ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
令和6年10月11日
評価年月日:令和6年9月12日
評価責任者:国別開発協力第三課長 東 邦彦
1 案件名
1-1 供与先名
パレスチナ自治区(以下、「パレスチナ」という。)
1-2 案件名
西岸地区における消防機材整備計画
1-3 目的・事業内容
パレスチナのヨルダン川西岸地区に位置するジェニン県、ラマッラ・アル=ビーレ県及びトゥルカレム県において、消防機材を整備することで、消火及び救助活動能力の向上を図り、もってパレスチナの行政の質の向上及び災害リスクの軽減に寄与するもの。
供与限度額は12.08億円。
1-4 環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点
- (1)本計画は「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン」(2022年1月制定)上、環境への望ましくない影響は最小限であると判断されるため、カテゴリCに該当する。
- (2)中東和平問題に係る紛争の激化等により政治・治安状況が大幅に悪化する可能性があるといった外部要因リスクが存在する。
2 無償資金協力の必要性
2-1 必要性
- (1)パレスチナ(一人当たり国民総所得(GNI)4,610ドル)は、OECD開発援助委員会(DAC)の援助受取国リスト上、「低中所得国」に分類される。
- (2)ヨルダン川西岸地区に位置するジェニン県、ラマッラ・アル=ビーレ県及びトゥルカレム県における火災発生件数は、西岸地区の火災発生件数の約半数を占める一方、当該3県に配備されている消防車両の老朽化及び車両数の不足により、適時・適切な消火・救助活動が妨げられ被害が拡大しており、消防機材等の整備が喫緊の課題である。
- (3)パレスチナ自治政府は、国家開発アジェンダ(2016年12月)において、「強靱なコミュニティづくり」を優先課題として取り上げ、その実現のために「災害対応と危機管理の能力を強化」することとしており、本計画はこれらの政策に合致し、パレスチナにおいて優先度の極めて高い事業として位置づけられる。
- (4)我が国の対パレスチナ国別開発協力方針(2017年9月)では「財政基盤の強化と行政の質の向上」を重点分野の一つとして定めており、本計画は、消火・救助活動能力の改善を通じ行政サービスの向上に資するものであるところ、本計画は同方針に合致する。また、SDGsゴール11(包括的、安全、強靱で、持続可能な都市と人間住居の構築)にも貢献するものであり、本計画を実施する必要性は高い。
- (5)パレスチナが位置する中東地域は、国際通商上の主要なルート上に位置し、石油・天然ガスなどのエネルギー資源を世界に供給する重要な地域である。本計画の実施を通じ、パレスチナの災害リスクの軽減に寄与することは、同地域の安定のみならず、石油の9割を同地域に依存する我が国にとって、ひいては国際社会にとっても極めて重要である。
- (6)2023年10月以降、ガザ紛争により、ヨルダン川西岸地区においても、イスラエルによる検問所封鎖によるイスラエルへの出稼ぎパレスチナ人の失業者数の増加、イスラエル軍による掃討作戦、ユダヤ人入植者の暴力の増加等、困難な状況が続いている。さらに、経済活動の制約や、イスラエルからパレスチナ自治政府に対する税還付が滞る等、パレスチナ自治政府の財政状況の悪化が行政サービスの悪化に繋がっており、パレスチナ自治政府の行財政能力強化を進めていくためにも、本事業の実施を支援する必要性及び妥当性は高いことから、本案件は無償資金協力による実施が適当である。
2-2 効率性
パレスチナ自治政府の要請を踏まえつつ、現地調査により援助効果が担保されることを確認した上で、供与台数の絞り込みを実施した。また、車両の一括調達及び地域内輸送費の先方負担等により、輸送費、据付工事費、調達監理費、設計監理費の縮減を図った。
2-3 有効性
本計画の実施により、2023年の実績値を基準値とし、事業完成3年後の2030年の目標値と比較すると、主に以下のような効果が期待される。
- (1)定量的効果
- ア 水槽付き消防車両が配備されている対象3県の消防署及び地域防災センター数が、11署(55%)から20署(100%)となる。
- イ 3県に配備された消防車両の総積載水量が、対象3県合わせて87,000リットルから117,000リットル(34%増)となる。
- (2)定性的効果
消防車両が進入して活動することが困難な住宅密集地域や草地等における消防活動能力が向上するとともに迅速な災害対応が可能となる。
3 事前評価に用いた資料及び有識者等の知見の活用等
- (1)パレスチナ自治政府からの要請書
- (2)JICA協力準備調査報告書(JICAを通じて入手可能)
- (3)パレスチナ自治区に対する支援の評価(2012年度・第三者評価)
- (4)無償資金協力個別案件の評価報告書・第3章:2014年度パレスチナ自治区に対する「ノンプロジェクト無償資金協力」の評価(2017年度・第三者評価)