ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
令和7年3月4日
評価年月日:令和6年10月25日
評価責任者:国別開発協力第三課長 東 邦彦
1 案件名
1-1 供与国名
ヨルダン・ハシェミット王国(以下、「ヨルダン」という。)
1-2 案件名
マアン県における給水監視制御システム導入計画
1-3 目的・事業内容
本事業は、マアン県のマアン市給水区において、配水状況の監視制御(Supervisory Control And Data Acquisition。以下、「SCADA」という。)システムの導入及び配水ポンプ更新を行うことによって、適切な水道施設の運転管理体制の構築を図り、もって対象地域の給水サービスの改善に寄与するもの。
供与限度額は13.34億円。
1-4 環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点
本事業は、「JICA環境社会配慮ガイドライン」(2022年1月制定)におけるカテゴリCであり、環境への望ましくない影響は最小限であると判断される。
2 無償資金協力の必要性
2-1 必要性
- ヨルダン(一人当たり国民総所得(GNI)4,350ドル)は、OECD開発援助委員会(DAC)の援助受取国リスト上、高中所得国に分類される。
- ヨルダンは、水資源が世界で最も限られている国の一つである。加えて、人口増加や2011年のシリア危機発生以降のシリア人難民の流入により水需要が増加し、深刻な水需給の不均衡が生じている。同国政府は、安全で十分な量の飲料水供給等を目標とした「国家水資源戦略2016-2025」を策定し、ヨルダン水道庁が、同戦略に基づき水資源の開発、管理等を実施している。
- 南部のマアン県の水道普及率は78%である一方、2021年の無収水率は67.1%となっており、12県のうち最も無収水率が高い。その一因として、マアン県の上水道は給水状況を適時適切に把握する運転管理体制が整っておらず、配水管網や配水ポンプなどの老朽化に加え、給水状況をモニタリングできていないことから、違法接続(盗水)が発生しやすい状況となっている。そのためマアン県水道支所の収支は赤字であり、給水サービスの向上のために必要な投資が困難な状況にある。
- 主要水道施設に流量計・水圧計・水位計等を設置し、中央監視室で常時モニタリングすることで最適な給水管理を可能とするSCADAシステムの設置は、マアン県の無収水率の改善及び給水サービスの向上や、リアルタイムでの正確な給水状況のモニタリングと適切な水道施設の運転管理体制の構築のためには急務となっている。さらに、既存配水ポンプの低い運転効率や老朽化による故障が効率的な給水を妨げていることが報告されており、SCADAシステムの有効活用に向けてはこれらの配水ポンプを更新する必要がある。なお、マアン県では本案件と併せてアカバ水道公社の技術・経験を活用する予定(アカバ水道公社はマアン県に隣接するアカバ県で24時間給水等の優れたサービスを公的資金の支援なしに提供している)。
- 我が国は、対ヨルダン国別開発協力方針において、「持続可能な経済成長に向けた基盤整備」を重点分野に掲げ、「水資源が慢性的に不足している状況を踏まえ、安定的かつ効率的な水資源の開発、配分・利用に関する支援を行う」こととしており、本計画は同方針に合致するものである。また、SDGsゴール6「万人の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理の確保」にも貢献するものであり、本計画を実施する意義は高い。
- ヨルダンは、我が国と伝統的に友好関係にあり、2023年4月に行われた日・ヨルダン首脳会談の機会に、岸田総理大臣からアブドッラー国王に対し、「日本として経済の基盤となる電力・水分野等に対する開発政策借款、無償資金協力等を通じて、引き続きヨルダンを支えていく」旨述べている他、2024年2月の日・ヨルダン首脳会談では、岸田総理大臣からハサーウネ首相に対し、「日本としてヨルダンの取組を引き続き支援していく」旨述べている。本計画は二国間関係強化にも資するものであり、外交的意義は高い。
- マアン県においては、水量の不足から給水時間は週1~4回、それぞれ数時間程度であり、安定した水へのアクセスが確保されていない。安定した水へのアクセスは、人々の生活の根幹に関わるものであり、その欠如は人間の安全保障への脅威となりうる。さらに、ヨルダンは、国土の大半が砂漠であり、利用可能な水資源が極端に少なく、近年の気候変動の影響を他国と比べて受けやすい。本事業は、持続可能な水資源利用の実現に資するものであり、同国の抱える環境的脆弱性の解消につながる。このようなことから、無償資金協力として本事業を実施する意義は大きい。
2-2 効率性
ヨルダン政府との協議を通じ、先方政府から更新の要望があった機材等について調査を行い、必要かつ適切な規模とした。また、事業費について、対象サイトをマアン市給水区に絞る等のコスト縮減を図った。
2-3 有効性
本計画の実施により、2023年の実績値を基準値として、事業完成3年後の2029年の目標値を比べて、以下のような成果が期待される。
- 定量的効果
- 対象地域における配水量のリアルタイムでの遠隔監視・遠隔制御の実施状況が、0(時間/日)から24(時間/日)になる。
- 対象地域における漏水率が、34.5%から28.8%に低減する。
- 配水ポンプの年間消費電力が、0.462(キロワットアワー/年/立方メートル)から、0.417(キロワットアワー/年/立方メートル)に削減される。
- 定性的効果
- SCADAによる効率的な水運用により、無収水率が削減され、住民の生活環境が改善される。
- SCADAによるリアルタイムでの正確な配水モニタリングを通じて、水道施設の運転データ収集及び活用によるデータに基づいた適切な運転管理体制が構築される。
- ポンプ更新に伴う運転維持管理費の低減が見込め、かつ給水量低下の防止により、将来にわたり給水区域全体の需要に応じた給水が確保できる。
3 事前評価に用いた資料及び有識者等の知見の活用等
- ヨルダン政府からの要請書
- JICA協力準備調査報告書(JICAを通じて入手可能)