ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
令和6年8月2日
評価年月日:令和6年3月25日
評価責任者:国別開発協力第二課長 時田 裕士
1 案件名
1-1 供与国名
キルギス共和国(以下、「キルギス」という。)
1-2 案件名
国際空港航空交通管制施設整備計画
1-3 目的・事業内容
本事業は、オシュ国際空港の管制施設の建て替え及びオシュ、マナス、イシククリの各国際空港の航空管制システムを更新することにより、各空港を離発着する航空機運航の安全性及び航空機取扱能力の強化を図り、もって地域連結性の強化及びキルギス南部の経済発展を通じた産業多角化に資するインフラ整備に寄与する。
供与限度額は21.53億円。
1-4 環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点
本事業は、JICA環境社会配慮ガイドライン(2022年1月制定)におけるカテゴリBであり、一般的に、環境や社会に対する望ましくない影響はサイト自体にしか及ばず、不可逆的影響は少ないため、通常の方策で対応できると考えられる。
2 無償資金協力の必要性
2-1 必要性
- (1)キルギス(一人当たり国民総所得(GNI)1,410ドル(2022年))は、OECD開発援助委員会(DAC)の援助受取国リスト上、後発開発途上国に分類されている。
- (2)キルギスは、東・南アジア、欧州・ロシア、中東のそれぞれを結ぶ地域に位置している。同国の安定は、中央アジアひいてはユーラシア地域全体の安定にとり重要であるほか、近隣国アフガニスタンの自立と安定に向けた国際社会の取組を推進する上で不可欠である。また、同国は日本に対して友好的であり、国際社会における日本との協力にも前向きである。
- (3)同国政府は、2015年にオシュ国際空港の近代化計画を掲げ、2016年には滑走路延伸、2017年には旅客ターミナルビルの拡張工事を行った。その一方で、既存の管制塔及び当国西部の空域を航行する航空機の管制を行う航空管制センターは、旧ソ連時代の1974年に建設されてから約50年が経過し、老朽化が進んでいる。特に、管制塔は高さが不十分であるため、滑走路端部の航空機を視認できず、安全上課題がある状況となっている。また、同国の空域を航行する航空機の管制を行う、オシュ、マナス、イシククリの各国際空港の航空管制システムは導入から約15年が経過し、メーカー保証期間を超過しており、メーカーサポートが受けられない状況となっている。災害や障害等により同システムが停止した場合、長期間にわたり航空路管制を実施できなくなるリスクがあり、業務継続性の観点から課題となっている。
- (4)本事業は、2022年12月の「中央アジア+日本」対話外相会合の共同声明において、各国が海への出口を模索する運輸・物流の各分野での協力が重要であることで一致したことを具体的にフォローするものである。
- (5)ロシアによるウクライナ侵略の開始以後、ロシアは経済制裁に対する対抗策として、我が国を含む有志国に対してその領空を閉ざしていることを受け、ロシア領空を避けて中央アジア上空を通り、アジアや中東を行き来する便が急増している。かかる状況の中、キルギスの国際空港の管制設備を整備することは、ロシアを経由しない航空路線の安全性の向上、中央アジア地域の運輸・物流環境の改善に寄与する他、インド太平洋地域との連結性強化の可能性も開き、キルギスの経済発展に資するものと言える。また、SDGsゴール9「強靭なインフラ整備」の実現にも貢献する。
2-2 効率性
- (1)キルギス政府の要請を踏まえつつ、現地調査による支援病院の絞り込みを実施した。その結果、供与機材について絞り込みを行った。
- (2)現地での業者へのヒアリングにより、冬季においてキルギス国内での建設工事及びビシュケクからオシュへの資機材輸送が困難となることが判明し、工期延長に伴う事業費の増額を最小限にするため、事業工程の精査を行った。
2-3 有効性
本事業の実施により、2022年の実績値を基準値として、事業完成3年後の2030年の目標値と比較すると、以下のような成果が期待される。
- (1)定量的効果
- ア オシュ空港の管制塔を建て替えることにより、管制塔から視認できる滑走路部分の比率が、63.1%から100%に増加する。
- イ オシュ、マナス、イシククリの3国際空港の航空管制機材を更新することにより、機材が同時に処理可能な管制空域の航空機数が、400機から2,000機に増加する。
- (2)定性的効果
- ア オシュ国際空港における管制塔からの視認性向上及び管制塔及び航空交通管制センターの一体化により、オシュ国際空港における航空機運航の安全性が向上するとともに、航空管制業務の効率性が向上する。
- イ オシュ、マナス、イシククリの各国際空港における航空管制システムの更新により、キルギス上空を航行する航空機運航の安全性及び航空機取扱能力が向上する。
- ウ 航空機運航の安全性及び航空機取扱能力の向上により、地域連結性が強化され人流及び物流が活発になる。
3 事前評価に用いた資料及び有識者等の知見の活用等
- (1)キルギス政府からの要請書
- (2)JICAの調査報告書(JICAを通じて入手可能)
- (3)キルギス国別評価報告書(2011年度・第三者評価)