ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
令和3年8月23日
評価年月日:令和3年8月2日
評価責任者:国別開発協力第三課長 黒宮 貴義
1 案件概要
(1)供与国名
トルコ共和国(以下「トルコ」という。)
(2)案件名
地方自治体環境改善計画
(3)目的・事業内容
トルコの公的金融機関であるイルラー銀行(Iller Bank)を通じ、シリア難民の流入により影響を受けているトルコ全土の地方自治体を対象に、社会インフラ整備に必要な長期資金を供与し、それらの整備を促進することにより、シリア難民及びホストコミュニティの生活環境の改善を図る。
- ア
- 主要事業内容
サブ・プロジェクトの実施に必要な資金の供与 - イ
- 供与条件
供与限度額 | 金利 | 償還(うち据置)期間 | 調達条件 |
---|---|---|---|
450億円 | 円6か月LIBOR+95ベーシスポイント | 25(7)年 | 一般アンタイド |
(4)環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点
- ア
- 環境社会配慮
本計画は、「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン」(2010年4月制定)(以下「JICAガイドライン」という。)上、JICAの融資承諾前にサブ・プロジェクトが特定できず、かつ、そのようなサブ・プロジェクトが環境への影響を持つことが想定されるため、カテゴリFIに該当するが、サブ・プロジェクトの選定にあたっては、イルラー銀行がJICAガイドラインに基づき、各サブ・プロジェクトについてカテゴリ分類を行い、該当するカテゴリに必要な対応策を講じることとしている。なお、サブ・プロジェクトにカテゴリA案件を含めないことについて、イルラー銀行と合意している。 - イ
- 外部要因リスク
シリア及び周辺国の国内情勢の大きな変化によるシリア及び周辺国からの難民の更なる大量流入や新型コロナウイルス感染症(以下「COVID-19」という。)等の影響による国内経済低迷の深刻化・長期化等の結果として、シリア難民受け入れに関するトルコ政府の方針が変更等されないかについて、注視する必要がある。
2 資金協力案件の評価
(1)必要性
- ア
- 開発ニーズ
トルコ共和国は、シリア内戦が勃発した2011年以降、シリア難民を積極的に受け入れており、登録難民数は全国で約367万人と世界最大のシリア難民受入れ国となっている(トルコ内務省移民管理総局、2021年5月)。このうち約6万人(1.5%)はトルコ政府が運営する同国南東部の5県7か所の難民キャンプ内に滞在しているが、残りの360万人以上(98.5%)は、キャンプ外の全国の地方自治体に点在しており、シリア難民を受け入れている地方自治体では、難民の増加・長期滞在化に伴って必要となる上下水道や廃棄物管理等の社会インフラ整備に必要な資金の確保が急務となっている。
トルコ政府は、増加するシリア難民に対応するため、2011年10月に「外国人一時保護政策」を打ち出し、期限を設けない滞在の権利や労働許可制度の導入、教育・公共医療サービスの無償提供等、積極的な難民の受け入れ及び生活支援を行ってきた(その後、2013年4月には「外国人及び国際保護法」を制定)。また、「第11次国家開発計画(2019年~2023年)」において、生き生きとした持続可能な都市環境づくり等を重要分野に掲げ、上下水道・廃棄物管理に係る社会インフラ整備等を重視する方針を示している。他方、同国政府から地方自治体への予算配賦はシリア難民を含まない人口統計を基になされており、また、COVID-19の流行に伴う経済の停滞により税収等の増加も見込めないことから、地方自治体における社会インフラ整備に必要な資金の確保が難しい状況にある。 - イ
- 我が国の基本政策との関係
我が国は、対トルコ国別開発協力方針(2018年9月策定)において、重点分野「シリア難民対策への支援」の中で、「我が国が2016年のG7伊勢志摩サミットで表明した中東安定化支援や「難民及び移民に関する国連サミット」で表明した「人道支援と開発支援の連携」を具体化するため、難民と受入れコミュニティ双方に資する支援を行う」としており、本計画はこの方針に合致する。
また、同国は中東、欧州、アジア及びアフリカの結節点に位置し、欧州市場を始めとする周辺経済圏に向けた生産・輸出拠点として本邦企業の進出数は193社(2018年10月時点)と中東地域では比較的多く、有望市場としての潜在性を有している。
本計画は、イルラー銀行を通じ、シリア難民の流入により影響を受けているトルコ全土の地方自治体を対象に、社会インフラの整備に必要な長期資金を供与し、それらの整備を促進することにより、シリア難民及びホストコミュニティの生活環境の改善を図るものであり、世界最大のシリア難民受け入れ国である同国の財政的・社会的負担の軽減にも資する。
以上から、中東における安定した友好国である同国との間で、本計画の実施を通じて二国間関係の強化を図るとともに、同国の安定と経済の持続的成長に寄与することは、国際社会や中東地域における我が国の活動にも大きく寄与するものと期待され、外交上の意義も大きい。
(2)効率性
本計画では、地方自治体が各サブ・プロジェクトの開始前に運用・効果指標を設定し、イルラー銀行及びJICAトルコ事務所がプロジェクト進捗報告書を通じて四半期ごとにモニタリングする体制となっている。定期的なモニタリングにより、確実な事業効果の発現を目指すものであり、案件の効率的な実施が見込まれる。
(3)有効性
本計画により、シリア難民の流入により影響を受けているトルコ全土の地方自治体の社会インフラ整備を促進し、シリア難民及びホストコミュニティの生活環境の改善を図り、同国の安定と経済の持続的成長に寄与することが期待される。
3 事前評価に用いた資料、有識者等の知見の活用
トルコ政府からの要請書、JICAガイドライン、その他JICAより提出された資料。
案件に関する情報は、交換公文締結後公表される外務省の約束状況に関する資料及び案件概要、借款契約締結後公表されるJICAのプレスリリース及び事業事前評価表
を参照。
なお、本計画に関する事後評価は、実施機関であるJICAが行う予定。