ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
令和6年2月27日
評価年月日:令和6年2月19日
評価責任者:国別開発協力第二課長 時田 裕士
1 案件概要
(1)供与国名
インド
(2)案件名
テランガナ州における起業・イノベーション促進計画
(3)目的・事業内容
テランガナ州において、起業家や中小零細企業向けの能力強化、インフラ整備、事業化支援、事業・市場創出等に係る支援および実施機関の能力強化を行うことにより、女性や地方住民等を含む起業家の発掘や、起業の促進、並びに企業の事業拡大の促進を図り、もって同州の包摂的な雇用機会創出及び持続的な産業発展等に資するもの。
- ア
- 主要事業内容
- (ア)起業家・企業能力強化:起業家精神やイノベーションが生み出される素地を育むための啓発・教育プログラム、地方都市・女性向け起業家発掘・育成プログラム、製品の試作品・サービス開発支援、マーケティング戦略策定支援、資金調達のための各種支援等
- (イ)インフラ整備:スタートアップ企業等のイノベーション開発拠点となる施設や、事業拡大に成功した中小企業向けの進出拠点となる施設整備等
- (ウ)事業化支援:州政府直属機関による起業家・企業等に対する資金支援
- (エ)事業・市場創出:州政府が直面する社会課題を提示し、それらの解決策をスタートアップ企業等から募集し、解決策の実証・実施を委託等
- (オ)コンサルティング・サービス(事業実施監理支援、環境社会配慮対応支援、州政府のスタートアップ支援能力強化)
- イ
- 供与条件
供与限度額 金利 償還(うち据置)期間 調達条件 236.97億円 1.80% 30(10)年 一般アンタイド - (注)コンサルティング・サービス部分は金利0.20%を適用。
(4)環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点
- ア
- 環境影響評価(EIA)
本計画は、「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン」(2010年4月公布)上、JICAの融資承諾前にサブプロジェクトが特定できず、かつ、そのようなサブプロジェクトが環境への影響を持つことが想定されるため、カテゴリFIに該当する。なお、サブプロジェクトにカテゴリA案件は含まれない。 - イ
- 用地取得及び住民移転
特になし。 - ウ
- 外部要因リスク
特になし。
2 資金協力案件の評価
(1)必要性
- ア
- 開発ニーズ
現在人口ボーナス期にあるインドにおいて、毎年約1,600万人が新たに労働市場に流入している。モディ政権は毎年2,000万人の新規雇用を創出するとの目標を掲げている一方で、2011年から2015年の新規雇用創出数は平均で年間660万人程度に留まるなど目標に届いていない。その背景としてGDPの8割を占める製造業及びサービス業での雇用創出が限定的であること、多数の企業が政府未登録の零細企業に留まっていること等があげられる。なお、新型コロナウイルス感染症拡大前の2017~2018年度の失業率約6.1%に対して、新型コロナウイルス感染症拡大に伴うロックダウン等の影響で2020年4月の失業率は23.5%まで悪化し、2022年11月時点でも7.8%と依然として失業率が高いままである。インド政府は雇用創出を最重要課題の一つと位置づけており、上記の課題解決に向けて製造業振興策「Make in India」、中小零細企業振興策「Startup India」を掲げている。
テランガナ州はIT産業等が集積する州都ハイデラバードを中心に、州内の産業振興に積極的に取り組んでいる地域である。他方で、地域間や性別間の格差など社会課題に直面しており、その中でも失業問題は深刻であり、2017~2018年度の失業率が州全体で約7.6%、そのうち若年人口(15~29歳)の失業率が23.3%、新型コロナウイルス感染症拡大後の2020年5-8月の失業率は9.3%に落ち込んでいる。
こうした背景から、テランガナ州においても雇用創出を最重要課題の一つと位置付け、「テランガナ州産業政策2014」にて産業の持続的な発展に資する成長基盤の整備を、「テランガナ州イノベーション政策2016」ではスタートアップ企業等の成長企業の発掘・発展への支援を掲げている。さらに、「社会イノベーション政策2020」及び「草の根イノベーション政策2016」において、成長基盤整備、社会課題解決に資するイノベーション、そして包摂的な取組、この3つの推進が目標とされている。このような政策の下で同州政府は州内関係機関と連携し、州政府機関としてスタートアップ育成支援を行うインド最大のインキュベーション施設「T-Hub」や、製造業系のスタートアップ向け試作品製作施設「T-Works」、女性起業支援機関「We-Hub」、イノベーション政策推進機関「Telangana State Innovation Cell(TSIC)」を設置する等の具体的な取り組みを進めた。その結果、スタートアップを次々と生み出し、それが人材・技術・資金を呼び込み、さらなる発展を続ける「スタートアップ・エコシステム」がハイデラバードを中心に形成されつつあり、これまでに約6,600社以上のスタートアップ企業が誕生している。同州政府が引き続き雇用創出及び産業振興策を進めるにあたって、施設や資金の不足、首都ハイデラバード以外の地方での取組の推進が課題となっている。本計画はテランガナ州の取組を支援するものであり、民間セクター開発における重要事業に位置付けられる。 - イ
- 我が国の基本政策との関係
インドにおいて、依然として多くの貧困層を抱え、電力、運輸等の経済インフラが絶対的に不足していることなどの開発ニーズを踏まえて2016年3月に策定された「対インド国別援助方針」においては、今後の対インドODAの重点目標として、連結性の強化、産業競争力の強化及び持続的で包摂的な成長への支援を掲げている。
本計画は、テランガナ州において、起業家や中小零細企業向けの能力強化、インフラ整備、事業化支援、事業・市場創出等に係る支援及び実施機関の能力強化を行うことにより、女性や地方住民等を含む起業家の発掘や、起業の促進、並びに企業の事業拡大の促進を図り、もって同州の包摂的な雇用機会創出及び持続的な産業発展等に資することから、上記重点目標のうち、産業競争力の強化及び持続的で包摂的な成長に合致する。
また、本計画は、SDGsのゴール8(持続的、包摂的で持続可能な経済成長と、万人の生産的な雇用と働きがいのある仕事の促進)及びゴール9(強靭なインフラ構築、包括的で持続可能な工業化の促進とイノベーションの育成)にも資するものである。
さらに、2023年3月の岸田総理の訪印時に両首脳は、「日印特別戦略的グローバル・パートナーシップ」としての両国関係を更に発展させることで一致するなど、両国の関係強化は着実に進んでいる中、円借款を始めとするODAを通じて、経済・社会開発を進める世界最大の民主主義国であるインドの発展を支援することは、こうした二国間関係の更なる強化につながり、外交政策上の意義も高い。
(2)効率性
本計画は複数の機関が関わり多岐にわたるサブプロジェクトが実施される予定であるため、効率的・効果的な事業実施体制が重要である。ITE&CD(テランガナ州情報技術・電子・コミュニケーション局)内に設置されるPSU(事業統括本部)・PMU(事業管理ユニット)による事業統括・管理体制を敷くと共に、コンサルティング・サービスでも円滑な事業実行を支援する。
以上を通じて、本計画の効率的な実施を図る。
(3)有効性
本計画の実施により、事業完成2年後(2031年)には、2023年比で以下のような成果が期待される。
- ア
- 定量的効果
サブプロジェクトがすべて選定された段階(事業開始から1~2年後を想定)で目標値を設定して効果を測定する。 - イ
- 定性的効果
テランガナ州スタートアップ・エコシステムの拡大と強化、インド内外の企業のテランガナ州への進出促進、若年層・高学歴層・女性の就業促進と失業率の低下等
3 事前評価に用いた資料、有識者等の知見の活用
要請書、インド国別評価報告書(2017年度・第三者評価)、JICAガイドライン、その他JICAから提出された資料。
案件に関する情報は、交換公文締結後に公表される外務省の約束状況に関する資料及び案件概要、借款契約締結後公表されるJICAのプレスリリース及び事業事前評価表を参照。
なお、本案件に関する事後評価は、実施機関であるJICAが行う予定。