ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
令和5年11月28日
評価年月日:令和5年9月14日
評価責任者:国別開発協力第二課長 時田 裕士
1-1 供与国名
スリランカ民主社会主義共和国(以下、「スリランカ」という。)
1-2 案件名
気象ドップラーレーダーシステム整備計画
1-3 目的・事業内容
本計画は、気象観測レーダーの設置により、スリランカの短時間予報に係る能力強化を通じ、気象災害による被害の緩和を図り、もって脆弱性軽減のための社会基盤整備に寄与する。供与限度額25.03億円として平成29年4月17日に事前評価を実施した本計画に対し、資機材費及び施工費等1.6億円を追加贈与するもの(増額後の供与限度額:26.63億円)。
1-4 環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点
- (1)気象観測レーダーの運用に必要な周波数帯が確保されること、また、衛星通信回線のライセンスが取得されること。
- (2)本計画は、国際協力機構環境社会配慮ガイドライン(2022 年1月制定)におけるカテゴリCであり、環境への望ましくない影響は最小限であると判断される。
2 無償資金協力の必要性
2-1 必要性
- (1)スリランカでは、自然災害が多発しており、2010年4月にコロンボ首都圏、南部州等で発生した洪水では、死者・行方不明者を含め120万人以上の被害が発生した。こうした自然災害に対し、同国政府は、災害の事後対応から事前対策へシフトするため、国家防災体制強化の方針を打ち出し、2005年に災害対策法を制定、防災ロードマップの策定や災害の事前対策に向けた各種取組を推進している。
- (2)しかしながら現状は、財政上の制約もあり、災害発生後の事後対応を中心とせざるを得ず、予防・対策による被害軽減の取組が遅れている。また、関連する機関は、総合的に防災に取り組むための調整力、技術力が不足し、防災意識も発展途上である。スリランカの自然災害の9割以上は気象に起因しているため、災害による被害を軽減するには、気象観測・予報の精度を上げ、洪水や土砂災害の危険性が高まる前に気象状況を把握し、予警報発出による避難誘導等を行うことが必要となる。このような課題に対処するため、同国政府は我が国に対し、無償資金協力による気象観測レーダーシステムの整備等の支援を要請した。
- (3)上記スリランカ政府からの要請に基づき、無償資金協力「気象ドップラーレーダーシステム整備計画」(供与限度額25.03億円、平成29年6月30日E/N署名・交換)を決定し、支援を実施していたが、2019年4月のコロンボ等での同時多発爆破テロの影響や新型コロナウイルス感染症蔓延の影響により入札日程の遅延が生じる中、2022年以降、ロシアによるウクライナ侵略を受けた世界情勢の悪化、同国の経済危機、急激な円安等により、資機材費及び施工費等が追加的に必要となった。
- (4)本計画は、気象観測レーダーの設置により、気象状況の把握、予警報発出及び避難誘導を可能とし、災害による被害の軽減に資するものであり、スリランカの開発課題及び開発政策、並びに「脆弱性の軽減」を重点分野の1つに定めた我が国の対スリランカ国別開発協力方針(2018年1月)に合致する。また、自然災害に対して脆弱な地域への居住を余儀なくされることが多い貧困層や社会的に不利な立場に置かれた人々、都市部の人口密集地などでの被害軽減に貢献するものであり、SDGsゴール1「あらゆる形態の貧困の撲滅」及びゴール11「包摂的、安全、強靭で、持続可能な都市及び人間居住の構築」にも貢献すると考えられることから実施意義は大きい。
- (5)なお、2015年10月に日・スリランカ首脳間で策定された「日・スリランカ包括的パートナーシップに関する共同宣言」において、「第3回国連防災世界会議の成果を踏まえ、長期的視点に立った防災投資の重要性に鑑み、安倍総理大臣は、日本が気象観測レーダーの供与を念頭に置いた調査を含む、防災分野における協力を引き続き実施していく。」旨表明しており、本計画は両首脳間合意のフォローアップを通じ、二国間関係の強化に貢献することからも、早期の完了を実現する必要がある。
2-2 効率性
- (1)JICAによる技術協力「気象観測・予測・伝達能力向上プロジェクト」(2014年9月~2017年8月)、「気象レーダー活用による気象観測及び予警報能力強化プロジェクト」(2022年10月~)を実施しており、これは、本計画で供与するレーダーの運営に当たる気象局の人員の地上観測や予報に係る能力向上を図るものであり、本計画の効率的な実施に寄与している。
- (2)追加贈与額については、2022年以降のロシアによるウクライナ侵略を受けた世界情勢の悪化、スリランカの経済危機、急激な円安等により必要となった資機材費及び施工費等の高騰への対応であり、気象レーダーシステムを含む気象レーダー塔の建設を当初計画していた2棟から1棟にスコープカットする等した上で更に不足する費用に関する必要最低限の増加である。
2-3 有効性
- (1)定量的効果
- 本件の実施により、以下のような成果が期待される(2016年の実績値を基準値として、事業完成3年後の2029年の目標値と比較)。
- ア 危険な気象現象の監視能力の向上:雨量データの空間分解能が41キロメートルメッシュから1キロメートルメッシュに向上する。
- イ 大雨監視能力の向上:大雨をもたらす雨雲の動向について監視できなかったものが、気象レーダー観測データの活用により、可能となる。
- ウ 主要国際空港周辺の気象現象監視能力の向上:コロンボ国際空港へ積乱雲等の気象じょう乱の観測データの提供ができなかったものが可能となる。
- エ 気象情報普及能力の向上:災害対策関係機関やマスメディアへの大雨情報、注意報及び警報の発表に関して、従来は既設観測所が位置する州・県のみの情報であったものが、全島における情報となる。
- (2)定性的効果
- ア 災害対策及び避難活動支援等の適時開始
- イ 大雨等による気象災害や洪水災害による被害の軽減
3 事前評価に用いた資料及び有識者等の知見の活用等
- (1)スリランカ政府からの要請書
- (2)スリランカ国別評価報告書(2013年度・第三者評価)
- (3)JICAの協力準備調査報告書(JICAを通じて入手可能)