ODA(政府開発援助)

令和6年5月31日

評価年月日:令和6年4月8日
評価責任者:国別開発協力第二課長 時田 裕士

1 案件名

1-1 供与国名

 ブータン王国(以下、「ブータン」という。)

1-2 案件名

 モンガル県における主要国道一号線橋梁架け替え計画

1-3 目的・事業内容

 本計画は、ブータン東部に位置するモンガル県において、主要国道一号線上の橋梁を架け替えることにより、基幹幹線道路の利便性・持続性の向上及び物流、人の移動、医療へのアクセス等の改善を図り、もってブータンの持続的な経済成長に寄与するもの。
 供与限度額は16.34億円。

1-4 環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点

 本計画は、JICA環境社会配慮ガイドライン(2010年4月制定)におけるカテゴリBであり、環境への望ましくない影響は重大ではないと判断される。

2 無償資金協力の必要性

2-1 必要性

  • (1)ブータン(一人当たり国民総所得(GNI)3,290ドル)は、OECD開発援助委員会(DAC)の援助受取国リスト上、低中所得国に分類される。
  • (2)国土の大部分が険しい山岳地帯であるブータンにおいて、物資輸送や救急医療の際の患者搬送時に幹線道路が果たす役割は極めて大きい。しかし、同国では地形や財政上の制約により幹線道路が少ない上、幹線道路途絶時の代替ルートの整備もほとんどなされていない。こうした中、本計画の対象である東部地域の主要国道(注:主要国道は、同国における国道の分類上、最重要のものの呼称)一号線にも代替幹線道路が存在していないため、地域住民が高次医療施設にアクセスするに当たっては、一号線及び同路線上にある橋梁は極めて重要となっている。2020年の本路線を使った医療搬送件数は、一次・二次医療機関から三次医療機関(東部地域中核病院)への搬送が約300回、更に三次医療機関から、国道一号線を経由する首都国立病院への搬送が約90回であり、一般住民のみならず、医療が必要な住民にとっては生命線となっている(ブータン政府、2021年)。
  • (3)同国における橋梁の多くは老朽化し、落橋や破損のおそれがあることから、公共事業・定住省は2006年に道路セクターマスタープランを策定し、2027年までに橋梁の補修・架け替え等の実施による既存幹線道路等の強靭化を進め、2022年6月までに166橋の補修・架け替えを完了し、幹線道路である主要国道一号線においても橋梁架け替えを進めている。しかし、国道一号線上にあるナムリン橋(橋長44.0メートル)及びダーダリ橋(橋長34.5メートル)は、現行の設計基準を満たしておらず、ナムリン橋は2002年と2016年の2回、ダーダリ橋は2004年に落橋して現在は仮設橋となっており、安全性確保の観点から速やかな永久橋架設が必要であるが、施工難易度が高いことから、同国政府による架け替え作業を行えない状況にある。その理由として、2橋の建設地点や周辺地域は急峻な山岳部に位置し、がけ崩れ、地滑り等の可能性が高い地形・地質であり土石流も発生している。そのため、架橋位置の詳細な調査検討、斜面崩壊対策工法の導入、狭い施工スペースでの橋梁架設工法の検討等、設計及び施工について高度かつ総合的な建設技術と経験が必要であり、同国政府や同国の建設企業が有する技術や経験では対応が困難であることが挙げられる。本計画は、技術的に架け替えの難易度が高い2橋を対象に支援することで、主要国道一号線の利便性・持続性の向上を図り、同国の持続的な経済社会の安定と発展に寄与することが期待されている。
  • (4)我が国の対ブータン国別開発協力方針(2023年1月)では、重点分野として、「持続可能な経済成長」を掲げ、地方部と都市部の連結性を向上させ、公共サービスへのアクセス向上を支援するとしているほか、SDGsゴール9(強靱なインフラ強化)及びゴール3(あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活の確保と福祉の促進)に貢献することから、本計画を実施する必要性は高い。
  • (5)また、インドと中国の間に位置し、地政学的重要性を有するブータンは、親日国で我が国とは民主主義等の普遍的価値を共有しており、橋梁の架け替えを通じて同国の安定的発展に寄与する本計画を支援することは、二国間関係の更なる強化にもつながることから外交的意義が高い。
  • (6)ブータンの所得水準は相対的に高いことから、「所得水準が相対的に高い国に対する無償資金協力の効果的な活用について」に基づき、無償資金協力の供与の適否について精査が必要である。
     国道一号線は、同国の東西を結ぶ唯一の路線であり、経済発展及び日常生活(生活必需品・医療物資の配送、高次医療施設へのアクセス、緊急搬送等)を維持する上でも非常に重要な幹線道路である。落橋した際の影響は甚大であり、また事実既に複数回落橋していることからも(「緊急性・迅速性」及び「人道上のニーズ」)、昨今の気候変動による災害の甚大化も踏まえ、対象2橋梁を災害に強く耐久性の高いものへ架け替えることは急務であることから、本案件は無償資金協力による実施が適当である。

2-2 効率性

 技術協力プロジェクト「橋梁施工監理及び維持管理能力向上プロジェクト」(2016~2022年)及び「道路斜面対策工能力強化プロジェクト」(2019~2024年)により蓄積された橋梁の維持管理の知見や斜面対策技術が本計画で整備する橋梁の維持管理に活用される。また、現在実施中の無償資金協力「東部地域における保健医療サービス強化計画」による医療機関への機材整備と本計画による橋梁の架け替えにより、東部地域における医療・保健サービスへのアクセス向上を図り、地方部の生活改善への相乗効果の創出を図る。

2-3 有効性

 本計画の実施により、2023年の実績値(一部例外あり)を基準値として、事業完成3年後の2031年の目標値と比較すると、主に以下のような成果が期待される。

  • (1)定量的効果
    • ア 橋梁落橋による通行不能日数が減少する(ナムリン橋(2002年、2016年):14日から0日、ダーダリ橋(2004年):14日から0日)。
    • イ 斜面災害による年間通行不能日数が減少する(約3日/年(2018年~2022年)から0日/年)。
    • ウ 架け替えを行う2橋の交通量が増加する(約3.5万台/年から約5.8万台/年)。
    • エ 架け替えを行う2橋の旅客量が増加する(約13万人/年から約23万人/年)。
    • オ 落橋時に代替ルートを使用した所要時間(タシガン県(ブータン東部)-モンガル県(ブータン東部)間)が短縮される(約12時間から約2.5時間)。
    • カ 落橋時に代替ルートを使用した所要時間(タシガン県-ティンプー県(ブータン西部)間)が短縮される(約21時間から約15時間)。
    • キ 落橋によって生じる経済損失の回避額(0円/回から約38,251千円/回)。
  • (2)定性的効果
     橋梁の安全性向上、医療へのアクセス強化及び人の移動や物流の促進と円滑化、自然災害による被災リスクの軽減が期待される。

3 事前評価に用いた資料及び有識者等の知見の活用等

  • (1)ブータン政府からの要請書
  • (2)JICAの調査報告書(JICAを通じて入手可能)
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