ODA(政府開発援助)

令和6年2月15日

評価年月日:令和5年11月7日
評価責任者:国別開発協力第二課長 時田 裕士

1 案件名

1-1 供与国名

 スリランカ民主社会主義共和国(以下、「スリランカ」という。)

1-2 案件名

 病院における再生可能エネルギーを活用した電力供給安定化計画

1-3 目的・事業内容

 本計画は、高度な医療サービスを提供するスリランカの中核病院3か所(スリジャヤワルダナプラ総合病院、ラトナプラ教育病院及びクルネガラ教育病院)において、太陽光発電設備を導入することにより、消費電力の低炭素化と光熱費負担の低減を通じた、電力供給の安定化及び高度な医療サービスの安定的提供を図り、もって同国における質の高い成長の促進に寄与するもの。
 供与限度額は、12.30億円。

1-4 環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点

 本計画は、気候変動対策上の緩和策に該当し、実施においても、国際協力機構環境社会配慮ガイドライン(2022年1月制定)におけるカテゴリCであり、環境への望ましくない影響は最小限であると判断される。

2 無償資金協力の必要性

2-1 必要性

  • (1)スリランカ(一人当たり国民総所得(GNI)3,610米ドル)は、OECD開発援助委員会(DAC)の援助受取国リスト上、低中所得国に分類されている。
  • (2)2022年4月の債務危機に陥ったスリランカでは、国際的な石油価格の高騰と深刻な外貨不足による火力発電の燃料輸入の停滞により、同年8月に電気料金が約75%値上げされ、9月には1日当たり2時間程度の計画停電が実施される等、全国で深刻な電力危機が生じた。電気料金は2023年2月にも約66%値上げされるなど高騰が断続し、7月に約14%の値下げが発表されたものの、2022年以前と比較すると依然として高止まりしている。
  • (3)電力の不足・不安定化は、同国の医療分野においても深刻な影響を及ぼしている。特に、高度医療の提供や多数の入院患者受入れ等で消費電力が大きい大型病院では、2022年の電気料金の値上げにより運営経費が逼迫し、空調停止や照明の間引きなど可能な限りの節電策に努めているものの、今後は医療行為自体に制約が及ぶリスクを抱えており、電力供給の安定化が課題となっている。
  • (4)スリランカ政府は上記状況も踏まえ、2022年11月の国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)で「気候繁栄計画」を発表し、現在承認手続き中の「長期電源開発計画(2023-2042)」においても、2030年までに再生可能エネルギーの発電量を総発電量の70%以上とする目標値を掲げる等、電源構成における再生可能エネルギーの割合を高め、化石燃料への依存度を低下させる方針である。一方、IMF理事会の支援承認が2023年3月末にずれ込んだことにより、同国の債務再編と経済回復は当初想定から遅れており、また、右支援以降に本格始動した国内の財政改革や緊縮政策の影響により、同国政府は電力セクターの改革のみならず、医療分野を始め脆弱層の生活に直結するセクターにおいても、十分な予算を手当することができない状況にある。
  • (5)かかる背景を踏まえ、本計画では、受け入れ患者数が多く、高度医療を提供する中核病院のうち、過去にJICAによる支援実績がある日本との関係の深い3病院(スリジャヤワルダナプラ総合病院、ラトナプラ教育病院及びクルネガラ教育病院)を対象に、太陽光発電設備を導入することにより、消費電力の低炭素化と光熱費負担の低減を図り、もって安定的な医療提供体制の強化に寄与する。これは、上記のスリランカ政府の方針に合致するものであり、SDGsゴール3(万人の健康と福祉)、ゴール7(安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへの万人のアクセス)及びゴール13(気候変動対策)にも貢献するものである。
  • (6)我が国は、対スリランカ国別開発協力方針において、(ア)「質の高い成長の促進」、(イ)「包摂性に配慮した開発支援」及び(ウ)「脆弱性の軽減」を重点分野としており、本事業は重点分野(ア)の開発課題「成長のための経済基盤整備」及び重点分野(ウ)の開発課題「脆弱性軽減のための社会基盤整備」における「保健・医療などの分野を中心とした関連施設の整備や能力強化」に合致する。
  • (7)本計画は、深刻な債務危機により有償資金協力での支援は難しいスリランカに対し(「債務状況」)、安定的な電力供給を行うことで医療サービスを維持・継続するものであり、同国の脆弱性の軽減に資する人道的意義を持つ(「人道上のニーズ」)。また、同国の優先分野である保健への支援を通じ、我が国との二国間関係の強化に寄与する。加えて、再生可能エネルギー利用拡大を通じて同国の医療機関の脱炭素化と電力の安定化及び経費の削減・効率化に資するものであり、広くは同国の気候変動対策やGX推進にも繫がる。これは、我が国が国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP)やG7等の国際社会において累次にわたり表明してきた、我が国の貢献策の1つである気候変動分野における途上国支援の一環であり、外交的意義も大きいことから、無償資金協力による実施が適当である。
  • (8)なお、スリランカは、インド洋における戦略的要衝に位置し、近年、自衛隊の寄航・寄港先となるなど、我が国にとっての安全保障上の重要性は増しており、自由で開かれたインド太平洋(FOIP)実現のための協力関係構築の観点からも、同国の経済社会の案定は重要である。

2-2 効率性

 本計画の対象となる3病院に関し、スリジャヤワルダナプラ総合病院は無償資金協力「スリジャヤワルダナプラ総合病院建設計画」(1981年、E/N署名)により建設され、無償資金協力「経済危機下の医療対応能力強化のための無償資金協力」(2022年、E/N署名)を通じて医療設備の整備を支援した。ラトナプラ教育病院も無償資金協力「ラトナプラ総合病院整備計画」(2000年、E/N署名)を通して病棟の増築を行った。クルネガラ教育病院は、有償資金協力「保健医療サービス改善事業」(2018年、E/N署名)で施設・機材整備の支援を実施中であり、本事業での電力供給により、上記計画で整備した施設・機材の利用促進などの相乗効果が見込まれており、高い効率性が確保されている。

2-3 有効性

 本計画の実施により、2023年の実績値を基準値として、事業完成3年後の2028年の目標値と比較すると、主に以下の成果が期待される。

  • (1)定量的効果
    • ア 3病院合計で年間1,269.4メガワットアワーの電力が太陽光発電システムにより発電される。
    • イ 温室効果ガス(GHG)の年間排出量が、3病院合計で820トン削減される。
    • ウ 3病院のセイロン電力庁に対する年間支払額が、合計約8.7百万円削減される。
  • (2)定性的効果
    • ア 3病院における再生可能エネルギーの導入促進。
    • イ 電力料金支払額の削減による財務負担の健全化促進。
    • ウ 安定的な医療提供体制の強化。

3 事前評価に用いた資料及び有識者等の知見の活用等

  • (1)スリランカ政府からの要請書
  • (2)スリランカ国別評価報告書(2013年度・第三者評価)
  • (3)JICAの協力準備調査報告書(JICAを通じて入手可能)
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