ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
令和6年10月11日
評価年月日:令和6年4月12日
評価責任者:国別開発協力第三課長 井上 和志
1 案件名
1-1 供与国名
マダガスカル共和国(以下、「マダガスカル」という。)
1-2 案件名
トアマシナ市上水道システム拡張及び改善計画
1-3 目的・事業内容
本計画は、トアマシナ都市圏において、既存の浄水場と送配水施設の拡張・更新等を行うことにより、安全かつ安定的な給水サービスの拡大を図り、もって同地域における公衆衛生と経済活動の促進に寄与するもの。
供与限度額は、28.96億円。
1-4 環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点
本計画は、JICA環境社会配慮ガイドライン(2022年1月制定)におけるカテゴリBであり、環境や社会への望ましくない影響は重大ではないと判断される。
2 無償資金協力の必要性
2-1 必要性
- (1)マダガスカル(一人当たり国民総所得(GNI)510ドル)は、OECD開発援助委員会(DAC)の援助受取国リスト上、後発開発途上国に分類されている。
- (2)マダガスカルは、広大で降雨に恵まれた国土を有し、鉱物・石油資源や水産資源にも恵まれており、一層の開発が期待されている。また、地政学的にアジアとアフリカとの間の主要な海洋航路上にあり、戦略的要衝に位置する。同国は、レアメタルを含む鉱物資源が豊富であり、特にニッケルについては、日系企業が大規模な精錬事業を行っており、同国は我が国にとってニッケルの最大の輸入相手国となっている。
- (3)内陸に位置する首都アンタナナリボ(人口約300万人)と、同国の国際貨物の90%を取り扱う港を擁する第2の都市トアマシナ(人口約50万人)は国道二号線で結ばれ、同国を牽引する主たる経済軸を形成している。トアマシナは、今後、産業・観光都市としての成長が期待され、2033年には人口が現在の約1.5倍の約76万人に増加することが予想されているが、水道整備に関しては首都アンタナナリボでの安全な水へのアクセス率が約70%であるのに対し、トアマシナでは1929年に仏植民地政府により建設されたファラファティ浄水場しか存在しておらず、アクセス率は約30%に留まっている。上水道へのアクセスのない住民は、水質に問題のある浅井戸を生活用水として使用しており、住民の健康状態に影響を与えうる公衆衛生上の懸念が高まっている。また、上水道に接続している場合でも、ファラファティ浄水場の供給量不足と水道管網の老朽化による給水圧力の低下のため住民に必要な水量が不足しており、浄水場及び送配水線の整備が喫緊の課題となっている。
- (4)マダガスカル政府は施策方針(la Politique Générale de l'Etat:PGE)における重点分野として、平和と安全保障、エネルギーと水、汚職対策(ガバナンス等)、教育、保健、工業化、食料の自給自足(農業・牧畜等)、居住促進と近代化(都市計画・道路)等を挙げているが、本計画はトアマシナ都市圏において安全かつ安定的な給水サービスの拡大を図るものであり、同国の施策方針に合致し、同国の開発課題の解決に資するものである。
- (5)我が国の対マダガスカル国別開発協力方針(2021年5月)では、援助重点分野「経済インフラ開発」を掲げ、都市・地域開発の基盤を整備すべく、上下水道整備や廃棄物管理等の社会インフラ整備に対する支援を実施するとしている。また本計画は、我が国が円借款で整備を進めるトアマシナ港の安定した運営に貢献し、近隣工業団地等への水の安定供給も見込まれることから、経済強靱化や産業基盤整備の観点で「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の理念に合致する。さらに、SDGsゴール3「保健」、ゴール6「水・衛生」、ゴール9「イノベーション」及びゴール11「持続可能な都市」にも寄与することからも、本計画を実施する必要性は高い。
- (6)また、我が国とマダガスカルは、良好な二国間関係を背景に国際社会においても協力関係にある。地政学的にアジアとアフリカの主要海洋航路上という戦略的要衝に位置する同国は、我が国が提唱する「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」を実現する上で重要な役割を担っている。こうした点からもマダガスカルの開発ニーズ及び我が国の支援方針に合致し、同国の基礎インフラと公衆衛生の改善に資する本計画を実施することは、同国の安定と更なる二国間関係強化の観点から重要である。
2-2 効率性
マダガスカル政府の要請を踏まえつつ、現地調査による支援対象の絞り込みを実施し、必要かつ適切な規模とするとともに、事業費の妥当性を検討した。管網解析を実施し、給水エリアにおける供給水量の増加と水圧の確保が十分可能となることを確認した上で、当初想定していた高架水槽2基及び配水管の新規布設約12kmキロメートルを削減するとともに、浄水場の拡張容量を10,000立方メートル/日から9,000立方メートル/日に、送配水管の更新延長を約38キロメートルから4キロメートル(配水本管のみ)に縮小し、事業費を抑制した。
2-3 有効性
本計画の実施により、2022年の実績値を基準値として、事業完成4年後の2031年の目標値を比べて、以下のような成果が期待される。
- (1)定量的効果
- ア ファラファティ浄水場の浄水能力が、20,000立方メートル/日から29,000立方メートル/日に増加する。
- イ 十分な水圧(需要ピーク時で10メートル以上)で給水を受けられる人口が、10万人から28万人に増加する。
- ウ 水圧の増加により使用が再開される公共水栓の数が、0か所から191か所に増加する。
- (2)定性的効果
- ア 供給水の濁度改善、市民の給水サービスへの満足度向上及び浅井戸や雨水等を利用していた市民の生活環境・公衆衛生・健康状態の改善が期待できる。
- イ トアマシナ市の産業都市としての投資環境の向上及び観光都市としての利便性及び魅力の向上が期待できる。
3 事前評価に用いた資料及び有識者等の知見の活用等
- (1)マダガスカル政府からの要請書
- (2)JICAの調査報告書(JICAを通じて入手可能)