ODA(政府開発援助)

令和6年8月2日

評価年月日:令和6年4月16日
評価責任者:国別開発協力第二課長 時田 裕士

1 案件名

1-1 供与国名

 キルギス共和国(以下、「キルギス」という。)

1-2 案件名

 ビシュケク市内三次病院における医療機材整備計画

1-3 目的・事業内容

 本計画は、公的医療サービス提供の拠点となるトップリファラルであるビシュケク市内の三次病院において、循環器疾患及び乳がんの診断・治療のための医療機材を整備することにより、診断・治療体制の強化を図り、もって保健医療サービスの質の向上に寄与する。
 供与限度額は15億円。

1-4 環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点

 本計画は、JICA環境社会配慮ガイドライン(2022年1月制定)におけるカテゴリBであり、一般的に、環境や社会に対する望ましくない影響はサイト自体にしか及ばず、不可逆的影響は少ないため、通常の方策で対応できると考えられる。

2 無償資金協力の必要性

2-1 必要性

  • (1)キルギス(一人当たり国民総所得(GNI)1,410ドル(2022年))は、OECD開発援助委員会(DAC)の援助受取国リスト上、後発開発途上国に分類されている。
  • (2)キルギスでは若年層を含め、非感染性疾患(Non-communicable diseases)(以下、「NCDs」という。)の死因に占める割合が約8割(WHO Mortality Database、2021年)となっており世界全体の平均(約7割)よりも高い。また、全NCDsの中で特に循環器疾患の死因の割合が高い(51.6%、キルギス統計委員会、2021年)。さらに、がんが死因に占める割合も2010年の8.8%から2019年には12.2%に増加しており(WHO)、がん疾患の中でも乳がんの罹患率が最も高くなっている(20.4人/10万人、キルギス国立腫瘍・血液内科病院、2021年)。また、乳がん患者の5年生存率は約45%(日本の場合は約90%、公益財団法人がん研究振興財団、2023年)であり、その約4割がステージIII以上(日本の場合は約15%、国立研究開発法人国立がん研究センター、2021年)を占めている。しかしながら、NCDsを引き起こす危険因子、喫煙、飲酒、肥満、高血圧等の予防に加え、早期発見・診断・治療につなげるための各段階に応じた適切な検査や治療等に関しては、国内の医療施設のサービス提供体制に課題があり、質・量とも求められる診断・治療に十分に対応できる水準に達していない。
  • (3)こうした課題に対処すべく、同国政府は「国家発展戦略2018-2040年」において、国民のニーズに応じられる保健医療制度を目指しており、2019年に策定した分野別戦略である「国家公衆衛生保護・保健システム発展プログラム2019-2030年」においては、2030年までにNCDsによる若年死亡率を3分の1に減少させることを目標として掲げ、NCDs対策を保健政策の重点分野に位置づけている。また、循環器疾患の対策に関しては「緊急 循環器疾患への対応計画」が保健省に承認され、予防・啓発活動を含め各レベルの医療機関の役割や診断治療の範囲等が示されるとともに、2027年までに現在の年間約2万件の死亡件数を25%削減する目標が掲げられている。さらに、がんに関しては、発見と治療の遅れが高い死亡率につながっていることから、「キルギス共和国におけるがん疾患の管理及び予防戦略プログラム2021-2025」において、各レベルの医療機関における早期発見・診断・治療を強化するとともに、ステージI、IIで登録されるがん患者を80%増やすことを目標としている。
  • (4)これまで同国政府は、NCDs患者に対する医療サービス提供体制の強化を図るためリファラル体制の強化を進めており、まずは一次・二次病院における機材整備と体制強化を進めてきた。これにより三次病院において、一次・二次病院から搬送されてくる重症患者に対する診断・治療に集中する環境を整備し、患者の集中による診療負荷を軽減することを目指している。一方で、三次病院では、医療機材の不足に加え、既存の機材の老朽化も進んでおり、重症患者に対する適時・適切な医療サービス提供が困難になっている。上記を踏まえ、本計画においては、ビシュケク市及び全国における公的医療サービス提供の拠点となるトップリファラルである国立心臓病センター、国立心臓外科・臓器移植研究センター及び国立腫瘍・血液内科病院において、特に循環器疾患及び乳がんの診断・治療に必要な医療機材を整備するものであり、同国政府が目指す保健医療体制改善に不可欠な優先度の高い事業として位置づけられる。
  • (5)キルギスは、東・南アジア、欧州・ロシア、中東のそれぞれを結ぶ地域に位置している。同国の安定は、中央アジアひいてはユーラシア地域全体の安定にとり重要である。また、同国は日本に対して友好的であり、国際社会における日本との協力にも前向きである。
  • (6)我が国は、議長国を務めた2023年5月のG7広島サミットやG7長崎保健大臣会合等において国際保健に貢献していく決意を示したところであり、また、本計画は、G7広島首脳コミュニケで確認されたとおり、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の達成にも資するものである。従って、本計画の実施は、G7議長国としてのG7長崎保健大臣会合でのコミットメントのフォローアップの観点からも重要である。
  • (7)さらに、2022年12月に日本が議長国となり東京で開催した「中央アジア+日本」対話・第9回外相会合共同声明において、中央アジアの自由で開かれた持続可能な発展達成のため、「人への投資」、「成長の質」に重点を置いた新たな発展モデルに沿った協力を行うことを決定した。本計画は、無償資金協力での機材供与により、キルギスで罹患率が高い疾患の診断・治療を促し、将来を担う若者及び労働者の早期快復を図るほか、医療従事者の能力強化を図り、結果として同国の医療システム改善につながることから、上記の「人への投資」及び「成長の質」の双方に該当する。また、SDGsゴール3「すべての人に健康と福祉を」の実現にも貢献するものである。

2-2 効率性

 キルギス政府の要請を踏まえつつ、現地調査を通じ、支援対象の絞り込みを実施した。その結果、対象病院を4つから国立病院を除き、よりニーズの高い3つの病院に絞ったほか、医療機材も上記2つの疾患の検査・治療に必須なものに絞り込んだ。特に、医療機材は、各病院が未所有のものや、故障・老朽化した旧ソ連時代からの機材の更新を優先した。

2-3 有効性

 本計画の実施により、2022年の実績値を基準値として、事業完成3年後の2029年の目標値と比較すると、以下のような成果が期待される。

  • (1)定量的効果
    • ア 国立心臓病センターにおいて、アンギオグラフィ装置使用件数が、1,789件/年から2,200件/年に増加するとともに、高周波アブレーションによる手術件数が、216件/年から400件に増加する。
    • イ 国立心臓外科・臓器移植研究センターにおいて、CTの画像診断件数が、0件/年から500件に増加するとともに、アンギオグラフィ装置使用件数が、581件/年から1,500件/年に増加する。
    • ウ 国立腫瘍・血液内科病院において、マンモグラフィー装置検査件数が、1,507件/年から3,000件/年に増加する。
  • (2)定性的効果
    • ア 循環器疾患や乳がんの診断・治療を行えることにより、対象施設における患者の満足度が向上する。
    • イ 対象施設における医療サービスの質が改善される。

3 事前評価に用いた資料及び有識者等の知見の活用等

  • (1)キルギス政府からの要請書
  • (2)JICAの調査報告書(JICAを通じて入手可能)
  • (3)キルギス国別評価報告書(2011年度・第三者評価)
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