ODA(政府開発援助)

令和3年1月27日

評価年月日 令和2年7月16日
評価責任者:国別開発協力第二課長 江碕 智三郎

1 案件名

1-1 供与国名

 パキスタン・イスラム共和国(以下「パキスタン」という。)

1-2 案件名

 サッカル市における気象レーダー設置計画

1-3 目的・事業内容

 本計画は、パキスタンのシンド州サッカル市において、新規気象レーダーシステムを整備することにより、パキスタン気象局の気象観測能力の向上を図り、もって同国における洪水や土石流等の自然災害による被害の軽減及び人間の安全保障の確保と社会基盤の改善に寄与するもの。
 供与限度額は、19.86億円。

1-4 環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点

  • (1)本計画は、JICA環境社会配慮ガイドライン(2010年4月制定)におけるカテゴリCであり、環境への望ましくない影響は最小限であると判断される。
  • (2)対象地域の治安が大幅に悪化しないこと。
  • (3)パキスタン国内及び南アジア地域における新型コロナウイルス感染が一定程度収束しており、事業関係者の渡航、現地滞在に支障がないこと。

2 無償資金協力の必要性

2-1 必要性

  • (1)パキスタン(一人あたり国民総所得(GNI)1,580ドル)は、OECD開発援助委員会(DAC)の援助受取国リスト上、低中所得国に分類されている。
  • (2)同国は、自然災害の多発国であり、北部に8,000メートル級の山々がそびえ、国土の中央をインダス川が縦断しているという地理的特徴により、大雨による洪水や鉄砲水、地滑り等が発生しやすい。特に、モンスーン期には北部で降った大雨に加え、中部スライマーン山脈地域で発達する積乱雲による大雨が河川の中・下流域に流入し、サッカル市の位置する同国中部や南部地域の洪水や土石流の規模を増大させ、人的及び経済的被害が年々増大している。これらの被害により、同国の社会経済発展には深刻な停滞が生じており、被害軽減のための対策が喫緊の課題となっている。
  • (3)同国政府は、2005年に発生した北部大地震を契機に、国家防災令の公布、国家防災庁(National Disaster Management Authority:NDMA)の設置、我が国の技術協力による支援を得た「国家防災計画」の策定等、国を挙げて防災強化を行ってきた。こうした中、自然災害による被害を軽減するために、パキスタン気象局(Pakistan Meteorological Department: PMD)の観測能力を向上させ、自然災害の危険の予測と予警報を更に迅速に適時・適所へ配信することが強く求められており、そのためには気象レーダー、気象・雨量観測所等の機材・施設の整備及び気象局の気象観測・予報能力の更なる強化が必要となっている。現在、我が国の無償資金協力や他ドナーの支援により、各所で気象レーダー整備等の支援が実施されているが、カラチとムルタンの間の中部・南部地域には、気象レーダーの観測範囲外の地域が存在しており、同国の気象観測・予報能力を必要なレベルにするためには、同地域をカバーする気象レーダーの設置が必要となっている。
  • (4)本計画は、カラチとムルタンの間に位置するサッカル市に新たな気象レーダーを設置することにより、レーダー観測空白地域を補完し、国土の約9割を観測範囲とする気象レーダー観測網を構築することを通じて、国民に対し、精度の高い気象観測データの安定的な提供が可能となり、年々増大する中部・南部地域の洪水や土石流等の自然災害による被害の軽減に資するものである。
  • (5)また、本計画は、同国の開発課題・開発政策に合致し、我が国の対パキスタン国別開発協力方針における重点分野の一つである「人間の安全保障の確保と社会基盤の改善」にも合致する。さらに、SDGsゴール11(包摂的、安全、強靭な都市及び人間居住の構築)及びゴール13(気候変動とその影響への緊急の対処)の達成にも貢献するものである。
  • (6)同国は、アジアと中東の接点に位置するという地政学的重要性を有するとともに、テロ撲滅に向けた国際社会の取組において重要な役割を担っている。このため、同国の安定的な発展は、アフガニスタンを始めとする周辺地域、ひいては国際社会全体の平和と安定に資する点から極めて重要である。2015年の第三回国連防災世界会議の際に発出された「仙台防災協力イニシアティブ」において、我が国は防災先進国として、途上国に対する防災分野でのハード及びソフト面での協力を行うこととしており、頻発する洪水災害に対する同国の強靱性の向上に貢献する本計画は、これらを具体化するものである。
  • (7)以上の観点から、同国の気象観測能力向上を通じた人間の安全保障の確保と社会基盤の改善に資する支援を行い、同国の安定的かつ持続的な社会の構築の達成に貢献する本計画の実施は、開発協力としての必要性及び外交的意義が高い。

2-2 効率性

 サッカル市の気象レーダー観測所に新規配置予定の技術職員の多くは、気象レーダー全般に対して経験が不十分なことから、本計画において、気象レーダーメーカー技術者による初期操作指導だけではなく、コンサルタントによる実機を活用した現地研修を主体としたソフトコンポーネントを通じて、運用・維持管理に係る体制及び能力強化を図ることとしている。また、パキスタン全体としてより精度の高い気象予報を可能とするため、我が国による同国に対する他の関連支援と連携する。

2-3 有効性

 本計画の実施により、2019年の実績値を基準値として、事業完成3年後の2026年の目標値と比較すると、以下のような成果が期待される。

  • (1)定量的効果
     災害対策機関等に提供される気象情報の観測密度が、平均88キロメートルメッシュ(注)から、1キロメートルメッシュに向上する。
    (注)観測対象地域を正方形に区切った最小観測範囲の単位。メッシュが小さいほど、観測対象地域の観測データ数が増加し、より緻密な観測が可能となる。
  • (2)定性的効果
     災害対策機関(国家防災庁等)、マスメディア及び主要空港に対する正確な情報提供を通じ、同災害対策機関の適時適切な対応により、災害被害及び被害者数が減少し、主要空港の安全な運航の確保につながり、社会基盤が改善される。

3 事前評価に用いた資料及び有識者等の知見の活用等

  • (1)パキスタン政府からの要請書
  • (2)パキスタン国別評価(第三者評価)報告書(2014年度)
  • (3)JICA協力準備調査報告書(JICAを通じて入手可能)
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