ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
令和6年2月16日
評価年月日:令和5年8月30日
評価責任者:国別開発協力第二課長 時田 裕士
1 案件概要
(1)供与国名
インド
(2)案件名
ムンバイ・アーメダバード間高速鉄道建設計画(第五期)
(3)目的・事業内容
マハラシュトラ州ムンバイとグジャラート州アーメダバードを結ぶ約500kmの区間において、日本の新幹線システムを利用して高速鉄道を建設することにより、高頻度な大量旅客輸送システムの構築を通じて、連結性の強化に寄与するもの。なお、今次借款は輪切り五期目として2025年7月までの資金需要に対応するもの。
- ア
- 主要事業内容
- (ア)土木・建設工事
- (イ)軌道工事
- (ウ)電気・機械工事
- (エ)車両基地工事
- (オ)車両・検測車両調達
- (カ)保守用車調達
- (キ)コンサルティング・サービス(施工監理、品質管理、安全管理、実施機関の施工監理能力向上のための技術移転、環境社会配慮等)
- イ
- 供与条件
供与限度額 金利 償還(うち据置)期間 調達条件 4,000.00億円 0.1% 50(15)年 タイド - (注)本件は、円借款対象にコンサルティング・サービスが含まれており、当該コンサルティング・サービス部分に係る金利、償還期間、据置期間及び調達条件は本体部分と同様。
(4)環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点
- ア
- 環境影響評価(EIA)
本計画は、「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン」(2010年4月制定)(以下、「JICAガイドライン」という。)に掲げる鉄道セクター、影響を及ぼしやすい特性及び影響を受けやすい地域に該当し、カテゴリAに分類される。本計画に係るEIA報告書は、実施機関であるインド高速鉄道公社により2015年7月に作成され、その後の事業計画の変更等を反映した更新版が2018年8月に作成された。インド国内の自然保護区関連のクリアランスについては、2019年4月に取得済み。 - イ
- 用地取得及び住民移転
本計画では、1,389ヘクタールの用地取得及び4,450世帯の住民移転を伴い、インド国内法及びJICAガイドラインに沿って作成された住民移転計画に基づき取得が進められる。 - ウ
- 外部要因リスク
新型コロナウイルス感染症拡大の影響が生じうる可能性があることから、その対策として、実施機関が案件形成時及び案件実施時に取り組むべき全36項目の対策リストに合意済みである。
2 資金協力案件の評価
(1)必要性
- ア
- 開発ニーズ
インドは2020年の新型コロナウイルス感染症拡大までの過去10年間において、年間4~8%前後のGDP 成長率を記録しており、著しい経済成長を続けているとともに、爆発的な人口増加と急激な都市化も進んでいる。総人口は2021年時点で約14億7百万人と推計されているほか、都市人口は2020年に約4億8千万人に達しているとみられている。かかる経済成長と人口増加及び都市化に伴い、国内の鉄道旅客輸送量は急増しており、効率的な旅客輸送システムの整備が課題となっている。
現在、国内第2の大都市であるマハラシュトラ州の州都ムンバイと、商工業都市として近年急速な発展を遂げているグジャラート州のアーメダバードは、インド全体の経済成長率を上回る勢いで成長しており、今後も安定的な成長を続けると予測されている。一方、現在のムンバイとアーメダバードの移動手段の大半は、自家用車及びバスが占める構造となっていることから、大量輸送性及び高頻度輸送性を持つ高速鉄道が大きな役割を担うことが期待されている。
本計画は、マハラシュトラ州ムンバイ・グジャラート州アーメダバード間において、日本の新幹線システムを利用して高速鉄道を建設することにより、高頻度な大量旅客輸送システムの構築を通じて、連結性の強化に寄与し、また、効率的な輸送方法の導入を通じて気候変動対策に貢献するものであり、同国の開発政策との高い整合性を有している。 - イ
- 我が国の基本政策との関係
インドにおいて、依然として多くの貧困層を抱え、電力及び運輸等の経済インフラが絶対的に不足していることなどの開発ニーズを踏まえ、2016年3月に策定された我が国の対インド国別援助方針においては、今後の対インドODAの重点目標として、連結性の強化、産業競争力の強化及び持続的で包摂的な成長への支援を掲げている。このうち鉄道分野は「連結性強化」に位置付けられており、本計画は同方針に合致するものである。
また、本計画は、SDGsのゴール8(雇用・経済成長)、ゴール9(強靱なインフラ整備)、ゴール11(持続可能な都市づくり)及びゴール13(気候変動対策)にも資するものである。
さらに、2023年3月の岸田総理大臣のインド訪問時には「日印特別戦略的グローバル・パートナーシップ」としての両国関係を更に発展させることで一致するなど、両国の関係強化は着実に進んでいる。また、アジアとアフリカという2つの大陸をつなぐインド洋に面し、インド洋シーレーンの中央に位置するインドは、インド太平洋における重要なプレーヤーであり、我が国が掲げる「自由で開かれたインド太平洋」のための日本の新たなプランの必要不可欠なパートナーである。円借款を始めとするODAを通じて、経済・社会開発を進める世界最大の民主主義国であるインドの取組を支援すること、特に日印の旗艦プロジェクトとして着実に進展させていくことを日印首脳間で度々確認している本件高速鉄道事業を推進することは、こうした日印二国間関係の更なる強化につながり、外交政策上の意義も高い。
(2)効率性
事業の遅延につながり、かつ契約当事者間で解決できない問題が生じた場合は、日印政府間協議を行うために設置されている合同委員会等を活用し、紛争裁定委員会や仲裁の前段階での課題解決を図る。
(3)有効性
本計画の実施により、開業2年後には、以下のような成果が期待される。
- ア
- 定量的効果
ムンバイからアーメダバード間約500kmの移動に在来線特急を利用しても5時間以上かかるところ、高速鉄道を利用することで約2時間に短縮できる。 - イ
- 定性的効果
本計画の実施により、高頻度な大量旅客輸送システムの実現による交通ネットワークの効率化、広範な対象地域の経済開発の促進に寄与する。
3 事前評価に用いた資料、有識者等の知見の活用
要請書、インド国別評価報告書(2017年度・第三者評価)、JICAガイドライン、その他JICAから提出された資料。
案件に関する情報は、交換公文締結後に公表される外務省の約束状況に関する資料及び案件概要を参照。
なお、本案件に関する事後評価は実施機関であるJICAが行う予定。