ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
令和5年12月22日
評価年月日:令和5年12月5日
評価責任者:国別開発協力第三課長 井土 和志
1 案件概要
(1)供与国名
トルコ共和国(以下、「トルコ」という。)
(2)案件名
中小零細企業のための震災後支援計画
(3)目的・事業内容
トルコ南東部を震源とする地震により被災した中小零細企業に対して、緊急支援策として流動性資金の供給を行うことにより、同地域の中小零細企業の事業再開及び雇用回復を支援する。
- ア
- 主要事業内容
地震で被害を受けた中小零細企業に対し、中小企業開発機構(以下、「KOSGEB」という。)を通じて無利子の流動性資金(運転資金)を供給(プロジェクトローン) - イ
- 供与条件
供与限度額 金利 償還(うち据置)期間 200億円 0.1% 40(10)年
(4)環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点
- ア
- 環境社会配慮
本計画は、「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン」(2022年1月制定)上、環境への望ましくない影響は最小限であると判断されるため、カテゴリCに該当する。 - イ
- 外部要因リスク
特になし。
2 資金協力案件の評価
(1)必要性
- ア
- 開発ニーズ
トルコにおいて、中小零細企業は、企業数の99%、雇用の74%、総売上高の65%、輸出総額の56%を占める同国経済を支える重要アクターである(2022年、同国政府統計)。このためトルコ政府は、「第11次国家開発計画2019-2023」において、同国経済を支える中小零細企業の更なる成長のため、中小零細企業の資金アクセス向上、成長阻害要因の解消、政府機関によるコンサルティング機会の提供等の施策を掲げ、特に高付加価値分野の製造業を強化する方針を示している。また、「中小企業開発機構戦略2019-2023」においても、中小零細企業の生産・管理技術の向上、KOSGEBの機能や役割の強化等に関する行動計画が示されている。
このような中、2023年2月6日、午前4時17分(日本時間午前10時17分)頃、トルコ南東部においてマグニチュード7.8の地震が発生し、国内で5万人以上が死亡、11万5,000人以上負傷した(トルコ政府発表)。今般の地震の被災地域(アダナ県、ハタイ県、カフラマンマラシュ県、ガジアンテップ県、アドゥヤマン県、シャンルウルファ県、ディヤバルク県、エラズー県、マラティヤ県、キリス県、オスマニエ県等)に所在する民間企業の約99.8%(約47万社)は中小零細企業であり、うち23.3%(約11万社)が今回の震災により物的損害を被ったことが確認されている(KOSGEB調べ)。また、被災地の中小零細企業は、雇用者の死亡や他地域への避難による同地域における労働人口の減少、工場等の建物及び機材の破損、サプライチェーンの断絶等により大きな打撃を受けている。さらに、トルコ産業技術省は、被災中小零細企業の資金ニーズを約90億ドルと試算しており、KOSGEBは既に仮設事務所の提供や無利子ローンの提供等約512百万ドル規模の支援を行っているものの、被災中小零細企業の復旧・復興には更に約85億ドルが必要とされている。 - イ
- 我が国の基本政策との関係
我が国は、対トルコ国別開発協力方針(2018年9月策定)において、重点分野「経済を支える強靱な社会基盤づくりへの支援」の中で、「トルコが依然として直面する課題である都市環境の改善や科学技術分野の高度化、産業人材育成、地域間格差の是正、防災・災害対策のための支援を行う」としており、本計画は当該方針に合致するとともに、本件の融資総額の10%を女性が代表を務める中小零細企業への融資に充てることとしており、SDGsゴール5で推進されている「ジェンダー平等の実現」にも貢献すると考えられることから、計画の実施を支援する必要性は高い。また、同国は中東、欧州、アジア及びアフリカの結節点に位置し、欧州市場を始めとする周辺経済圏に向けた生産・輸出拠点として本邦企業の進出数は275社(2022年10月時点)と中東地域では比較的多く、有望市場としての潜在性を有している。そして、2024年には外交関係樹立100周年を迎え、政治、経済、文化、教育、防災などさまざまな分野での協力関係の進展が見込まれる。
本計画は、世界銀行との協調融資により、KOSGEBを通じてトルコ南東部で発生した地震により被害を受けた中小零細企業に対して流動性資金の供給等を行うことにより事業再開・雇用回復を図るものであり、中小零細企業の経済的重要度が高い同国において、震災からの復旧・復興を支えることが期待される。
以上のことからから、中東における安定した友好国である同国との間で、本計画の実施を通じて二国間関係の強化を図ることは、国際社会や中東地域における我が国の活動にも大きく寄与するものと期待され、外交上の意義も大きい。
(2)効率性
トルコでは政府の電子化が進んでいるため、企業による申請手続き及び本計画の実施機関であるKOSGEBによる資格要件確認・給付手続きは、既存のデータベース等を活用して迅速に行う予定であり、案件の効率的な実施が見込まれる。
(3)有効性
本計画の実施により、案件完了2年後(2027年度)には、震災前1年間の平均値と比較して以下のような成果が期待される。
- ア
- 定量的効果
- (ア)融資を受けた中小零細企業の約6割につき、雇用維持もしくは雇用拡大が見込まれる。
- (イ)融資を受けた中小零細企業の約7割につき、売上高が同水準もしくは増加することが見込まれる。
- イ
- 定性的効果
被災地における中小零細企業の金融アクセスの改善及び民間セクターの復興。