ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
令和6年8月15日
評価年月日:令和6年4月12日
評価責任者:国別開発協力第三課長 井土 和志
1 案件名
1-1 供与国名
エスワティニ王国(以下、「エスワティニ」という。)
1-2 案件名
中等学校整備計画
1-3 目的・事業内容
エスワティニの国内4か所において、中等学校の新規建設及び機材整備を行うことにより、対象地域での教育環境改善を図り、もって同国の中等教育へのアクセス及び質の改善向上に寄与するもの。
供与限度額は16.13億円。
1-4 環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点
本計画は、JICA環境社会配慮ガイドライン(2022年1月公布)におけるカテゴリCであり、環境への望ましくない影響は最小限であると判断される。
2 無償資金協力の必要性
2-1 必要性
- (1)エスワティニ(一人当たり国民総所得(GNI)3,680ドル)は、OECD開発援助委員会(DAC)の援助受取国リスト上、低中所得国に分類される。
- (2)同国教育訓練省は、国家教育訓練セクター政策(2018)において、公正な教育機会の提供(通学距離7キロメートル以内の学校配置)、留年率の抑制、中等学校への進学率向上等を優先課題に位置づけ、2030年までの中等教育の無償化を目指している。これに伴い、中等学校への進学者数は増加しているが、2018年時点で小学校623校に対し、前期中等教育・後期中等教育における中等学校は285校にとどまり、絶対数が不足しているため、就学年齢児童の17%が中等学校へのアクセスがない(2021年、世銀)とされている。今後の教育セクターの指針を示す教育訓練省戦略計画2022-2034においては、「中等学校教育が提供されていないエリアにおけるアクセスの改善」が戦略目標に挙げられており、特に科学実験室やICT実習室などを備えた質の高い教育を提供できる施設の拡充が急務となっている。
- (3)さらに、同計画では、休校期間中の貧しい家庭内での家事従事や女子生徒の妊娠など、脆弱な生活環境にいる生徒の教育機会が奪われることが大きな問題となったことを教訓に、教育システムのレジリアンスの強化、CSTL(教育と学習へのケアと支援: Care and Support for Teaching and Learning)などが目標として挙げられている。また、すべての学校のデジタル接続の実現、ICT教育施設の拡充、遠隔学習の教材開発と学校教育への適用などが新たな成果指標として取り上げられており、今後の課題が明確に示されている。
- (4)本計画は、4つの中等学校の新設及び機材整備を行うことで、該当地域における中等教育の環境及びアクセスの向上を支援するものである。計画内容には、理科実験棟やICT実習室など設備を充実させることによるカリキュラムの充実、保健室の設置や構内のバリアフリー化等、CSTLの考え方に沿った施設整備を含めており、国家教育訓練セクター政策(2018)で掲げる公正な教育機会の提供を支援するものとして位置付けられている。
- (5)我が国は、対エスワティニ(旧国名スワジランド王国)国別開発協力方針(2014年4月)において「人材育成と社会的弱者の基礎生活の向上」を重点分野と定め、「基礎教育改善支援プログラム」を実施している。本計画は、中等教育へのアクセス改善に寄与するものであり、同方針に合致する。さらに、第8回アフリカ開発会議(TICAD8)における日本の取組として、「教育(若者や女性を含めた人材育成)」が位置付けられており、日本政府の公約達成に資するとともに、SDGsゴール4(質の高い教育をみんなに)にも貢献するものである。また、同国の貧困率は58.9%(2017年、UNDP)と高く(「経済的脆弱性」)、新型コロナウイルス感染症の流行により、貧困層の教育機会の損失が確認されている。人間の安全保障の観点から、貧困など個人の尊厳、生命、生活に対する脅威への対応が必要であり(「緊急性・迅速性」、「人道上のニーズ」)、無償資金協力として本計画の実施を支援する必要性及び妥当性は高い。
- (6)同国は国際社会において基本的に我が国の立場を支持する友好国であり、二国間関係の維持・強化の観点からも本計画を通じた支援は重要である。
2-2 効率性
- (1)本計画では、工期遅延等が生じないように現地企業の財務・技術力等について調査段階から十分に情報収集を行った結果、エスワティニの公共事業交通省の下部組織となる建設工業協会の最上位カテゴリに属する現地業者に、一定の財務・技術力を有する企業が複数社含まれることを確認した。
- (2)また、本計画では、入札に当たって適切な入札資格審査の基準を定め、事前審査で現地業者カテゴリを精査することで、適切なレベルの業者を選定する。
2-3 有効性
本計画の実施により、2022年の実績値を基準値として、事業完成3年後の2029年の目標値を比べて、主に以下のような効果が期待される。
- (1)定量的効果
対象地域に4校(20教室)を新設することにより、新たに800人の就学児童・生徒が受入れ可能となる。 - (2)定性的効果
実験室等の整備や一般教材でのデジタルコンテンツ(スライド教材、写真、教材ビデオ)の利用により、生徒の学習効果・進学意欲が向上する。また、男女別のトイレを含め、生理用品のための焼却炉を設置した女子用トイレ棟や保健室の設備により女子生徒の通学意欲が向上する。
3 事前評価に用いた資料及び有識者等の知見の活用等
- (1)エスワティニ政府からの要請書
- (2)JICA協力準備調査報告書(JICAを通じて入手可能)