ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
令和4年8月12日
評価年月日 令和4年7月20日
評価責任者 国別開発協力第一課長 竹端 昌宏
1 案件概要
(1)供与国名
カンボジア王国(以下、「カンボジア」という。)
(2)案件名
シハヌークビル港新コンテナターミナル拡張計画(第一期)
(3)目的・事業内容
本計画は、カンボジア唯一の大水深港であるシハヌークビル港において、新コンテナターミナルを拡張することにより、同港のコンテナ貨物取扱容量の向上を図り、もって同港に寄港する航路数の増加及び同国の貿易促進に寄与するもの。なお、本計画は第一期事業として2027年12月までの資金需要に対応するもの。
- ア
- 主要事業内容
- 土木工事(新コンテナターミナルの第2及び第3ターミナルの整備、航路・泊地の浚渫等)
- 荷役機械等の調達・据付
- コンサルティング・サービス
- イ
- 供与条件
供与限度額 金利 償還(うち据置)期間 調達条件 413.88億円 0.75% 30(10)年 アンタイド - (注)コンサルティング・サービス部分は金利0.01%を適用
(4)環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点
- ア
- 環境影響評価(EIA)
本計画は、「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン」(2010年4月制定、以下「JICAガイドライン」という。)に掲げる港湾セクターのうち大規模なものに該当せず、環境への望ましくない影響は重大でないと判断され、かつ、JICAガイドラインに掲げる影響を及ぼしやすい特性及び影響を受けやすい地域に該当しないため、カテゴリBに分類される。 - イ
- 住民移転
本計画は、コンテナターミナルの整備に伴う既存防波堤の撤去により、同防波堤を利用している養殖業者のうち、21世帯の非自発的住民移転を伴うことから、カンボジア国内手続及びJICAガイドラインに沿って作成される住民移転計画に従って移転が進められる。なお、被影響住民から本事業及び移転に係る特段の反対意見は出ていない。 - ウ
- 外部要因リスク
特になし
2 資金協力案件の評価
(1)必要性
- ア
- 開発ニーズ
カンボジアでは、近年の急激な経済成長に伴い、同国唯一の大水深港であり、カンボジア輸出入コンテナ貨物の7割程度を取り扱っているシハヌークビル港のコンテナ貨物取扱量の将来需要は、2026年~2027年に120万TEUに達し、既存のコンテナターミナルと2025年に供用開始を予定している新コンテナターミナルの第1ターミナルの合計容量に達するものと予想されている。その後も取扱容量の逼迫が懸念されることから、新コンテナターミナルの第2及び第3ターミナルの整備並びに荷役機械の調達等を行うことで、同港のコンテナ貨物取扱容量を早急に向上させることが必要となっている。また、本計画により大型船が着岸可能な延長及び水深を備えた岸壁等を整備することで、コンテナ貨物取扱量に占める割合の大きい北米・欧州地域からの大型船の直行輸送を実現し、同国の貿易促進及び投資環境の向上を図ることをカンボジア政府は期待している。加えて同国政府は、国家開発計画「第4次四辺形戦略(2018~2023)」の中で、「物流システムの向上及び輸送、エネルギー、デジタル分野での連結性向上」を重要項目として位置付けており、本計画はこれらの開発政策とも合致する。
(注)TEU:海上コンテナの貨物量を表す単位であり、1TEUは、20フィートコンテナの1個分を表す。 - イ
- 我が国の基本政策との関係
2017年7月に策定した我が国の対カンボジア国別開発協力方針では、(1)産業振興支援、(2)生活の質向上、(3)ガバナンスの強化を通じた持続可能な社会の実現を重点分野としている。本計画は、新コンテナターミナルを拡張することにより、シハヌークビル港のコンテナ貨物取扱容量の向上を図り、もって同港に寄港する航路数の増加及び同国の貿易促進に寄与するものであり、特に重点分野(1)の方針に合致するとともに、 SDGsゴール 9「強靭なインフラの構築、包摂的で持続可能な産業化促進とイノベーション育成」にも貢献するものである。
また、太平洋とインド洋を結ぶ結節点に位置し、地政学的に重要な同港を整備することは、貿易の拡大や連結性の向上を通じて、同国の政治・経済的な安定のみならず、アジア地域の安定と繁栄にも寄与し、「自由で開かれたインド太平洋」の実現を後押しするものである。
さらに、カンボジア全体の経済発展を支える同港に対しては、円借款によるコンテナターミナル整備のみならず、技術協力等を活用した港湾拡充計画の策定や運営効率化等への協力など、各スキームを通じて継続的に協力してきている。こうした協力を通じて、同港は日本・カンボジア間の友好関係を象徴する港となっており、本計画で更なる港湾施設の拡充を支援することで象徴的位置付けを確固たるものにできる意味からも、本計画実施の外交的意義は大きい。
(2)効率性
有償資金協力専門家「港湾運営アドバイザー」(2009~2024年)により、累次にわたりシハヌークビル港湾公社(PAS)に専門家を派遣し、港湾運営及び円借款事業の監理・促進等に係る助言を行っている。また、円借款附帯プロジェクト「シハヌークビル港コンテナターミナル経営・技術向上プロジェクトフェーズ3」(2022~2026年)では、実施機関であるPASによるコンテナターミナル及び隣接する経済特区の運営・管理能力の更なる強化を図る予定である。これらの事業と併せて本件を実施することで、港湾施設の拡充及び運営効率化を総合的に協力し、同港の競争力強化が期待される。
(3)有効性
本計画の実施により、事業が完成する2年後(2031年)には、2021年比で以下のような成果が期待される。
- ア
- 定量的効果
- (ア)コンテナターミナルでのコンテナ貨物取扱量(TEU)が、730,000TEU/年から1,700,000TEU/年へ増加する。
- (イ)年間の平均バース占有率が、62%から60%となる。
- (ウ)入港船舶の最大載貨重量トン数(DWT)が、26,000DWTから160,000DWTへ増加する。
- イ
- 定性的効果
北米・欧州航路を含むシハヌークビル港に寄港する航路数の増加、カンボジアの貿易促進が期待される。
3 事前評価に用いた資料、有識者等の知見の活用
要請書、カンボジア国別評価報告書(2017年度・第三者評価))、JICAガイドライン、その他JICAから提出された資料。 案件に関する情報は、交換公文締結後に公表される外務省の約束状況に関する資料及び案件概要、借款契約締結後に公表されるJICAのプレスリリース
及び事業事前評価表
を参照。 なお、本案件に関する事後評価は実施機関であるJICAが行う予定。