ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
平成28年4月21日
評価年月日:平成28年3月8日
評価責任者:国別開発協力第三課長 今福 孝男
1 案件名
1-1 供与国名
シリア・アラブ共和国
1-2 案件名
「危機の影響を受けたシリアのコミュニティにおける緊急の人道的必要性に対応するための電力安定供給計画」(UNDP連携)
1-3 目的・事業内容
本計画はバニアス市のバニアス火力発電所及びアルザラ地区のザラ火力発電所において,老朽化した同火力発電所の調査を行い,必要な部品の供与及び修理を実施することにより,安定的な電力の継続提供を図るもの。供与額13.00億円。
1-4 環境社会配慮,外部要因リスクなど留意すべき点
シリアで現在も紛争状況下にあり,本事業展開中に治安の更なる悪化等が起こる可能性は否めず,発電所修理パーツの輸送中に起こる事故等の外部要因リスクは完全には排除できない。しかしながら,防弾車両等の必要措置は予定されており,リスクを回避する配慮がなされている。
2 無償資金協力の必要性
2-1 必要性
- (1)シリアでは,2011年5月以降,シリア国内の電力を含むインフラが多大な損害を受けており、電力不足によって教育施設、医療施設、上下水道等の運用が困難となっている。これにより,市民生活は劣悪な状況に陥っており,人道上の問題が生じているほか,国内避難民の帰還も困難となっている。
- (2)2013 年12 月に発表された国連シリア人道支援対応計画(SHARP)では,シリア国内で,医療措置を必要とする患者数は増加し続けているにもかかわらず,電力不足等を起因として多くの病院が閉鎖や機能の縮小を行わねばならない状況になっていると指摘されている。
- (3)同国での紛争状況は長期にわたっており,人道支援の必要性については国際社会にも広く認識されており,他ドナーも様々な支援を行っている状況であることから,同国への人道支援は国際社会においても重要な意義を持つ。
- (4)本事業は,シリアの国内避難民を含む市民に対する緊急人道支援として位置付けられ,人間の安全保障の確保の観点から実施の必要性は高い。また,結果として地域の平和と安定にも資するものであり,我が国の援助方針に合致する。
2-2 効率性
- (1)我が国は2011年5月に対シリア支援について,緊急・人道的性格の援助を除き新規の経済協力案件の実施は見合わせる旨外務大臣談話を発出しており,大使館関係者およびJICA関係者は同国から退避している。その中で,UNDPはシリア危機発生以降も常に同国でのプレゼンスを維持し続け,主にゴミ回収や破壊されたインフラの改修作業を行っている。
- (2)UNDPは,我が国の支援で建設した別の発電所の改修を平成26年度補正予算で実施していることから,本事業実施に係るUNDPとの連携は継続性もあり,その実施効果が確保できる。
2-3 有効性
本件の実施により,以下のような成果が期待される。
- (1)定量的効果
- ア 2カ所の火力発電所に対してスペアパーツを供給し,修理を行う。
- イ パーツの老朽化等により,バニアス発電所の最大発電量は設計当初340MWであったが,2015年には275MW(従来出力の80%)まで,ザラ発電所の最大発電量は設計当初に654MWであったが,2015年には592MW(従来出力の90%)まで低下している。今回の修理で発電能力が設計当初の水準まで回復する。
- ウ 両発電所の発電量はシリアの電力の30%に相当し,本事業の実施により,約57万人が安定的な電力を使用可能になる。
- (2)定性的効果
- ア 現在両発電所では出力が低下するほど部品が老朽化しており,発電が停止する可能性が高まっている。本計画による修理によって電力の安定供給が可能になる。
- イ 国内避難民を含む市民の生活に必要な最低限の電力が使用可能になることにより,電力不足が一因となって活動停止を余儀なくされていた教育機関や医療機関が再開され,これにより,市民生活の維持のみならず,産業や社会活動の維持に繋がる。
3 事前評価に用いた資料及び有識者等の知見の活用等
- (1)シリア政府からの要請書
- (2)UNDPからのプロジェクト・プロポーザル
- (3)国連シリア人道支援対応計画(SHARP)