ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
評価年月日:平成28年4月11日
評価責任者:国別開発協力第二課長 田中 秀治
1 案件概要
(1)供与国名
パナマ共和国
(2)案件名
パナマ首都圏都市交通3号線整備計画
(3)目的・事業内容
パナマ首都圏西部地域と中心部をつなぐ都市交通3号線を,十分な安全性かつ信頼性のある都市交通システムとしての商業運行実績を有する質の高いモノレールの車輌及びシステムの導入を通じて整備することにより,都市交通機能の改善及び二酸化炭素排出削減を図り,もって同国の持続可能な経済成長に寄与する。
- ア 主要事業内容
- (ア)土木工事(高架・駅舎等整備)
- (イ)モノレール車輌・システムの調達
- (ウ)その他資機材調達
- イ 供与条件
供与限度額 金利 償還(うち据置)期間 調達条件 2,810.71億円 円LIBOR-105bp
(変動金利。
下限は年0.10%。)20(6)年 一般アンタイド (注)コンサルタント部分は金利年0.01%を適用。
(4)環境社会配慮,外部要因リスクなど留意すべき点
- ア EIA(環境影響評価)
- (ア)本計画は,「環境社会配慮ガイドライン」(2010年4月公布)に掲げる道路,鉄道及び橋梁セクターのうち大規模なものに該当せず,環境への望ましくない影響は重大でないと判断され,かつ同ガイドランに掲げる影響を及ぼしやすい特性及び影響を受けやすい地域に該当しないため,カテゴリBに該当する。本計画による環境影響評価(EIA)報告書は,2016年1月にパナマ環境局により承認済み。
- (イ)汚染対策:大気質について,工事中は排ガス,粉塵の増加による影響が見込まれるが,資材運搬トラックに防塵布をかけアクセス道路に散水することにより,影響は限定的となる。騒音・振動について,工事中は夜間工事の制限,住民への事前周知,防音壁の設置等の対策が取られる。供用後は,防音壁の設置及び車両の定期メンテナンス等を実施することで国内基準を満たす見込みである。
- (ウ)自然環境面:本計画は既存道路沿いに高架を建設するものであり,自然保護区等を通過しない。敷設権(ROW)取得に伴い,約43haの植生喪失が見込まれ,また本計画対象地域において国際自然保護連合(IUCN)上の絶滅危惧第二種(VU種)等が確認されているが,原生林やこれら生物の重要な生息地は含まれない。工事期間中,野生生物の保護策及び植物の移植,喪失する森林面積に対する植林等の緩和策が実施される。
- イ 用地取得及び住民移転
本計画では,約13haの用地取得及び5世帯17人の住民移転,商店35軒の経済的移転が想定されるほか,都市交通3号線の路線付近に位置する商店へのアクセスが工事により遮断されることが想定されるため,JICAガイドライン及び世界銀行業務政策(OP)4.12に沿って作成される簡易住民移転計画に基づき,補償及び住民移転手続が実施される。本計画実施に係る特段の反対意見は出ていない。
- ウ 外部要因リスク
特になし。
2 資金協力案件の評価
(1)必要性
- ア 開発ニーズ
- (ア)パナマでは,近年の急激な経済成長に伴い,首都圏を中心とした経済基盤整備や,持続的成長を支えるための環境保全が急務となっている。総人口の約半分が集中するパナマ首都圏では,自動車保有比率が高まり,自家用車での通勤が増加している一方で,都市交通システムの整備が遅れており,ニーズに十分対応できていない状況にある。特に,パナマ首都圏西部の新興開発地域と首都圏中心部をつなぐ道路では,朝夕の交通渋滞が深刻化し,都市機能の麻痺を招いていることから,効率的な大量輸送公共交通システムの導入が急務となっている。
- (イ)パナマ政府は,国家開発計画である「パナマ戦略計画2015-2019」において,重点分野の一つに社会開発(生活の質向上)を掲げ,都市交通整備プログラムとして,メトロ公社による大量輸送交通システム整備を進めている。2014年4月には首都圏北側に向かう都市交通1号線(MRT方式)が開通し,現在,首都圏東側に向かう都市交通2号線(MRT方式)の整備が進んでいる。パナマ政府は,首都圏西側に向かう都市交通3号線についてはモノレール方式により整備することを決定している。
- (ウ)本計画は,首都圏中心部と西側の主要都市であるチョレーラをつなぐ都市交通3号線のうち,首都圏中心部に位置するアルブルックと,車両基地が建設されるシウダ・デル・フトゥーロとをつなぐ区間(約26km)を整備するものであり,ニーズの高さと国民の期待を背景に,2014年7月に発足したバレーラ政権においても,国家の最優先プロジェクトの一つに位置付けられている。
- (エ)本計画を実施することは,都市機能の改善及び二酸化炭素排出削減を通じてパナマの持続可能な経済成長に寄与するため,本計画はパナマの開発政策とも高い整合性を有しており,実施の意義は高い。
- イ 我が国の基本政策との関係
- (ア)平成27年度開発協力重点方針において,対中米支援の重点課題として「インフラ整備」及び「気候変動対策」を含めている。
- (イ)平成26年4月策定の対パナマ国別援助方針においては,「環境に配慮した社会経済開発支援」を援助の基本方針(大目標)とし,「持続可能な経済成長」及び「格差是正」を重点分野(中目標)として設定している。本計画は,重点分野である「持続可能な経済成長」に合致する案件である。
(2)効率性
過去の他国における類似案件の事後評価結果等では,事業開始から完成後までに交通ネットワーク化や沿線の住宅地開発がどのように進められるか等について十分に検討・確認した上で乗客輸送量予測を提示し,事業計画を定める必要があるとの教訓が得られている。本計画においては,同教訓を活かし,既存の都市交通ネットワーク,新都市交通計画及び沿線開発計画等を基に需要予測を行い,既存路線(都市交通1号線)との接続も念頭に,都市交通3号線の事業計画を策定した。また,有償勘定技術支援によりコンサルタントによる案件監理を実施し,その中で,沿線・住宅地との支線バスによる連携についても検討予定。
さらに,本計画においては,都市交通3号線がパナマ運河上を通過することから,運河第4架橋の整備を行う公共事業省と,都市交通3号線の整備を行うメトロ公社が,技術的な調整を十分に行いつつ事業を進める必要があることを踏まえ,上記有償勘定技術支援により,両事業間の調整を支援し,円滑な事業実施を担保する予定。
(3)有効性
本計画の実施により,都市機能の改善及び二酸化炭素排出削減等の効果が見込まれ,もって持続可能な経済成長に寄与することが期待される。運用・効果指標(いずれも事業完成2年後(2023年)見込み)として,旅客輸送量(172千人/日),車輌走行距離(9,719km/日),アルブルック~シウダ・デル・フトゥーロ間の移動に係る所要時間(40分(2015年実績値:104分から64分の短縮)),CO2排出削減量(34,003トン/年)等を設定している。
3 事前評価に用いた資料,有識者等の知見の活用
要請書,JICA環境社会配慮ガイドライン,その他JICAから提出された資料。
案件に関する情報は,交換公文締結後公表される外務省の約束状況に関する資料及び案件概要,借款契約締結後公表されるJICAのプレスリリース及び事業事前評価表
を参照。
なお,本案件に関する事後評価は実施機関であるJICAが行う予定。