ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
令和4年4月8日
評価年月日 令和4年2月7日
評価責任者:国別開発協力第一課長 竹端 昌宏
1 案件名
1-1 供与国名
フィジー共和国(以下、「フィジー」という。)
1-2 案件名
タマブア・イ・ワイ橋架け替え計画
1-3 目的・事業内容
本事業は、首都スバ市郊外の最重要幹線道路にかかるタマブア・イ・ワイ橋を架け替えることにより、自然災害に対する基幹道路の強靭性の強化を図り、もって安全で安定した交通の確保、輸送力強化及び交通安全を通じたフィジーの気候変動対策に寄与するもの。
供与限度額は29.31億円。
1-4 環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点
本事業は、JICA環境社会配慮ガイドライン(2010年4月制定)におけるカテゴリはBであり、環境への望ましくない影響は重大でないと判断される。
2 無償資金協力の必要性
2-1 必要性
- (1)フィジー(一人当たり国民総所得4,890ドル)は、OECD開発援助委員会(DAC)の援助受取国リスト上、高中所得国に分類される。
- (2)国連大学の世界リスク報告(2020年度)によれば、フィジーは世界171か国中、災害リスク指標が15位と高く、たびたびサイクロン被害に見舞われ、2016年2月に発生したサイクロン・ウィンストンではGDPの約30%に及ぶ被害があった。また、国内の約1,250の橋梁の多くは老朽化が進んでおり、予算措置を含めた架け替えが必要となっている。
- (3)フィジー最大の島であるビチレブ島の東西を結ぶクイーンズロードは、1975年に建設され、生活物資輸送のために重要な島内で唯一の大型車両が通行可能な幹線道路であり、1日に約21,000台の車が往来している。フィジーの経済活動を担っている同道路にかかるタマブア・イ・ワイ橋(橋長90メートル)は、過積載車両による路面及び構造物の損傷に加え、塩害や上述のサイクロン来襲時の流木等により橋脚に深刻な損傷を受けている。同橋は、応急修理は随時行われているものの根本的な修復には至っておらず、勢力の強いサイクロン来襲時等には崩壊する恐れもある。このため、同橋では通常時速50キロメートルの通行速度が時速30キロメートルに制限されており、これに起因する渋滞により、基幹道路における旅客及び貨物の移動に支障をきたしている。加えて、車線幅、歩道幅は狭く、交通安全対策として橋梁部の拡幅が求められており、架け替えが喫緊の課題となっている。
- (4)こうした状況下、フィジー政府は「国家開発計画(20-Year National Development Plan 2017-2036)」においてインフラ部門を優先部門の一つとしている。本事業は同橋を拡幅し、架け替えを行い、自然災害に対する基幹道路の強靭性の強化を図り、生活物資の輸送路を確保することで同国の生活の安定を図るものであり、同計画の推進につながるものとして位置付けられる。また、2019年5月、我が国関係省庁局長級から構成される太平洋島嶼国協力推進会議において「今後の対太平洋島嶼国政策に関する方向性」が発表され、連結性強化及び防災、災害対処・復旧・復興に係る支援が具体的な取組として掲げられたこと、対フィジー国別開発協力方針(2019年4月)において、重点分野「経済発展に向けた基盤整備」の中で、運輸・交通に係るインフラ整備支援が掲げられていること、2021年7月に開催された第9回太平洋・島サミットにおいて、対太平洋島嶼国支援の今後3年間の重点分野に「気候変動・防災」及び「持続可能で強靭な経済発展の基盤強化」が含まれていることから、本事業はこれらの方針にも合致するとともに、陸上交通網の整備による連結性の強化の観点から、「自由で開かれたインド太平洋」における経済的繁栄の追求にも資するものである。さらに、本事業はSDGsゴール3(健康と福祉)、ゴール9(強靭なインフラの構築)及びゴール13(気候変動とその影響への緊急の対処)にも貢献するものである。 加えて、フィジーはこれまで国際社会において我が国の立場を支持するなど、我が国と重要な協力関係にあり、本事業はフィジーとの二国間関係強化において大きな外交的意義を有する。
- (5)フィジーの所得水準は相対的に高いことから、「所得水準が相対的に高い国に対する無償資金協力の効果的な活用について」に基づき、無償資金協力の供与の適否について精査が必要である。同国は、毎年サイクロンや大雨・高潮等による被害が頻発しており、気候変動や自然災害に対する脆弱性を抱えている(「環境的脆弱性」)ことに加え、330の島々から構成される島嶼国であるため、離島にとっては国内市場でさえアクセスが悪く、国全体としても国際市場から地理的に遠いなど、経済的にも脆弱である(「経済的脆弱性」)。また、気候変動対策や防災など、先進国と途上国が共に取り組むべき地球規模の課題への対応として、我が国にも応分の貢献が求められている(「地球規模課題への対応」)ため、本事業は、無償資金協力による実施が適当である。
2-2 効率性
本事業では、フィジーにおいて増大する気候リスクに対応するため、想定暴風雨に耐えうる橋長拡幅、道路改修工事の必要性等を協力準備調査において確認し、設計等に反映させているが、橋梁形式の選定においては安全性や施工性、経済性を含め総合的に優れた最適案であるPC3径間連結ポストテンション方式スラブ桁橋を採用したほか、護岸形式の選定においては経済性に優れるかごマットを採用するなど、効率的に形成されている。
2-3 有効性
本事業の実施により、2018年の実績値を基準値として、事業完成3年後の2027年には、主に以下のような成果が期待される。
- (1)定量的効果
- ア タマブア・イ・ワイ橋における交通量が、21,414(台/日)から29,500(台/日)に増加する。
- イ 同橋における輸送量(旅客数)が、25,998,000(人/年)から37,236,000(人/年)に増加する。
- ウ 同橋における輸送量(貨物量)が、4,378,000(トン/年)から4,641,000(トン/年)に増加する。
- (2)定性的効果
- ア 災害発生時にも円滑な物流・人の往来が確保され、当国の持続的経済発展に寄与する。
- イ タマブア・イ・ワイ橋におけるこれまでの片側1車線による対面交通が解消され、上り及び下りで別個に片側2車線の車道が整備されることにより交通の安全が向上する。
3 事前評価に用いた資料及び有識者等の知見の活用等
- (1)フィジー政府からの要請書
- (2)JICA案件計画調書
- (3)太平洋島嶼国のODA案件に関わる日本の取組の評価(2015年度・第三者評価)