ODA(政府開発援助)

令和6年1月5日

評価年月日:令和5年12月8日
評価責任者:国別開発協力第三課長 井土 和志

1 案件概要

(1)供与国名

 イラク共和国(以下、「イラク」という。)

(2)案件名

 サマーワ上水道整備計画

(3)目的・事業内容

 イラク南部ムサンナ県サマーワ市において淡水化施設を含む上水道施設を建設することにより、給水量・水質・給水時間の向上及び水資源の有効利用を図り、もって同市の安定した飲料水供給及び経済的・社会的発展の促進に寄与するもの。

主要事業内容
  • 土木工事、資機材調達
    • パッケージ1:浄水施設(設計容量81,000立方メートル/日。淡水化施設(RO膜)含む)建設
    • パッケージ2:変電所から浄水施設への送電線の敷設(円借款対象外)
    • パッケージ3:一次送水管路及び濃縮排水管の布設
  • コンサルティング・サービス
供与条件
供与限度額 金利 償還(うち据置)期間 調達条件
452.98億円 TORF+100bp、一般条件
(変動金利・オプション1)
下限金利は0.1%
25(7)年 一般アンタイド
  • (注)コンサルティング・サービス部分の金利は0.2%を適用。

(4)環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点

環境影響評価(EIA)
 本計画は、「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン」(2022年1月改定)に掲げる影響を及ぼしやすいセクター・特性及び影響を受けやすい地域に該当せず、環境への望ましくない影響は重大でないと判断されるため、カテゴリBに分類される。本計画に係るEIA報告書は2019年11月にイラク環境省より承認済み。
汚染対策
 浄水処理に伴い発生する濃縮塩水については、東ユーフラテス灌漑排水路に放流されるが、灌漑排水路の水と放出される濃縮塩水のTDS(溶解性物質:Total Dissolved Solids)に大きな差はなく環境に大きな影響を与えないことを確認済み。また、浄水場から発生する汚泥はユーフラテス東部埋立処分場に搬出され、適切に処分される。
自然環境面
 事業対象地域は国立公園等の影響を受けやすい地域又はその周辺に該当せず、自然環境への望ましくない影響は最小限であると想定される。
社会環境面
 本事業での取水施設・浄水場・配水池等建設予定地は全て国有地であり、用地取得及び住民移転を伴わない。
その他・モニタリング
 工事中はコントラクターが大気質、水質、廃棄物、騒音振動につきモニタリングを実施する。供用中はムサンナ上水道局の計画・モニタリングエンジニアが水質につきモニタリングを行う。
外部要因リスク
 イラク政府は「イラクとレバントのイスラム国」(以下、「ISIL」という。)からの全土解放宣言を表明しているが、ISIL分子の休眠細胞等によるテロ等の脅威は引き続き存在している。他方、本計画の対象地はISILの侵攻を受けていない地域であり、実施において同国政府と事業実施業者、国際協力機構等が連携して安全対策を行うことで、治安上のリスクに対応する。

2 資金協力案件の評価

(1)必要性

開発ニーズ
  • (ア)イラクの上水道セクターは1980年代までに水道普及率は都市部で95%に達していたが、度重なる戦争や治安の悪化等により、施設の更新・維持管理が十分に行われず水質及び給水率の低下を招いた。2011年の国勢調査によれば、同国内の給水人口のうち、約25%の住民は給水時間が一日当たり2時間未満であり、上下水道分野を含む生活基盤の水準は著しく後退した。
  • (イ)イラク政府策定の「国家開発5か年計画(2018-2022)」によると、2016年に水道管を通じた全国の水道普及率は89.8%に達しているものの、ムサンナ県の水道普及率は国内全18県中2番目に低い78.8%であり、全国平均を下回っている。また、ムサンナ県都であるサマーワ市は、国内の県都で唯一大規模な浄水施設を有しておらず、約25キロメートル離れたルメイサ市からの給水に大きく依存しており、同市都市部に居住する約60%の住民の給水時間は一日当たり6時間以下である。さらに、サマーワ市周辺のユーフラテス川は、上流国によるダム建設等の影響による水位の低下やペルシャ湾からの海水遡上等により塩分濃度が極めて高く、TDSは1970年に600ミリグラム/リットルであったものが、2020年以降は2,000ミリグラム/リットル以上に上昇しており(協力準備調査)、飲料水として利用するためには淡水化が必要である(注:WHOのガイドラインでは、TDS1,000ミリグラム/リットル以下が飲料水に適した基準とされている)。
  • (ウ)2018年7月以降、水や電力等の公共サービスの改善・安定供給を求める抗議デモがサマーワ市を含むイラク南部に拡がるなど、同市における水の安定供給の実現が喫緊の課題となっている中、本計画は、サマーワ市で上水道施設を整備(淡水化施設の新設を含む)することで、同市の住民に対し安全な水の安定供給を図るものである。
  • (エ)2022年10月に発足したスーダーニ政権が掲げた施政方針においても、優先課題として公共サービス改善が挙げられており、社会・経済基盤の安定・強化及び公共サービスの充足に資する本計画はイラクの開発政策に合致する。
我が国の基本政策との関係
 我が国は、対イラク国別開発協力方針(2017年7月)において、イラクに対し、「経済成長のための産業の振興と多角化」、「経済基礎インフラの強化」及び「生活基盤の整備」を重点分野として協力していくこととしている。イラクは石油資源に富むことから、日本とは互恵的な関係にあり、同国の安定的な発展は日本にとって重要な意義がある。本計画は、質・量ともに安定した水供給を行うことにより対象地域住民の生活環境の改善に寄与するものであり、経済的・社会的発展の促進を通じて、イラクの安定的な発展に資する。また、SDGsゴール6「万人の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理の確保」にも貢献する。以上のことから、本計画の実施には外交上の意義が認められる。

(2)効率性

 本計画の一環で、建設施設の運営・維持管理支援、技術移転及びトレーニング等を実施することにより、案件の効率性の確保が見込まれる。

(3)有効性

 本計画の実施を通じ、事業完成2年後の2031年には、新設浄水場にて81,000立方メートル/日の上水を処理、処理後の上水の平均濁度は既存浄水場処理水の実績値(2022年)が5NTU(Nephelometric Turbidity Unit:比濁計濁度単位)以上から5未満に改善し、TDSは同実績値が1,500ミリグラム/リットル以上から1,000ミリグラム/リットル以下に改善することが可能となる。
 また、都市部における1日当たりの給水時間が、2022年時点では60%の地域で6時間以下となっているが、2031年には全域で12時間以上となり、同国の経済基礎インフラの強化に寄与することが期待される。

3 事前評価に用いた資料、有識者等の知見の活用

 要請書、環境社会配慮確認のための国際協力銀行ガイドライン、その他国際協力機構より提出された資料。
 案件に関する情報は、交換公文締結後公表される外務省の約束状況に関する資料及び案件概要、借款契約締結後公表される国際協力機構のプレスリリース別ウィンドウで開く及び事業事前評価表別ウィンドウで開くを参照。
 なお、本計画に関する事後評価は実施機関である国際協力機構が行う予定。

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