ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
令和5年1月11日
評価年月日:令和4年11月2日
評価責任者:国別開発協力第三課長 西野 修一
1 案件概要
(1)供与国名
エジプト・アラブ共和国(以下、「エジプト」という。)
(2)案件名
カイロ地下鉄四号線第一期整備計画(II)
(3)目的・事業内容
大カイロ都市圏南西部(6th of October City(エル・アシュガール駅)とカイロ都心部(エル・フスタット)間)に地下鉄道を建設することにより、増加する交通需要への対応と深刻化する交通渋滞の緩和を図り、もって同国経済の発展に寄与する。
- ア
- 主要事業内容
- 土木工事(地下鉄建設)、信号システム調達、車両調達等
- コンサルティング・サービス
- イ
- 供与条件
供与限度額 金利 償還(うち据置)期間 調達条件 410.00億円 年0.1% 40(10)年 二国間タイド(土木工事)
タイド(信号システム調達等、車両調達)- (注)コンサルティング・サービス部分の金利は0.01%を適用。
(4)環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点
- ア
- 環境影響評価(EIA)
本計画は「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン(2022年1月制定)」(以下、「JICAガイドライン」という。)に掲げる鉄道セクターに該当するため、カテゴリAに該当する。EIA報告書は2010年7月に、補足EIAは2010年11月にエジプト環境庁(EEAA)の承認を取得済み。その後、事業スコープ変更に伴う一部延伸区間を対象としたScoped EIAが作成され、2014年10月にEEAAにより承認済み。 - イ
- 用地取得及び住民移転
本計画は、29,020平方メートルの用地取得、36世帯209人の移転を伴い、エジプト国内法及びJICAガイドラインに沿って手続が進められている。 - ウ
- 外部要因リスク
新型コロナウイルスの感染拡大に伴う追加費用は現時点で生じていないが、感染が拡大した場合には防疫資機材費や隔離措置中の待機費用等が生じる可能性がある。なお、本計画の調達は既に契約済み又は入札済みであり、当該事象が起きた場合には別途実施機関がコントラクターと協議することを確認済み。
2 資金協力案件の評価
(1)必要性
- ア
- 開発ニーズ
エジプトの大カイロ都市圏は約1,929万人の人口規模を有するが(2017年)、人口増加、自動車台数の増加に伴う交通量増によって交通渋滞が慢性化しており、今後も都市化の進展に伴い一層の交通渋滞の深刻化が懸念されている。そうした中、同国政府は、都市圏郊外に工業地域・住宅地域等の機能を持つ衛星都市を建設することにより既存都市圏の人口分散を推進しているが、都市圏の拡大に伴う交通渋滞の影響は、都市間交通にまで及び始めている。
同国政府は、第6次経済社会開発五カ年計画(2006年7月~2011年6月)において、運輸セクターに関して、増加する需要に対する複数の交通モードによる効率的な対応を基本方針の一つとし、その中でカイロ都市圏における地下鉄の増強への取組が打ち出された。また、2007年に住宅・公共施設・都市開発省国土開発計画庁により作成されたカイロ・ビジョン2050においては、大カイロ都市圏の交通モードの拡充に向け15路線の地下鉄整備構想が提案され、三号線及び四号線については、カイロ都市圏の交通手段拡充に向けて特に緊急性の高い事業と位置付けられている。さらに、2016年2月に発表された2030年までの長期開発戦略である「持続可能な開発戦略2030(Sustainable Development Strategy2030)」においては、2030年までの持続可能な経済成長を達成するための運輸セクターの課題として、公共交通網の不足から引き起こされる交通渋滞が挙げられており、こうした課題解決のためのメガプロジェクトの一つとして、カイロ地下鉄四号線の建設が位置付けられている。
以上のことから、同国において増加する交通需要への対応と深刻化する交通渋滞の緩和に寄与する本計画は、同国の開発ニーズに合致するものと考える。 - イ
- 我が国の基本政策との関係
我が国は対エジプト国別開発協力方針(2020年9月)において、三大重点分野の一つとして「持続的成長の促進」を掲げており、「経済・社会インフラ整備」を開発課題の柱の一つと位置付けている。かかる方針に基づき、これまでに、「大カイロ都市圏総合交通計画調査」(2002年)、「大カイロ都市圏持続型都市開発整備計画調査」(2007年)、「全国総合運輸計画策定調査」(2012年)などの開発計画全体に対するマスタープラン策定のほか、「カイロ都市有料高速道路事業化のための運営資金計画」(2005年)、「カイロ都市有料高速道路優先整備区間F/S調査」(2007年)、「カイロ地下鉄4号線整備事業準備調査」(2010年)などの個別プロジェクトのF/S調査、円借款「カイロ地下鉄四号線第一期整備計画」などについて支援を実施してきた。本計画は同方針に合致していることに加え、2016年2月の首脳会談で発表された日エジプト共同声明にて言及のあった運輸・交通分野での協力を象徴する事業に位置づけられるものであり、またSTEP条件を適用した円借款であることから、確実に日本企業に受注の機会が与えられる案件である。以上の理由から本計画への円借款による支援は我が国の外交政策上の観点からも重要である。
また、本計画は、SDGsゴール9(強靭なインフラの構築)、ゴール11(包摂的、安全、強靭で、持続可能な都市と人間住居の構築)及びゴール13(気候変動対策)にも貢献すると考えられることから、事業の実施を支援する必要性は高い。
(2)効率性
工期の遅延、事業費の増加を防止する方策を講じるため、本計画の路線内に、寺院などの動かすことのできない地下埋蔵物が存在しないことを事前調査により確認している。また、水道管網や電線網が複雑に埋設され、古代・中世の遺跡に遭遇する可能性もあるカイロの地下鉄建設に最適なトンネル工法として、必要最小限の掘削によりトンネルを建設できるシールド工法を採用することとしている。
(3)有効性
本計画の実施を通じ、本計画完成2年後の2030年には、一日396本の地下鉄の運行が可能となり、本事業で整備する始点・終点間を30.5分で異動できるようになる。
またカイロ都市圏における交通渋滞の緩和、モーダルシフトによる交通公害・大気汚染の緩和、移動の定時性確保による利便性の向上、カイロ都市圏の経済発展、気候変動の緩和効果が期待される。
3 事前評価に用いた資料、有識者等の知見の活用
要請書、JICAガイドライン、その他JICAより提出された資料。条件に関する情報は、交換公文締結後公表される外務省の約束状況に関する資料及び案件概要、借款契約締結後公表されるJICAのプレスリリース
及び事業事前評価表
を参照。
なお、本計画に関する事後評価は実施機関であるJICAが行う予定。