ODA(政府開発援助)

令和5年2月16日

評価年月日:令和4年10月24日
評価責任者:国別開発協力第二課長 時田 裕士

1 案件名

1-1 供与国名

 パキスタン・イスラム共和国(以下、「パキスタン」という。)

1-2 案件名

 シンド州農村部における女子前期中等学校拡充計画

1-3 目的・事業内容

 本計画は、シンド州の農村部において、前期中等学校(以下、「中学校」という。)教室等を整備することにより、女子を中心とした児童の前期中等教育へのアクセス向上を通じたパキスタンの就学率の向上とジェンダー格差是正を図り、もって同国の人間の安全保障の確保及び社会基盤の改善に寄与するもの。
 供与限度額は16.86億円

1-4 環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点

  • (1)本計画は、国際協力機構(JICA)環境社会配慮ガイドライン(2010年4月制定)におけるカテゴリCであり、環境への望ましくない影響は最小限であると判断される。
  • (2)パキスタンの治安・新型コロナウイルス感染症流行状況が大幅に悪化しないよう注視する必要がある。

2 無償資金協力の必要性

2-1 必要性

  • (1)パキスタン(一人当たりの国民総所得(GNI)1,280ドル(2020年、世界銀行)は、OECD開発援助委員会(DAC)の援助受取国リストにおいて、低・中所得国に分類されている。
  • (2)同国は人口約2億2千万人を擁する南西アジアの大国であり、人口は毎年約2%で成長している(世界銀行、2020)。若年層人口の厚さから、今後人口ボーナスを享受し大きな経済成長を遂げる可能性を秘めているが、学齢期(5~16歳)人口約5,153万人に対し同年代の不就学児童数は約2,280万人に達し、不就学児童数としては世界で2番目に多いとされる。特にシンド州は同国全4州のうち2番目に多い人口約4,700万人を抱え、同国最大の商業・工業都市であるカラチを擁する、同国の経済を牽引する重要な州であるが、同州の中学校の純就学率は34%と低く、男子37%、女子30%とジェンダー格差も大きい。かかる状況を踏まえ、通学可能な圏内に中学校を整備し、物理的なアクセスを改善することが、中学校就学率、特に女子の就学率向上のために喫緊の課題となっている。
  • (3)こうした状況に対し、同国政府は、国家開発政策「ビジョン2025」の重点分野「人的資本と社会資本の開発」にて、2025年までの初等純就学率100%、成人識字率90%への改善を掲げるとともに、国家教育政策枠組み(2018年)でも不就学児童対策を最重要課題と位置付けている。また、シンド州政府は「学校教育セクター計画及びロードマップ(2019~2024年)」にて、「公正かつ十分な学校施設の供与」を優先プログラムとし、特に女子向けの前期中等教育以降の教育施設の拡充等に取り組み、2019年から5年間で中学校の教室数を既存の約18,000教室から35,021教室へ増やす目標を掲げている。
  • (4)本計画は、シンド州の農村部において、中学校の教室等を整備することにより、女子を中心とした児童の前期中等教育へのアクセス向上を通じた同国の就学率の向上とジェンダー格差是正を図るものであり、連邦政府及びシンド州政府の開発目標並びに我が国の対パキスタン国別開発協力方針の重点分野「人間の安全保障の確保と社会基盤の改善」に合致し、またSDGsゴール4(すべての人々に質の高い教育を提供する)とゴール5(ジェンダー平等を実現する)にも貢献するものである。なお、2022年6月以降、同国で大洪水が発生し、シンド州の多数の学校が被災したが、本計画は教育面から同国の復興に貢献することが期待される案件となる。
  • (5)さらに、同国は、アジアと中東の接点に位置するという地政学的重要性を有するとともに、テロ撲滅に向け重要な役割を担っている国であることから、同国の安定的な発展は、アフガニスタンを始めとする周辺地域、ひいては国際社会全体の平和と安定に資する観点から我が国にとっても極めて重要である。また、2022年は日・パキスタン外交関係樹立70周年であり、このタイミングで本計画を実施することは、同国における親日感情を一層高め、二国間関係強化に資することが期待される。
  • (6)以上の観点から、本計画の実施は、二国間関係強化及び開発協力としての必要性の観点から外交的意義が高い。

2-2 効率性

  • (1)技術協力プロジェクト「学校活動と住民参加を通じたジェンダーに配慮した就学継続プロジェクト」(2022年2月~2026年2月)では小学校の学校環境の改善、コミュニティや家族を対象とした啓発活動を通じたソフト面からの就学継続に取り組んでおり、同事業から得られたソフト面に関する改善策を本計画のソフトコンポーネントに反映することで、ハード・ソフトの両面からの就学継続に繋がることが期待される。
  • (2)また、技術協力「オルタナティブ教育推進プロジェクトフェーズ2」(2021年2月~2025年1月)とも連携を行うことで、ノンフォーマル教育を通じた公教育への移行や中学校への就学促進支援等の相乗効果が期待される。

2-3 有効性

 本計画の実施により、2021年の実績値を基準値として、事業完成から3年後の2029年の目標値と比較すると、以下のような成果が期待される。

  • (1)定量的効果
    • ア 対象となる20校における女子生徒向けの教室数が0から60に増加する。
    • イ 対象となる20校の中学校女子生徒数(人/年)が、175人から1,707人に増加する。
  • (2)定性的効果
     中学校の施設として必須である外周塀や清潔なトイレが整備されることにより、農村地域における女子の就学が促進される。また、中学校を整備することにより、長距離通学のため就学が困難であった対象児童も含め就学機会が改善する。

3 事前評価に用いた資料及び有識者等の知見の活用等

  • (1)パキスタン政府からの要請書
  • (2)パキスタン国別評価報告書(2014年度・第三者評価)
  • (3)JICA協力準備調査報告書(JICAを通じて入手可能)
ODA(政府開発援助)
ODAとは?
広報・イベント
国別・地域別の取組
SDGs・分野別の取組
ODAの政策を知りたい
ODA関連資料
皆様の御意見
政策評価法に基づく事前・事後評価へ戻る