ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
令和6年8月19日
評価年月日:令和6年7月2日
評価責任者:国別開発協力第一課長 鴨志田 尚昭
1 案件名
1-1 供与国名
東ティモール民主共和国(以下、「東ティモール」という。)
1-2 案件名
ギド・ヴァラダレス国立病院整備計画
1-3 目的・事業内容
本計画は、同国唯一の三次医療施設であるギド・ヴァラダレス国立病院において、手術部門・周産期部門等の医療施設と関連医療機材の整備を行うことにより、医療サービスの水準の向上を図り、もって同国の保健医療体制の改善を通じた社会サービスの普及・拡充に寄与するもの。
供与限度額は30.93億円。
1-4 環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点
本計画は、JICA環境社会配慮ガイドライン(2022年1月制定)におけるカテゴリCであり、環境への望ましくない影響は最小限であると判断される。
2 無償資金協力の必要性
2-1 必要性
- (1)東ティモール(一人当たり国民総所得(GNI)1,980米ドル)は、OECD開発援助委員会(DAC)の援助受取国リスト上、後発開発途上国に分類されている。
- (2)東ティモールの保健指標は過去20年間で全般的に改善されてきたが、近年では非感染性疾患による死亡が増加しており、感染性疾患による死亡も依然として多い(保健指標評価研究所:2009-2019)。また、妊産婦死亡率も750(出生10万対)から204に大幅に減少したが(世界銀行:2000-2020)、まだ改善の余地は大きい。2022年の妊産婦死亡の主な原因としては、異常出血、妊娠高血圧症候群、中絶・流産、敗血症を含む感染症が挙げられ(世界保健機関)、その多くは健診や出産の際に適切な処置が行われていれば防げるものである。しかし、施設分娩率は57%、帝王切開率は4%と低く(同国保健省)、救命手術としての帝王切開の普及が遅れている。
- (3)ギド・ヴァラダレス国立病院は東ティモールで唯一の三次医療施設であり、第二次レベルの医療施設が提供するサービスとして規定されている内容が限定的であることから、患者が同病院に集中し、入院や手術を受けるには半年以上を要する。加えて、医療施設や医療機材の不足等により国内で提供可能な医療サービスの水準は低く、がんや心血管疾患など高度な技術を要する患者については近隣諸国の医療施設へ搬送している。また、敷地内の建物の多くは築20年以上が経過し、多くの施設・設備が老朽化或いは故障している。
- (4)かかる状況下、東ティモール保健省は同病院改修のためのマスタープランを作成し、全4期に分けてほぼ全ての施設の建て替えを予定している。同国の「政府開発計画(2011-2030)」においても、保健セクターを含む社会資本が優先課題の一つとして掲げられており、「国家保健セクター戦略計画(2011-2030)」では、2030年までに全ての国民がアクセス可能な質の高いプライマリ・ヘルスケアと医療の包括的なサービスを提供することが目標の一つとされている。さらに、近年は新型コロナウイルスの感染拡大により、医療体制の脆弱性が改めて浮き彫りとなり、同国政府が掲げる6つの重点分野においても社会資本改善(人材育成・保健が中心)が挙げられている。
- (5)我が国の対東ティモール国別開発協力方針では「社会サービスの普及・拡充」が重点分野と定められており、JICA国別分析ペーパー(2023年3月)においても、「成長基盤強化」及び「ガバナンス強化」が重点分野であると分析されている。
- (6)本計画は同国の保健システム強化の観点から、我が国の「グローバルヘルス戦略」の基本的考え方(各国の保健システム強化・強靭性の確保)に合致するとともに、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」のための新たなプランにおける柱の1つである「インド太平洋流の課題対処」の取組に位置付けられるものである。また、病院施設の新設や機材の整備を通じて同国の保健医療サービスの質の向上に資するものであり、SDGsゴール3(健康な生活の確保、万人の福祉の促進)に貢献することから、本計画を実施する必要性は高い。
2-2 効率性
東ティモール政府の要請を踏まえつつ、現地調査による支援対象の絞り込みを実施し、必要かつ適切な規模とするとともに、事業費の妥当性を検討した。また、庇やバルコニーによる直射日光の遮断、適正な断熱材の採用、天井面付近に配置した窓面からの間接的な自然採光の取得、太陽光集熱設備を利用した給湯方式等、省エネに配慮した建築設計を行うだけでなく、主要建設資材は可能な限り現地調達を検討し、コスト低減、維持管理の容易化を図った。
2-3 有効性
本計画の実施により、2023年実績値を基準値として、事業完成3年後の2030年の目標値を比べて、以下のような成果が期待される。
- (1)定量的効果
- ア 手術件数が、3,727件/年から5,500件/年となる。
- イ ハイリスク分娩の割合が、9.6%/年から11.7%/年となる。
- (2)定性的効果
- ア
- 周産期ケアの質向上
産婦人科外来、病棟、分娩室等の施設、機材整備により、周産期ケアの質が向上する。 - イ
- 病院内の動線短縮による緊急医療サービス提供の効率化及び患者安全の向上
集中治療部門を含む新小児ICU病棟との連結により、動線が短縮され緊急医療サービスの効率化及び患者の安全が向上する。 - ウ
- 医療人材の育成強化
医療系学生の教育病院である同病院の施設、機材整備により、手術や周産期ケアに関わる医療人材の育成が強化される。
3 事前評価に用いた資料及び有識者等の知見の活用等
- (1)東ティモール政府からの要請書
- (2)JICAの調査報告書(JICAを通じて入手可能)
- (3)東ティモール国別評価報告書(2021年度・第三者評価)