
評価年月日:令和6年9月5日
評価責任者:国別開発協力第二課長 氏名 廣瀬 愛子
1 案件名
1-1 供与国名
パキスタン・イスラム共和国(以下、「パキスタン」という。)
1-2 案件名
インダス川流域における洪水管理強化計画
1-3 目的・事業内容
本計画は、インダス川及び支川流域(パンジャブ州、ハイバル・パフトゥンハー州等)において水文・水理及び気象観測機器、データ・モニタリング・システムの整備及び河川構造物等の改修・補強を行うことにより、将来の河川整備に必要な基礎データの量・質の改善及び鉄砲水に対する護岸施設の強度向上を図り、もってパキスタンにおける人間の安全保障の確保と社会の強靱化に寄与する。
供与限度額は28.31億円。
1-4 環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点
本計画は、JICA環境社会配慮ガイドライン(2022年1月制定)におけるカテゴリBであり、環境への望ましくない影響は重大でないと判断される。
2 無償資金協力の必要性
2-1 必要性
- (1)パキスタン(一人当たり国民総所得(GNI)1,500米ドル)は、OECD開発援助委員会(DAC)の援助受取国リスト上、低中所得国に分類されている。
- (2)パキスタンの中央部を流れるインダス川とその支川では、毎年、モンスーン期の豪雨による洪水により、大きな人的・物的損失が発生している。近年は気候変動の影響により、洪水が激甚化・頻発化しており、2022年の大洪水では、1,700人以上の死者、約300億ドル以上の被害が発生した。特に、ハイバル・パフトゥンハー州(以下、「KP州」という。)では、鉄砲水により河岸の崩壊、堤防の損壊被害が発生し、死者は300人を超えた。
- (3)同国北部のパンジャブ州及びKP州を流れるインダス川上流部とその支川の既存観測所の多くは、未だ有人目測観測を続けている他、合流地点等の重要地点における観測点の絶対数が不足しており、河川整備の検討に必要な連続観測ができていない。こうした中、水利電力開発公社は、「National Master Plan for Flood Telemetry Network」(以下、「M/P」という。)を策定し、重要地点での河川水位自動観測のための水文・水理観測機器整備とデータ統合管理を可能とするデータ・モニタリング・システムの改善を優先事業に掲げているが、資金不足により実施目途が立っていない。特に、水文・水理及び気象に関する質の高い観測データが不足していることにより、局所的な豪雨発生時に時宜に応じたダムの事前放流を行うこともできない状況にあり、洪水災害リスクが高いままとなっている。
- (4)我が国の対パキスタン国別開発協力方針では、防災を含む「人的資本への投資と社会サービスの拡充を通じた人間の安全保障の確保と社会の強靭化」を重点分野と定めており、JICA国別分析ペーパー(2022年10月)においても「防災対策支援」を重点分野と分析している。また、同国は、世界第5位の人口を有し、アジアと中東の接点に位置するという地政学的重要性を有するとともに、テロ撲滅に向け重要な役割を担っている国である。同国の安定的な発展は、アフガニスタンを始めとする周辺地域、ひいては国際社会全体の平和と安定に資する点から我が国にとっても極めて重要である。
- (5)本計画は、パキスタン政府による国家洪水防御計画及びM/Pにおいて優先度の高い事業として位置付けられているとともに、河川管理体制の強化及び洪水予測の精度向上の推進を通じ、災害に負けない強靭な社会の構築に資するものであり、SDGsのゴール11(包摂的、安全、強靭な都市及び人間居住の構築)及びゴール13(気候変動とその影響への緊急の対処)にも貢献することから、本計画を実施する必要性は高い。
2-2 効率性
水文・水理観測機器、データ・モニタリング・システムに関する各種機材は、既設機材との互換性やスペアパーツ等の調達及び保守の容易さ、持続性を考慮して、日本又は第三国から調達し、周辺機器として同国に広く流通しているものは現地調達を想定することで、コスト低減、維持管理の容易化を図った。
2-3 有効性
本計画の実施により、2023年実績値を基準値として、事業完成3年後の2030年の目標値を比較すると、主に以下のような成果が期待される。
- (1)定量的効果
- ア 水位・雨量情報の観測間隔(1機器あたりで担うKP州及びパンジャブ州の主要河川の延長)が、160キロメートルから80キロメートルになる。
- イ 水位・雨量情報の観測間隔(1機器あたりで担うKP州及びパンジャブ州の流域面積)が、4,800平方キロメートルから2,500平方キロメートルになる。
- ウ 気象情報の観測間隔が、180分から10分になる。
- エ 総延長1,543メートルにわたり護岸が改修される。
- オ 護岸の改修により、KP州ハザラ地区において3,000エーカーの農地が保護される。
- (2)定性的効果
- ア 河川水位の適切な観測及び情報伝達等による河川管理体制の強化。
- イ 洪水リスク削減に向けた基礎データの蓄積及び治水事業(特に構造物対策)の推進。
3 事前評価に用いた資料及び有識者等の知見の活用等
- (1)パキスタン政府からの要請書
- (2)JICAによる協力準備調査報告書(JICAを通じて入手可能)
- (3)パキスタン国別評価報告書(2014年度・第三者評価)